ジョセフ・フュースミス氏の、中国関係の論文をもう少し続けます。
「最近の中国で起きている政治的変化において、漠然とはしているが、」「重要な要素は、確実に鄧小平の最後が近づいていると言う、」「意識の高まりである。」「彼の健康悪化の噂は、最近頻繁に聞こえてくるように思える。」
こう言う叙述を読んでいますと、ますます「歴史的文書」の感が強くなります。改革開放政策で中国発展の扉を開けても、天安門事件では学生弾圧に軍隊を使うなど、毀誉褒貶がありますが、氏が偉大な指導者であったのは、確かな事実です。毛沢東もそうでしたが、どんなに大きな権力を手にしていても、人の命には限りがあります。
「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。 娑羅双樹の花の色、 盛者必衰の理をあらはす。 奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。」
ジョセフ・フュースミス氏は、こんなことを言いませんが、日本人である私は、どうしても平家物語の文章を、思い浮かべます。米国人である氏の頭にあるのは、中国情勢だけです。
「もう一つの闘争は、李鵬首相と朱鎔基副首相との間で起こるだろう。」「本稿の執筆時点では、李鵬は経済運営の失敗と、4ヶ月間の政治舞台からの不在により、」「明らかに傷ついた。」「これによって主導権は、朱鎔基と市場改革派の人々に移るだろう。」「これらの人々は、中国の直面する諸問題は、」「市場改革の加速によってのみ解決できると、考えている。」
「果たして朱鎔基が、党内の他の改革派指導者の協力を得て、」「清廉な政治を樹立できるかどうかに、興味が持たれる。」「役人の腐敗は、4年前の1989 ( 平成元年 ) の時よりも、」「確実に拡大し、深刻になっている。」「こうした傾向は、容易に保守派や民族派の反撃を招き得る。」
氏の予測は、1994 ( 平成6 ) 年には当たりませんでしたが、2020年の現在に的中しています。改革開放政策による役人の腐敗が、国民の不満を高まらせ、習近平氏は、「毛沢東時代」への回帰を主張しています。 彼の頭にあるのは、貧しくとも自力更生する、偉大な漢民族の毛時代です。フュースミス氏の言う、「保守派や民族派の反撃」です。
世界を敵にしても、偉大な漢民族の秩序を取り戻すと、習近平氏は考えています。南沙諸島を埋め立て、尖閣の領海を侵犯し、沖縄も尖閣も自国の領土だと言い始めました。反対する米国と日本に対し、ミサイル攻撃体制も構築しました。毛沢東時代に成功した核爆弾は、広島の原爆の60倍の威力と言われていましたが、今ではその数倍になっているはずです。「日本がアメリカに従うのなら、東京を一瞬のうちに灰にする」と、中国解放軍の将軍が脅す根拠がここにあります。
「敵基地攻撃能力」を、日本が検討するに至った遠因が、フュースミス氏の論文からも見えてきます。しかるに日本政府は、「専守防衛」の原則に立ち、日本の国防計画を進めると言うのですから、菅官房長官もお話になりません。二階、菅、石破という自民党の有力議員が、岩屋、小野寺という元防衛大臣と共に、「専守防衛」論を展開すれば、中国の思う壺です。
気がつけば、またしても話が「敵基地攻撃能力」に戻っています。フュースミス氏の論文に戻ったはずなのに、この有様です。「武漢コロナ」による外出自粛のため、心が乱れているのではありません。年金暮らしの後期高齢者であっても、国の危機には無関心で居れないということです。二階、菅、石破、岩屋、小野寺の各氏と共同通信社は、一体何を考えているのでしょう。
凶暴、残酷な、大国中国の脅威を語らず、日本国民に「座して死ぬ」ことを勧めるとは、正気の沙汰ではありません。
ジョセフ・フュースミス氏の論文は、一部分の紹介ですが、今回で終わりとします。中国問題の専門家ですから、どうしても話が「敵基地攻撃能力」につながってしまいます。次回は、228ページ、ロシア問題の専門家ミハイル・バースタム氏の論文です。というより、氏はロシア政府の顧問として、ロシア経済の立て直しに協力している学者です。
この本の編者である日高氏も、米国海軍のため、研究調査をしていますから、学者の世界は国境無しです。こういう人々には、民族も国家もなく、自分の実力だけがあるのかもしれません。世界にいろいろな人間がいると教えられますが、どんなに優秀でも、祖国を喪失した学者には、魅力を感じません。余計なことを言いましたが、バースタム氏がそういう学者だと、決めつけているわけではありません。
それはこれから、氏の意見を読んだあとの話です。「敵基地攻撃能力」の新聞記事に時間をとられ、実はまだ、氏の論文に目を通していません。このようなことは、書評のブログ開始以来、初めての経験です。共同通信社と岩屋氏の「共同捏造記事」が、どれほど私を怒り狂わせたか、息子たちに知ってもらいたいと思います。