ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『1994年 世界は、』 - 3 ( 辛光洙の、「助命嘆願書」 )

2020-08-30 21:54:39 | 徒然の記

 氏の本は、金賢姫 ( キム・ヒョンヒ ) のインタビューから始まります。

 昭和62年竹下内閣の時、大韓航空機爆破事件がありました。乗客乗員115名全員が死亡し、蜂谷真一、蜂谷真由美という日本人の親子が、犯人として浮かび上がりました。

 現地バーレンで警察に逮捕される直前に、二人はタバコを吸うフリをして、服毒自殺を図ります。父親が死に、服毒自殺を阻止された娘が生き残り、それがこの、金賢姫でした。

 書評から離れますが、息子たちが事件を知らないはずなので説明することにしました。このような面倒なことをする理由は、落合氏のインタビュー記事に違和感を覚えたからです。

 「韓国、国家安全企画部要員の案内で、私はソウル市内の閑静な住宅地にある、一軒の家を訪れた。」「彼女は、居間の中央に置かれた円形のテーブルのそばに立ち、私を迎えてくれた。」「濃紺のワンピースに身を包み、手にハンカチを握っている。」「笑顔が、実に寂しそうだ。」

 「その時の印象は、それまで私が抱いていたイメージとは、だいぶ違っていた。」「事件のとき、バーレンからソウル金浦空港に連行され、」「安全部の係官に、抱えられるようにタラップを降りた時の彼女は、」「捕らえられたケモノのような脅えと、疲労感を漂わせていた。」

 「しかし目の前に立った彼女は、全く別人だった。」「顔は小さく、両腕は細く、体全体がきゃしゃと言えるほど細身だ。」「その目は深い憂いをたたえながらも、落ち着き払っている。」「深窓の令嬢といったところだ。」「朝鮮労働党調査部の、超エリート工作員という、かっての面影は微塵もない。」

 彼女は元死刑囚で、日本人の旅券を持ち日本人になりすまし、残虐な犯罪を日本人の仕業と見せかけるため、韓国警察を欺き続けた犯罪者です。しかるになぜ落合氏は、彼女に好意的な叙述をするのか、これが私の受けた違和感です。

 彼女は拉致被害者の一人である、田口八重子さんから日本語の教育を受け、横田めぐみさんとも会ったと語ります。拉致被害者の救出が進まないから、情報を得るため、優しく接したということなのでしょうか。

 事件当時、まだ二大政党の一角にいた社会党と、社民連が、「拉致問題」を頭から否定し、北朝鮮を誹謗する捏造だと反論していました。日本人拉致の中心人物だった、北の工作員・辛光洙(シン・グァンス) が韓国で逮捕され、死刑判決を受けた時、野党議員の多くが韓国政府に、「助命嘆願書」を送っています。総理大臣になった、菅直人氏もその一人です。

 今は拉致が、北朝鮮の犯罪だと知られていますが、当時の野党は北朝鮮を向き、日本を糾弾していました。救出を叫んでいる自民党も、本気で取り組んでいるとは思えませんでした。

 書評と無関係ですが、参考のため、「嘆願書」の文面と、署名した議員の名前を紹介しておきます。このおかげで辛光洙は北朝鮮へ帰国し、英雄として扱われました。
 
 《 「在日韓国人政治犯の釈放に関する要望」  》

 「私どもは、貴国における最近の民主化の発展、とりわけ相当数の政治犯が、自由を享受できるようになりつつあることを多とし、」「さらに、残された政治犯の釈放のために、貴下が一層のイニシアチブを発揮されることを期待しています。」
 
 「在日関係のすべての『政治犯』と、その家族が希望に満ちた報せを受け、彼らが韓国での社会生活におけるすぐれた人材として、また、日韓両国民の友好のきづなとして働くことができる機会を、与えて下さるよう、ここに心からお願いするものであります。」

    1989年 大韓民国 盧泰愚大統領貴下
                          日本国国会議員一同   
 
 《 嘆願書に署名した国会議員名  》
 
   土井たか子  衆議院 社民党 兵庫7区 (日朝友好議連)
   菅直人    衆議院 民主党 東京18区
   田 英夫    参議院 社民党 比例 (日朝友好議連)
   本岡昭次   参議院(副議長) 民主党(元社会党) (2004年引退)
   渕上貞雄   参議院(社民党副党首) 社民党 比例 (日朝友好議連)
   江田五月   参議院 民主党(元社民連) 岡山県
   佐藤観樹   衆議院 民主党(元社会党) 愛知県 (2004年辞職 詐欺容疑で逮捕)
   伊藤忠治   衆議院 民主党(元社会党) 比例東海
   田並胤明   衆議院 民主党(元社会党) 比例北関東
   山下八洲夫  参議院 民主党(元社会党) 岐阜県 (日朝友好議連)
   千葉景子   参議院 民主党(元社会党) 神奈川県
   山本正和   参議院 無所属の会 比例 (社民党除名)(日朝友好議連)
                                

 スペースがなくなりましたので、本日はこれまでとし、次回はインタビュー内容を報告します。

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『1994年 世界は、』 - 2 ( ミルフォード氏と落合氏 )

2020-08-30 14:40:50 | 徒然の記

 自分の知らないことを教えてくれる人は、皆私の先生ですと、いつも言っています。それでいきますと、落合氏は間違いなく、私の師です。

 韓国、北朝鮮、中国、台湾、マレーシア、カンボジア、オーストラリア、ドイツ、フランス、イタリアと、政治や経済や政治家たちの人物像について、眼から鱗の事実を語ってくれます。率直な意見は分かりやすく、大胆でもあり、読者は心を奪われます。息子たちのため、具体的な例を紹介し、一緒に考えてもらいたいと思います。159ページ、「イタリアの巨大汚職」に関する説明です。

 「イタリアというと、すべてにわたってデタラメで、無秩序というイメージがつきまとうが、」「経済面を除くと、日本と酷似する点が多々ある。」

 「まず政治のいかがわしさ。」「日本では政治家が地位を利用して、金をかき集めるのが、」「半ば常識化しているが、イタリアも同じ。」「しかも賄賂の額が、比べものにならないほど高い。」

 私はこの文章を読む時、二つの思考を同時にしました。

 1. イタリアが酷いと言っても、日本と酷似しているのなら、それ程でもないではないか。

 2. イタリアが酷いと言い、日本がそれに酷似しているのなら、思っていた以上に、日本の政治家はひどいと言うことか。

 「また、マフィアと政治家の腐れ縁も、共通している。」「日本では、銀行、政治家、ヤクザが三位一体となって、」「バブル経済の美味しい部分を、食い荒らしたが、」「イタリアでは、そんなレベルではない。」「南部では、マフィアがカネで選挙民の票をかき集め、」「完全に、地域の政治・経済を牛耳っている。」

 「日本でもイタリアでも、政治の腐敗は公然の秘密で、」「それが当たり前と言う、風潮さえあった。」「日本ではいまだに巨悪が、永田町で利権漁りに精を出し、」「一部のワルは、新生党に鞍替えし、免罪符を受けたりもしている。」

 私はこの文章を目にした時、5年前に読んだ、ベンジャミン・ミルフォード氏の著作『ヤクザ・リセッション』を、思い出しました。氏はカナダ人の新聞記者で、日本の大学を卒業した人物です。ショックだったため、ブログに残していましたので、氏の文章を、再度紹介します。

 「日本は、政・官・業・ヤクザに支配された、腐敗国家だ。」「スキャンダルを通して見える日本の姿は、決して民主主義の国ではない。」「欧米のデモクラシー国家にも、腐敗はあるが、日本のように、」「北朝鮮や、イラクの独裁者と共通する腐敗は、ほとんどないと言っていい。」

 小泉総理の時代に書かれた本ですが、これは事実なのかと、首を傾げながら読みました。

 「今の日本ほど、内部に矛盾を抱えた国家はないであろう。」「もちろん、西欧の民主主義国家も、矛盾をかかえている。」「しかしそれは、自由・平等という、民主主義の原理に矛盾があるのではなく、」「原理を完全に実行できないところに、生じている問題だ。」「今のアメリカが抱えている、力こそ正義もこれである。」

 「日本の矛盾は、その腐敗構造にあって、」「それは、民主主義が機能しないところまで、きてしまっている。」「本当に国を滅ぼすのは、政治や経済ではない。為政者たちのウソや、ゴマカシである。」

 これでは、どこかの未開な野蛮国と同じです。カナダ人記者の目には、本がこのように見えているのかと、驚きと共に不快感が生じました。私が一番に感じたことは、日本人としての反省より、彼の中にある「度し難い偏見」でした。日本に留学し、学生生活を経験していながら、それでもこうした意見を述べると言うのですから、彼の経験と常識を疑いました。

 「日本政府は、これを、数十年にわたってしているのだ。」「腐り切った官僚組織と、ゾンビ企業群が、ヤクザと癒着し、」「国民を、欺き続けてきた。」「しかし自国民は騙せても、世界は騙せない。」

 ここまで言われると、怒りの気持ちしか湧いてきません。彼の文章を転記している今でも、心が騒ぎます。

 日本について何も知らない他国の人間が、彼の著作を読めば、おそらくそのまま信じます。政治家とヤクザの関係、官僚組織の腐敗など、全くの嘘ではありませんが、誇張の度が過ぎます。国民は騙されているのでなく、世界の国々と比較し、必要悪と許容しているだけの話です。ならば、カナダの政治家の実態はどうなのかと、問うてみたくなります。

 つまり私には、落合氏の文章を読んでいますと、このカナダ人記者の姿が重なってなりません。カナダ人記者ほどの無知と、厚顔と偏見はありませんが、合い通じるものを感じます。一部の事実を拡大し、それが全てでもあるような叙述は、眉に唾して読むしかありません。

 氏がそこまで日本の政界の腐敗を語るのなら、国を思うジャーナリストの一人として、もっと具体的な事実を述べるべきでしょう。巨悪は誰なのか、どんなヤクザと、どのようにつながっているのか。新生党に鞍替えし、免罪符を得た政治家とは誰なのか。

 日本の片隅で、細々とブログを綴る私でさえ、勇気を出して個人名をあげています。具代的なことや、改善策を言わず、単に抽象的な事実を並べるだけなら、それは著書を売ろうとする「金儲け主義」でしかありません。

 とは言うものの、氏は、ミルフォード氏と全く同じではありません。私の知らないことを教えてくれますし、有意義で、貴重な意見が沢山あります。日高氏の著作、『1994年世界はこう動く』と、同じ国々を対象としていますから、余計に私を啓蒙してくれます。

 感謝すべきなのに、批判を先にしてしまい、私自身が戸惑っています。「武漢コロナ」は収束せず、安倍総理が辞任して気持ちの張りが薄れていますから、氏の著書は、ちょうど良い刺激です。感謝と怒りと、めげておれない勇気など、色々とプレゼントしてくれます。

コメント (6)
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