風の冷たい12月の新宿の街を、21歳の I と私は歩いていた。
I がひょいと、絵を展示しているあるビルの1階に入った。
どこかの学校の展覧会のようだった。
その中の1枚の絵の前から、I が動かなくなった。
「その絵、気に入ってくれました?」
綺麗で落ち着いた感じの1人の女性が現れた。
その絵を描いたひとだった。
I は、その絵がすごく好きだと話した。
しばらくそこで話していたが、3人で近くの喫茶店に移って話すことになった。
私は正直なところ、その絵をあまりいいとは思わなかった。
だから、I と女性の話をタバコを吸いながらコーヒーを飲んで黙って聞いていた。
その展覧会は、Kデザイン研究所というデザイン学校の学生が開いていた。
その美しい女性はその学校の学生だった。
彼女はⅡ部(夜間)の学生で、昼間は仕事をしていた。
突然、こんど劇団をつくって、あるところで公演をするという話になった。
Kデザイン研究所は原宿にあり、今、劇団事務所にするためのアパートを探しているらしい。
今夜、その劇団についての話し合いを学校の近くの喫茶店でするという。
よく分からないうちに、その話し合いに I と私は参加することになってしまった。
劇団の話をするということに興味があったのだけれども、その女性と別れがたかったからかも知れない。
つづく