Hei!(「ヘイ」って読んで「やあ」って意味)~義務教育世界一の秘密

義務教育世界一の国の教師養成の実態を探る旅。フィンランドの魅力もリポート!その他,教育のこと気にとめた風景など徒然に。

「おまえ,今おまえだけが可愛がられているっていうのは,わかるな。」

2007年08月27日 | Weblog
通勤のバス等移動の時には,アップル社提供のポッドキャストを聴いていることが多い(しばしば口を開けて爆睡しているが・・・)。教育を考える材料になるような質の高い情報が無償で提供されている。面白かったものの一つを紹介しよう。

番組名は「大竹まこと 少年ラジオ 明日にかけるハナシ」文化放送,2007年2月26日放送分。
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ゲストは武田鉄矢さん,山田洋次監督の話になった。鉄矢さんは1977年の「幸せの黄色いハンカチ」が初めての映画出演,映画界に入って8日目の鉄矢さんに対して,監督は容赦なく厳しい言葉を投げつけた。

カニを食べて下痢して走れと言われて演技した場面では,少し心が弾んでしまっていた鉄矢さん,後ろから監督の鋭い言葉が飛んできた。

「わざと受けようとしてる!」

「ここは下痢して走るとこだから,君は泣いてる。君が泣くとお客さんが笑う。」

そしてそばまで寄ってきて

「いいかい,武田くん。喜劇っていうのは,泣きながらつくるんだ!」

厳しい監督の態度を傍からみていた(高倉)健さんは,その時次のように言ってくれたという。

「おまえ,今おまえだけが可愛がられているっていうのは,わかるな。」

「冗談じゃないっスョ,俺はイジメ用に雇われたんですョ,あいつからぁ」

「そんなことはない。伸びない俳優を,伸びない俳優を絶対,監督は文句言ったりしない。おまえは期待されているんだ。」

「そんなこたぁないっスョ。俺が憎いんですョ,あいつはー。『できない,できない』ばかり言って,やってみろっつぅんすヨォ。」
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当時はどうにも納得いかなかったようだが,今となっては笑い話。そうなったのは,鉄矢さんが監督の言葉をしっかりと心に刻み込みつけ,厳しさの意味を生かしたからだろう。鉄矢さんの努力と才能があってこその「今」だが,健さんの役割は大きい。

翻って考えるに,今,この健さんのような言葉をかける大人が極端に少なくなっていないだろうか。厳しさの意味を傍で穏やかに語る人だ。すぐにわからなくてもいい。でも心に添いつつその意味を耳に入れておくことは,人の育ちに大きな影響を与えるのではないか。それがないと,厳しさの意味を考えられない人間ばかりになってしまう。

子どもに「わかるわかる」を連発するのもいい。しかし,子どもはやがて家庭や学校を離れて社会に出る。いつまでも大人や教師の手元にいるわけではない。社会に出たその時,厳しさの意味を考え感じられるようになっている子どもと,意味がわからずただ不満を持つだけになっている子どもと,どちらがよいだろう。私は前者の子どもが,困難に対して前向きに適応できると思う。幸せに生きられると思う。小学校から大学まで全校種での教員経験を通していろいろな年齢層の子どもの育ちを見てきた目には,現代の教育問題が意外とこんなところに根っこを持つように映っている。
コメント
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