武器ではない「オクスタン」

　私には、食べ物で、「不味いもの」は、皆無なんです。
　春は、山菜の天ぷらが食べられるので待ち遠しいです｡
　また行者ニンニクの話かって？それだけじゃないのですがね｡
　天ぷらという食べ物は…日本の食文化の最高峰にあるものだと思っていますねえ！
　行者ニンニク、ブドウの葉、タラの芽、ウドの芽、ヨモギ、青じそ、桑の葉…これらの天ぷら、こんな旨いものがあるのかっ！と思います。
　金銭的には貧しい部類と思われる老後ですが、春の天ぷらは、「天皇陛下より旨いものを食べている。私は、贅沢だなあ！」
　と、感じます。おっと、断り書きをしておきます｡天皇陛下が贅沢な食事をしているということではありません。「贅沢」とは、個々人の、内心の問題ですから｡贅沢の基準などありません｡

　旨いものを並べ立てる…私にも出来ますが、 內田百閒（うちだ ひゃっけん）さんには、遠く及びません。

　戦争で食料不足になった１９４４年（昭和１９年）、随筆「餓鬼道肴蔬目録（がきどうこうそもくろく）」を書いておられる。
　百閒さんは、執筆において、「旧字体・旧仮名遣い」を厳として固守しました｡著作物はすべて旧字・旧仮名表記。没後の出版でも百閒さんの遺志として旧仮名表記が守られております｡よって、大変失礼ながら、私には、読みづらいのです｡

　どんな食べ物があげられているか…全てを挙げることは、著作権侵害ですから無理。まずは、目録の中から私が食べたいものを挙げさせていただくと…

　三門ノよもぎ団子、かのこ餅、鶴屋ノ羊羹、大手饅頭、広栄堂ノ串刺吉備団子、日米堂ノヌガー…

　日米堂ヌガー、知らないよね｡ヌガーの元祖と思われる「日米堂芥河商店」は、いつの頃からなのかなくなっています。
「ヌーは知っているが、ヌガーは知らない」って？
　あ、あのね、「ヌー」は、アフリカ在住の牛の仲間の動物ですから！ヌガーは、お菓子の種類です｡
　戦時中に、「日米堂」を堂々と出すあたり、内田百閒さんの面目躍如ってとこでしょうか。

　山北駅ノ鮎ノ押鮨、富山ノますノ押鮨、岡山ノお祭鮨、駅売リノ鯛めし。押麦デナイ本当ノ麦飯・・・各地を旅して食べたのでしょうねえ！
「押麦デナイ本当ノ麦飯」…私は押麦の麦飯しか食べたことがないので、「本当の麦飯」ってのが気になってます。
　
　さわら刺身、たい刺身、霜降りとろノぶつ切、ふな刺身、こちノ洗い、こいノ洗い、あわび水貝、寒雀だんご、オクスタン塩漬、牛肉網焼、にがうるか、このわた…きりがない。
　酒の肴ばかりじゃないかって？そうとも言えますね。エヘ。

いきなりですが、クイズです。
「オクスタン塩漬」とありますが、「オクスタンって何？」
　これ私の知識では、「突撃用の槍がついた銃の名前」銃身が上下に２本ついているアレ。だけど、銃を塩漬にして（焼いて）食べる人は少ない。鉄製の歯でも、歯がたちませんよね。
　調べましたよ｡何を見ても「塩漬にするオクスタン」など出て来やしない｡そして、小一時間が経過。ようやく、正解に漕ぎ着けました｡

　食品のオクスタンは、「牛タン」のことでした｡単純に考えれば分かったのに。「槍の銃」が頭にあったので…。
「OX（オクス）：雄牛）の舌（タン）」だから、オクスタン…！　そ、それでしたかぁ、百閒さん！はじめから「牛タン塩漬」と、書いてくださいよっ！