ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

1994年世界はこう動く - 10 ( 学ぶべきドイツの憲法論議 )

2020-08-06 21:36:00 | 徒然の記

 AWACS ( 早期警戒管制機 )・・エーワックスと読むそうですが、シュテント氏の論文で初めて知りました。ネットで調べますと、次のように説明されています。

 「早期警戒管制機とは、軍用機の一種」「大型レーダーを搭載し、一定空域を監視し、敵性・友軍の航空機などの空中目標等を探知・追跡する。」

 「なおかつ、友軍への航空管制や指揮・統制を行う機体である。」「空中警戒管制システムや、空中警戒管制機とも呼ばれる。」

 AWACS機のパイロットには、飛行禁止区域を侵犯した飛行機を、撃墜する任務が課せられているそうです。

 「NAT0軍のAWACS機の偵察飛行への、ドイツ人パイロットの搭乗問題は、」「新たな国際的役割をめぐる、ドイツ社会へ、」「深い亀裂を生じさせた。」

 ドイツの政治家の中には、これが自国の基本法 ( 憲法 ) に違反すると考える者がいます。

 「ドイツ軍は、基本法で、いかなる戦闘行為にも参加できないと定められている。」「参戦行動への参加は、基本法違反である。」

 彼らはこう主張し、作戦行動の違法性を連邦憲法裁判所へ訴えました。裁判所は、立法府自身が問題の決着をつけるまで、憲法上の判断はできないという裁定を下しました。

 これに関連する一連の動きを、氏の論文に沿って、箇条書きにしてみました。

  ・ AWACS機には、ドイツ人パイロットが乗り組んでいるが、論争はまだ収まりそうにない。

  ・ AWACS機のヨーロッパ域外での行動を巡っても、激しい論議を巻き起こしている。

  ・ 1992 ( 平成4 ) 年、コール首相はドイツ社会民主党の反対を押し切り、国連のソマリア人道作戦に、ドイツ軍を派遣する約束をした。

  ・ ソマリアの政情悪化になともない、国連のガリ事務総長が、平和維持軍への派遣を要請してきた。

  ・ 連邦議会は、「人道的支援に限る」との条件付きで、1700名の派遣を了承した。

 憲法問題に関する、ドイツの各党の主張を並べてみます。

  1. キリスト教民主同盟

  ・国連の活動は、集団的安全保障体制の枠内である。

  ・国連主導の軍事行動は、基本法に違反しない。

  2. ドイツ社会民主党

  ・平和維持のためであっても、域外での作戦行動や、犠牲者を出しかねない活動は、基本法違反である。

  ・ドイツの基本法 ( 憲法 ) 改正には、絶対反対である。

  3. 自由民主党

  ・国連の停戦監視部隊への参加のためには、基本法を変えねばならない。

 並べてみますと、わが国の自民党に相当するのが、キリスト教民主同盟で、現実を見ない反日・左翼野党に相当するのが、ドイツ社会民主党です。どっちつかずの意見を言いながら、結局は改正反対の姿勢ですから、公明党に似てい流のが自由民主党です。

 しかし1992 ( 平成4 ) 年の話で、2年後には連邦憲法裁判所と議会が、結論を出しています。

 1.  連邦憲法裁判所 ・・基本法に言う「防衛」 とは、ドイツの国境を守るだけでなく、危機への対応や紛争防止など、世界中のどこであれ、広い意味での、ドイツの安全を守るために必要な行動を指す。

 2.  ドイツ連邦議会 ・・NATO域外への派兵を認める。

 わが国のように、戦後74年かかっても結論が出せず、国の安全保障を先送りしていません。この点については、さすがドイツと敬意を表します。

 シュテント氏の「論文」の書評を、本日で終わります。日高氏の著書は、まだ125ページで、半分のところです。一時中断して、喫緊の重要事である「敵基地攻撃」についてどうしても報告したいことがあり、それを優先することにいたしました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1994年世界はこう動く - 9 ( ドイツ憲法も、軍は自衛のみと規定されていた )

2020-08-06 12:31:52 | 徒然の記

 マスコミが報道しないので、私たち日本人は、ドイツが抱えている問題について、全くと言って良いほど知りません。シュテント氏の論文で、ドイツが日本と同様の問題を有し、苦労していることを初めて知りました。

 現在のドイツには、憲法という名の法律はなく、第二次世界大戦の終了時に作られた、「ドイツ連邦共和国基本法」がそれであると言います。基本法には、ドイツ軍に許されている活動は、「防衛」のみと規定されています。聞くところによりますと、この基本法の制定には、日本と同様に、当時の戦勝国アメリカが絡んでおり、「軍の活動は防衛に限定する」という規定を設けさせたようです。

 さすがのアメリカも、ドイツには憲法の押しつけをせず、条文の修正に留めていたのでしょうか。以後ドイツ軍はNAT0の一員となり、他の加盟国と共にヨーロッパ防衛の義務を負っています。ドイツの悩みが始まったのは、ソ連が崩壊し、東西冷戦が終わった時からです。

 ネットの情報を転記します。

 「しかし1990 ( 平成2 ) 年以降、国際情勢が、」「東西対立から、全体的な不安定状態へと変化し、」「ドイツ軍は、その対応が問われることになった。」「特に1991 ( 平成3 ) 年の湾岸戦争で、多国籍軍に資金面のみで参加し、」「人的参加しなかったことは、国外から批判を浴びた。」

 「1994 ( 平成6 ) 年の、連邦憲法裁判所の判例で、」「基本法の  "防衛"  とは、ドイツの国境を守るだけでなく、」「危機への対応や紛争防止など、世界中のどこであれ、」「広い意味での、ドイツの安全を守るために必要な行動を指す、」「と解釈が拡大された。」「さらに、ドイツ連邦議会の事前承認により、NATO域外への派兵が認められた。」

 湾岸戦争の時、資金提供だけをしたのは、ドイツも同じだったのです。日本が血を流さなかったと非難されていると、朝日新聞以下マスコミが、連日政府を叩いていましたが、彼らはドイツのことは国民に知らせませんでした。

 長い議論の末、その3年後、ドイツの最高裁判所と議会が、NAT0軍と共にする行動ならば、海外派兵も武器使用も可能と、拡大解釈をしています。きっとマスコミは、こういう事実を、日本国民に知らせたくなかったのでしょう。しかし私はここで、マスコミだけを批判しているのではありません。野党の政治家も、学者も、黙っていた点では同類です。それ以上に、疑問を感じるのは、保守自民党の政治家たちです。

 彼らは憲法改正を、結党以来の目的と語りますが、ならば、湾岸戦争当時のドイツの状況を、なぜ国民に知らせなかったのでしょう。東アジアにはNATOがありませんが、地域の平和を守るための日米同盟があります。集団的自衛権か、個別的自衛権かと、大騒ぎしなくとも、ドイツの事情を国民に説明すれば、「お花畑の国民」も、考え直すきっかけになったはずです。今後の憲法改正のためにも、ドイツの苦労は、大いに参考になります。

 最近、いろいろなことが判明するにつれ、日本の国益を考えていないのは、反日・野党というより、肝心の自民党ではないかと、そんな疑問が湧いてきます。

 シュテント氏の論文は、ドイツの軍事行動と基本法の関連について述べていますが、背景となる状況説明を省略していますので、そのまま引用すると、息子たちや、「ねこ庭」を訪問される方々に、正しく伝わらないのではないかと、ネットの情報を先に紹介しました。

 今回はここで一区切りとし、詳しくは次回で説明いたします。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする