松本宗利音(しゅうりひと)指揮、読売交響楽団を東京芸術劇場で聴いてきました。
お目当てはベートーヴェンのコンチェルト。
ソリストは阪田知樹さん。
ベートーヴェンの4番のコンチェルトがプログラムにあることはわかっておりましたが、他は何の曲があるか知らずに聴きに行きました。
宗利音さんと阪田さんは藝大の同級生だそうで、その情報しか知りませんでしたが、宗利音さん、素晴らしい指揮者です。
そして、読響の弦楽器の素晴らしいこと。
キレがあるのに重厚で濃密。一気にファンになりました。
阪田さんの演奏は清流のようでした。
そして、オケの音の流れをピアノで受け止めるのが上手い。室内楽でも重宝されているのがわかります。
美しい音が消えていくのが惜しくて、空中に手を伸ばして手の中にしまっておきたいほど。
ああ、音は心の中にしまっておくしかできないのだ、と初めてそんなことを思わせた阪田氏、異次元。
第2楽章を聴いていて、阪田さんは話をすることで相手と分かり合おうとするタイプなのかな、と思いました。
相手の音を聴いているだけではなく、自分の音も相手に届けようとしている感じ。決して押し付けることなく。
カントロフのこの曲も印象に残っていますが、全く異なる演奏でした。終楽章は阪田さんの方が第2楽章の意味が終楽章でしっかりと昇華されていて、納得させられました。駆け上る爽快感。
アンコールは、ドビュッシーのグラドゥス・アド・パルナッスム博士。
意外だなと思いましたが、確か11~13日と3日連続ブラームスの室内楽マラソンコンサート出演後の今日のベートーヴェン。
ドイツからちょっと離れたい気分だったかな、と思いました。
ベートーヴェンとの出版繋がりでクレメンティからのこの曲も考えられます。
さて、後半はチャイコフスキー5番。
プログラムを見てから、そうだったのか・・と。
この曲は大好きですが、今聞くのはどんな気持ちになるだろうか、と思いました。
冒頭のクラリネットの旋律が始まると、今のウクライナの状況が思い浮かびました。
周りの方たちもそうだったのか、結構涙をぬぐう姿が見え、鼻をぐすぐすさせる音もあちこちから聞こえました。
宗利音さんの指揮と弦楽器を中心としたオケの音の熱量が凄まじい。
今読んでいる東ドイツを舞台にした音楽の小説に、
「抵抗する言葉を奪われた者たちが、命がけで作りあげた音」という言葉があります。
この曲を聴いていて、ウクライナだけではなく、これから訪れるかもしれないロシア人の運命を思いながら、ロシア音楽が排除されてきている状況の中、それは違うと思いました。
この音楽の中には人間のもつ慈愛、勇気、誇り、倒れてもまた立ち上がる強さがあり、国がどうのではないと思いました。
生身の人間が自分の分身でもある生の楽器を使って発した声の力。
この指揮者と読響から声よりも大きな力を感じました。
音楽に関わる人生を歩んでこられたことの幸福を、今日は強く感じました。
Pyotr Tchaikovsky: Symphony No. 5