第93回 2015年6月2日 「漆と木が生み出す琥珀(こはく)色の輝き~岐阜 飛騨春慶~」リサーチャー: ともさかりえ
番組内容
今、手作り弁当を楽しむ人たちから料理を引き立てる「ワンランク上のアイテム」として熱い注目を集めているのが、岐阜・高山市で作られる漆器「飛騨春慶」のお弁当箱。コハク色の上品な輝きと、光沢の奥に浮かぶ美しい木目が魅力だ。優美な曲線を作る木地師や繊細な塗りをほどこす塗師(ぬし)のワザに迫るのは、女優・ともさかりえ。さらにベテラン職人が作るユニークなコップや、伝統をアレンジした「忘れな盆」を徹底リサーチ!
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A201506021930001301000 より
会社員で、『四季をたのしむ 丸の内弁当』という本を出されている丸の内で働くOLの柚木涼子さんにとって1日で至福な瞬間は作ったお弁当を詰める時。
そんな柚木さんは、「飛騨春慶」のお弁当箱を愛用しています。
岐阜県高山の伝統工芸品「飛騨春慶塗」は、秋田県能代市の「能代春慶」(のしろしゅんけい)、茨城県東茨城郡城里町粟の「粟野春慶」(あわのしゅんけい)と並び、「日本三大春慶塗」のひとつとして古くから知られています。
木目の美しさをそのまま活かした透明感のある塗りが、他の漆器とは異なる「飛騨春慶塗」の最大の特徴です。
昭和50(1975)年に、当時の通産大臣(現在の経済産業省)から「伝統的工芸品」として第一次指定を受けました。
「飛騨春慶」は、一般的な漆器と異なり、塗られた漆越しにでもはっきりと分かる木目の美しさが1 番の魅力です。
ひとつの作品が仕上がるまでには、「木地師」(きじし)と「塗師」(ぬし)の職人の丹念な手作業によって生み出されます。
そんな「飛騨春慶」が、料理を引き立てるアイテムとして、今人気を集めています。
1.木地師(「木地工房 西為」3代目・西田恵一さん)
岐阜・高山市は古来より漆器作りが盛んで、「木地師」(きじし)と「塗師」(ぬし)合わせて30から40人くらいの職人が「飛騨春慶」づくりに携わっています。
西田恵一さんは、「西田木工所」(現「木地工房きじこうぼう 西為にしため」)の三代目の木地師です。
昔から、「飛騨春慶」の職人は、「木地師」(きじし)と「塗師」(ぬし)に分かれて製作してきました。
「木地師」(きじし)は、材料となる木材を仕入れて様々な技法で作品の形に仕上げところまでを担当し、「塗師」(ぬし)は木地師から預かった作品に漆を施し、完成させるまでを担当します。
それを「問屋」が引き取って販売します。
木地師の西田さんの仕事は、まずは木の選定から始まります。
材料となる杉や檜を見て、節が入っていないか、長さ、幅は木地に適しているかなどを見極めて仕入れをします、それを製材所で挽いてもらい、2年程天然乾燥させ、木材の動きを安定させてから使用します。
こうして板を熱湯に浸すと、驚くほどしなやかに曲がります。
ただ熱過ぎるとアクが出過ぎてしまうので、湯加減は極めて重要だそうです。
その後、「コロ」と呼ばれる円形の型に沿って力加減を調整しながら曲げて、「ツカミ」と呼ばれる道具で固定します。
重ね合わせた部分をニカワで接着し、数日乾燥させます。
専用の万力で固定したら、「目刺し」という手製の道具で重なった接着部に体重をかけながら一つ一つ細く等間隔に穴を開けていきます。
山桜の皮を薄く削いで短冊状にした桜樺皮を、板の接着部に開けた穴に縫い合わせるように通していきます。
桜樺皮は接着部を補強するだけでなく、絶妙なアクセントにもなっています。
最後に隙間が出来ないように、カンナで繊細に調整された底板をはめ込んで仕上げました。
木地工房 西為 岐阜県高山市大新町2丁目198
2.塗師の阿多野一夫さん
「阿多野春慶」(あたのしゅんけい)の阿多野一夫さんは「飛騨春慶塗」を始めて半世紀超という、ベテラン伝統工芸士の塗師です。
阿多野さんは砥粉を塗って拭き取る「目留め」をした後、木地に食紅で着色します。
次に台所で、水でふやかした大豆をミキサーにかけて濾した「豆渋」(まめしぶ)という搾り汁を木地に数回塗って薄い膜を作ります。
この工程を省いてしまうと漆を塗った時に木地が黒くなり、美しい木目が出ないのだそうです。
次いで、生漆(きうるし)にえごま油を混ぜ合わせたものを木地に摺込み、布で拭き取ったらまた、漆を木地に染み込ませます。
何度も繰り返すうちに、艷やか光沢にしてきます。
仕上げに「透き漆」という透明度の高い漆をムラが出ないように慎重に上塗りしたら「ふろ」という大きな戸棚のような乾燥室に入れたら、適切な湿度と温度を保って乾燥させて「飛騨春慶」が出来上がります。
飛騨の漆は、縄文の頃より暮らしに活かされてきましたが、近年では山に入って漆を採る「掻き子」がいなくなったことから、
漆の木が育たず、別の産地や外国産に頼っています。
平成28(2016)年より高山市と飛騨春慶連合共同組合により「飛騨漆」の山整備計画が行われています。
阿多野さんもこれに参加し、自らが山に入り森の手入れや漆掻きの講習を受け、100%飛騨の木材と「飛騨産漆」を使った作品を目指しています。
3年を経て、ウルシオール値の高い良質な漆を採取出来るようになってきました。
阿多野春慶 高山市七日町1丁目30
3.木地師・大前 弘文さん
「飛騨春慶」は江戸時代初期の慶長年間に、高山城下で社寺の造営に当たった名工・高橋喜左衛門がある日打ち割った椹さわら(ヒノキ科)の割目の美しさに心打たれ、その木で盆を作り、高山藩主・金森重頼の兄・宗和に献上しました。
その盆を気に入った宗和が、塗師の成田三右衛門に盆を塗り上げさせたところ、その色目が加藤景正の名陶「飛春慶の茶入」に似通っていたところから「春慶塗」と名付けられ、将軍家に献上されたと伝えられています。
木目の美しさと琥珀色の輝きが藩で奨励され、江戸時代半ばから庶民も手にするようになり、職人が技を競い合って産業としても発展しました。
大前弘文さんは、「籠目」(かごめ)という格子状の模様を生み出した名人です。
大前さんは昭和29(1954)年より製作を続けている大ベテランで、平成25年には伝統工芸士に指定されています。
厚さ2㎜の檜の板上に手作り定規を扇形に配置し、定規に沿って絶妙な力加減で小刀で格子状の模様をつけていきます。
次に「コロ」という道具で板を曲げて、板を型にはめて曲げると、外側に美しい「籠目」が浮かび上がりました。
大前さんは、平成25(2013)年には「岐阜県卓越技能表彰」、平成26(2014)年には「飛騨高山の名匠認定」、平成31(2019)年度の春の叙勲で「瑞宝単光章」を受章されました。
4.nokutare(ノクターレ)(「TS産業」代表・塩谷英雄さん)
高山市は飛騨地方の中心として、様々な伝統技術が受け継がれています。
中でも漆塗りの「飛騨春慶塗」と彫刻の「一位一刀彫」は、豊富な木材を利用した、飛騨を代表する匠の技として知られています。
家具製造の「TS産業」の代表・塩谷英雄さんは、オリジナルブランド「nokutare」(ノクターレ)を立ち上げて「一位一刀彫」「飛騨春慶」といった伝統工芸と「木工」を組み合わせた新しいスタイルの製品づくりにチャレンジしています。
「Nokutare」(ノクターレ)とは、「のくたい」(飛騨の方言で「温かい」)と、「インヴェンターレ」(イタリア語で「創り出す」)を組み合わせた造語で、「温もりを創り出す」ことをコンセプトとしたブランドです。
「一位一刀彫」「飛騨春慶」といった伝統工芸に現代的なデザインに取り入れ、シンプルな中にも確かな技と木の温もりが生きる、毎日の生活に取り入れやすい製品を作っています。
ショールームには、飛騨春慶の名刺入れ「木の名刺入れ」、フラワーベース、スマホケースといった製品が陳列しています。
「忘れな盆」とは、メガネ、時計、携帯、鍵、財布など、忘れそうなモノを置くお盆として江戸時代から作られていたものです。
Nokutareの「携帯忘れな盆」は、凹形状トレー部にメガネや鍵など小物を置くことも出来るのですが、本体の携帯スタンド凹部にiPhoneを差し込めば、iPhoneの内蔵スピーカーより木の持つ特徴である「ぬくもりある」音を響かせることが出来ます。
「ヒダノオト」は、楽器にも使われる楓(かえで)を主に耳に当たる部分には肌触りの優しい檜(ひのき)を用いた木製ヘッドホンです。
木の反響を活用することで上質なサウンドを楽しむことが出来ます。
TS産業 岐阜県高山市清見町三日町82
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin/Gifu/Takayama/Hidashunkei より