風の数え方

私の身の回りのちょっとした出来事

うなぎ

2006年08月04日 | 清水ともゑ帳
小学生のころ住んでいた家の近くには、プールみたいな用水があった。
事故を防ぐため、用水の表面は金網で覆われていた。
ある日、私は、道にころがっていた竹竿を持ち帰ると、竿の先端に木綿糸をくくりつけ、近所の川で獲ったザリガニの身を糸の先に結んだ。
自分で作った釣竿を手に、用水へ行き、金網の間から釣り糸を垂れた。

しばらくするとアタリを感じたので、竿を持ち上げようとしたけれど、思いのほか引きが強かった。
なんとか引っ張り上げてみると、30cmくらいの黒いヘビのようなものがかかってきた。
初めての獲物。
落とさないよう家に持ち帰った。

家の外には、不要になった風呂桶があったので、そこに水を張り、その生き物を放した。
ニョロニョロと風呂桶の曲面を這うようにそれは泳ぎ始めた。
近所のおじさんと親にその生き物を見せたところ、「これはウナギだよ」と言われた。
私が初めて釣ったのは、ウナギだった。
ウナギはその日のうちに用水へ返した。

あのとき、なぜ、釣りをしようと思いついたのかわからない。
そして、なぜ用水にウナギがいたのか、と今になればそんなことも不思議に思う。
自分で道具を買うほどではないけれど、以来、釣りが好きになった。

私の両親がともにうなぎが好きではないせいか、家ではうなぎを食べたことがなかった。
母は、「高いばかりでおいしいものじゃない」と言ったけれど、私にはそれが、イソップ童話のキツネと葡萄の話に思えて仕方なかった。
キツネは葡萄を食べたいけど手が届かないので、あれはきっとまずい葡萄だ、と自分に思いこませる話。

20歳のとき初めて、友人とうなぎを食べに出かけた。
それはそれはおいしかった。
ふっくらとした身、タレとご飯のおいしさ、夢見心地になって帰宅した。

ところが、その晩、私は急性すい炎になり、痛さで一晩中のたうちまわり、翌日からしばらく通院した。
うなぎの脂が原因だったらしい。
でも、うなぎはずっとずっと大好きだ。

今日はふと初めての釣りのことを思い出したのだけれど、町を歩いていたら、偶然にも今日が今年二度目の丑の日だと知った。
店から漂ってくる香ばしいにおいにそそられ、ふっくらとした身に箸を入れた瞬間を想像し、食欲をかき立てられた。

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