かつて「ウィーンの三羽烏」といわれた中のひとり、マエストロD氏のレッスンを聴講してきた。
私が聴いたのは、モーツァルト&グリーグのソナタ(モーツァルトのハ短調ソナタの2台版)、ショパンのマズルカ、ベルクの歌曲だった。
それぞれの曲の詳しいレッスンがあって大変勉強になったのだが、時々におっしゃった短いことばが心に残った。ちょっと書き留めておきたいと思う。
・・・・ペダル・タッチ・スタカートなどがうまくいかないと、これはモーツァルトというバラの花についた虫のようなものになる・・・・・
・・・うまく弾けないときはまず何を考える?そう、指使いだ・・・・
・・・・手首の動きはバイオリンのボウイングと同じだ・・・・
・・・・作曲者オリジナルの楽譜の場合はどんなに難しくてもすべての音をちゃんと弾かねばならない。でもそれが編曲されたものだとしたら、さらに手を加えるのも可だ・・・・・
・・・・古典以前の作曲家は大変忙しかった。バッハは日曜ごとにカンタータを書き、ハイドンは一月ごとにシンフォニーを書いた。なので、パターンを使わないととても間に合わなかった。そのひとつがアルベルティバスだ。これそのものはおもしろくないものだから、弾く時は表情をつける必要がある・・・・・・・
・・・・高い音(たとえば右の5の指)を安定させるには、親指でオクターブをとるように弾くといい・・・・・
・・・・暗譜というのはふたつのやり方がある。ひとつは3000回も弾いて覚える方法。これはバカでもできる。もうひとつは最初から暗譜に照準を当てて練習する方法。これをやれば5ページの曲は7日で暗譜できるはず。1日目に1ページ目の指使いを決め、2日目に2ページ目の指使いを決め1ページ目の暗譜をする。そういう風にやればできるはずだ・・・・
・・・・暗譜をするのに良い方法は、とにかく人に聴いてもらうこと。そうすれば自分のなかからいろいろなものが出てくる・・・・・
・・・・・休符というのは時代で違っている。たとえばバッハが100%休むとしたら、モーツァルトは70~80%、ベートーベン初期は70~80%、後期は50%というように・・・・・
・・・ショパンのペダル記号は、出版のためにつけられたものが多く、必ずしもちゃんと書かれているとはいえない。なので、すべて自分でよく考えてつける・・・・
・・・・・スタカートは手首を上げなければならないということはない。要は鍵盤が上がればいい・・・・
・・・・小規模な曲、単純な曲はそのように弾かなければいけない(たとえば小品のリートでオペラのような歌い方はいけない)・・・・
・・・高いレベルのピアニストが技術的にそう難しくない曲を弾くときは、パーフェクトに弾かなければいけない。ミスタッチはダメだ・・・・
・・・・いろいろな作曲家の曲のなかで、動き(指や手や身体)が美しく音楽的なのは、モーツァルトとショパンだと思う・・・・・
・・・・ペダルというのは楽器によってもきく(かかる)位置が違っている。きく瞬間を確認して、いつもその位置(深さ?)で足を使うこと・・・・・・
・・・・ただ練習するのではなく、その曲特有のキャラクターをよく理解する・・・・
・・・・ミスタッチというのは3種類ある。①遠慮深く少しずつやる②無礼に派手にたくさんやる③指がはたらいてない。③の場合、特に5の指の時は、鍵盤をグイとつかみとるように弾かないと、ミスが多くなる・・・・・・
・・・・・弾きなおしをしない。伴奏の時などは大変な迷惑をかける・・・・・
・・・・・伴奏の時はとくに難しい箇所は必ず暗譜する。でないと、楽譜、手、ソリストと三者を見なければならないので弾けなくなる・・・・・
・・・・下行のときは、少しずつブレーキをかけておりる。でないと尻餅をつく・・・・
・・・・静かな箇所もきちんと指がはたらくこと。ベースは死んでもはずしてはならない。オクターブでとるとはずしにくい・・・・・
・・・・・身体をあまり動かさないほうがいい。みんなコンピュータが頭にあるわけだが、身体をふることで、その位置認識がずれる・・・・
・・・・(伴奏で)ピアノをオーケストラのように使うときは特に打鍵音が聞こえないように。押すだけ・・・・・
・・・・・三連符というのは自分が思っているよりゆっくりしているものだ(たとえばブルックナーリズム)・・・・
・・・・ピアノというのは、右の4か5でメロディー、左の4か5でベースというように、弱い指で大事なものを弾かなければならない楽器だ・・・・
D氏のリサイタルは、咳、子ども、その他の物音、すべてご法度らしいのだが、レッスンではそこまでの緊張は強いられなかった。
しかし、一回指摘したことをきちんと直さなかった場合、いきなりドイツ語の集中砲火(でも通訳の段階でかなり柔らかい表現になっていたと思われる)。
「日本人は、練習練習というが、一瞬のうちに命がけでやらなければならないこともある。たとえば私が猟銃でもって狙っているとしよう。全力で逃げるだろう!」と言ったあと、日本語で
「やれ!!」と怒鳴られた。
「次、このフレージングを間違えたら撃ち殺す」とか「あそこに吊るす」とか真顔でいっておられたから、レッスン生は相当な緊張だったことだろう。
なかなか過激だと思ったが、このフレーズ、どこかできいたことがある。
ポーランドの有名な先生(ツィメルマンの先生だった方)のレッスンを聴講したことがあるのだけれど、そのときも「今、あなたは命拾いしました。○○○~という弾き方をしたら、私はあなたを殺そうと思ってました」とこれはニコニコしながら(それもコワイ感じだが)おっしゃっていた。
どちらもかなりの高齢、そしてお元気。
「(プロというもの、またははプロを目指すなら)失敗したら殺される覚悟で弾け!」ということなのだろう、そしてその緊張感のなかでこのお年まで生きてこられたのだろうと理解した。
レッスンは個人の先生宅であったので、聴講生は数人だったが、みなさんプロとしてお顔を存知上げている方々だった。
かなり場違いだったけれど、いい経験をさせていただいた。
「自分に厳しくなれ!やれ!」というのは、ピアノに限らず、だ。
私が聴いたのは、モーツァルト&グリーグのソナタ(モーツァルトのハ短調ソナタの2台版)、ショパンのマズルカ、ベルクの歌曲だった。
それぞれの曲の詳しいレッスンがあって大変勉強になったのだが、時々におっしゃった短いことばが心に残った。ちょっと書き留めておきたいと思う。
・・・・ペダル・タッチ・スタカートなどがうまくいかないと、これはモーツァルトというバラの花についた虫のようなものになる・・・・・
・・・うまく弾けないときはまず何を考える?そう、指使いだ・・・・
・・・・手首の動きはバイオリンのボウイングと同じだ・・・・
・・・・作曲者オリジナルの楽譜の場合はどんなに難しくてもすべての音をちゃんと弾かねばならない。でもそれが編曲されたものだとしたら、さらに手を加えるのも可だ・・・・・
・・・・古典以前の作曲家は大変忙しかった。バッハは日曜ごとにカンタータを書き、ハイドンは一月ごとにシンフォニーを書いた。なので、パターンを使わないととても間に合わなかった。そのひとつがアルベルティバスだ。これそのものはおもしろくないものだから、弾く時は表情をつける必要がある・・・・・・・
・・・・高い音(たとえば右の5の指)を安定させるには、親指でオクターブをとるように弾くといい・・・・・
・・・・暗譜というのはふたつのやり方がある。ひとつは3000回も弾いて覚える方法。これはバカでもできる。もうひとつは最初から暗譜に照準を当てて練習する方法。これをやれば5ページの曲は7日で暗譜できるはず。1日目に1ページ目の指使いを決め、2日目に2ページ目の指使いを決め1ページ目の暗譜をする。そういう風にやればできるはずだ・・・・
・・・・暗譜をするのに良い方法は、とにかく人に聴いてもらうこと。そうすれば自分のなかからいろいろなものが出てくる・・・・・
・・・・・休符というのは時代で違っている。たとえばバッハが100%休むとしたら、モーツァルトは70~80%、ベートーベン初期は70~80%、後期は50%というように・・・・・
・・・ショパンのペダル記号は、出版のためにつけられたものが多く、必ずしもちゃんと書かれているとはいえない。なので、すべて自分でよく考えてつける・・・・
・・・・・スタカートは手首を上げなければならないということはない。要は鍵盤が上がればいい・・・・
・・・・小規模な曲、単純な曲はそのように弾かなければいけない(たとえば小品のリートでオペラのような歌い方はいけない)・・・・
・・・高いレベルのピアニストが技術的にそう難しくない曲を弾くときは、パーフェクトに弾かなければいけない。ミスタッチはダメだ・・・・
・・・・いろいろな作曲家の曲のなかで、動き(指や手や身体)が美しく音楽的なのは、モーツァルトとショパンだと思う・・・・・
・・・・ペダルというのは楽器によってもきく(かかる)位置が違っている。きく瞬間を確認して、いつもその位置(深さ?)で足を使うこと・・・・・・
・・・・ただ練習するのではなく、その曲特有のキャラクターをよく理解する・・・・
・・・・ミスタッチというのは3種類ある。①遠慮深く少しずつやる②無礼に派手にたくさんやる③指がはたらいてない。③の場合、特に5の指の時は、鍵盤をグイとつかみとるように弾かないと、ミスが多くなる・・・・・・
・・・・・弾きなおしをしない。伴奏の時などは大変な迷惑をかける・・・・・
・・・・・伴奏の時はとくに難しい箇所は必ず暗譜する。でないと、楽譜、手、ソリストと三者を見なければならないので弾けなくなる・・・・・
・・・・下行のときは、少しずつブレーキをかけておりる。でないと尻餅をつく・・・・
・・・・静かな箇所もきちんと指がはたらくこと。ベースは死んでもはずしてはならない。オクターブでとるとはずしにくい・・・・・
・・・・・身体をあまり動かさないほうがいい。みんなコンピュータが頭にあるわけだが、身体をふることで、その位置認識がずれる・・・・
・・・・(伴奏で)ピアノをオーケストラのように使うときは特に打鍵音が聞こえないように。押すだけ・・・・・
・・・・・三連符というのは自分が思っているよりゆっくりしているものだ(たとえばブルックナーリズム)・・・・
・・・・ピアノというのは、右の4か5でメロディー、左の4か5でベースというように、弱い指で大事なものを弾かなければならない楽器だ・・・・
D氏のリサイタルは、咳、子ども、その他の物音、すべてご法度らしいのだが、レッスンではそこまでの緊張は強いられなかった。
しかし、一回指摘したことをきちんと直さなかった場合、いきなりドイツ語の集中砲火(でも通訳の段階でかなり柔らかい表現になっていたと思われる)。
「日本人は、練習練習というが、一瞬のうちに命がけでやらなければならないこともある。たとえば私が猟銃でもって狙っているとしよう。全力で逃げるだろう!」と言ったあと、日本語で
「やれ!!」と怒鳴られた。
「次、このフレージングを間違えたら撃ち殺す」とか「あそこに吊るす」とか真顔でいっておられたから、レッスン生は相当な緊張だったことだろう。
なかなか過激だと思ったが、このフレーズ、どこかできいたことがある。
ポーランドの有名な先生(ツィメルマンの先生だった方)のレッスンを聴講したことがあるのだけれど、そのときも「今、あなたは命拾いしました。○○○~という弾き方をしたら、私はあなたを殺そうと思ってました」とこれはニコニコしながら(それもコワイ感じだが)おっしゃっていた。
どちらもかなりの高齢、そしてお元気。
「(プロというもの、またははプロを目指すなら)失敗したら殺される覚悟で弾け!」ということなのだろう、そしてその緊張感のなかでこのお年まで生きてこられたのだろうと理解した。
レッスンは個人の先生宅であったので、聴講生は数人だったが、みなさんプロとしてお顔を存知上げている方々だった。
かなり場違いだったけれど、いい経験をさせていただいた。
「自分に厳しくなれ!やれ!」というのは、ピアノに限らず、だ。