航空事故がひとたび起きると多くの犠牲者が出てしまう。だが、実際に航空事故が発生する確率は極めて低い。全世界で、240万回に1件の割合でしか航空事故は起きていない。
一方、同じく人の生命に関わる医療の世界では、航空業界よりも桁違いに高い確率で事故が起きている。英国では、医療過誤や設備の不良により10人に1人の患者が死亡または健康被害を受けているという。
両者の違いは何によってもたらされているのか?航空業界ではミスや事故に対して強い権限を持つ独立の調査機関が存在し、フライトレコーダーなどの客観的なデータに基づき徹底した調査を行う。一方、医療の世界では事故が起こった経緯について日常的なデータを収集する習慣すら無い。
失敗から学習し、次の進化に繋げる「オープン・ループ」の有無が2つの業界を大きく分けている。
人は何故時に考えられない失敗をしてしまうのか。集中しすぎて時間感覚が麻痺してしまったり、社会的な上下関係により伝えるべき指摘や助言を控えてしまったり、そこには人間心理の働きが影響している。失敗を起こさないようにするためには人間心理を考慮したシステムが必要なのだ。
人間はそもそも、何か過ちが起こると、その経緯よりも「誰の責任か」を追及することに気を取られる傾向が備わっている。非難されること、自分の評判を落とすことへの恐れは、自尊心を守りたいという内発的動機を強め、時に認知的不協和により「不都合な真実」を否定する行動に出てしまう。
科学の発展は、反証可能性によりもたらされてきた。
非科学である星占いは、誰にでも当てはまる曖昧な予想を提示するがゆえに「占いが外れる」という失敗をすることが不可能な仕組みになっている。理論が完璧に見えるので信奉者は虜になるが、失敗から学習することが無いため進歩しない。何度繰り返しても占いの精度が上がることは永遠にない。
心理療法士は、治療の長期的影響に関するフィードバックを受ける機会がない。なので、いくら経験を積んでも臨床判断の能力が向上しない。
失敗から学ぶことが如何に重要かは、進化のプロセスを考えてみればよく分かる。試行錯誤は失敗することだ。試行錯誤して、よりよい方を選択することで累積淘汰により、最良の答えが見つかる。
ここでも人間心理が邪魔をする。
「どうせ答えはわかっているのだから試す必要はない」という思い込み。
目に見えるものを特定のパターンに当てはめ、もっともらしい解釈で満足してしまう「講釈の誤り」。
やった場合の結果だけでなく、やらなかった場合の結果も比較してみなければ、その施策の効果の有無は判断できない。だが、そうした「反事実の検証」は怠られがちだ。
大事なのはマインドセットだ。
「失敗は学習のチャンス」と捉える組織文化。
物事を単純化せず複雑さと向き合う姿勢。
複雑さを考慮せずに罰則を強化しても、ミスは減らずに、「ミスの報告」を減らしてしまうだけ。
失敗から学べる人と学べない人を分つのは、「失敗の受け止め方」の違い。成長型マインドセットの人は、失敗を自分の力を伸ばす上で欠かせないものとして自然に受け止める。
そう、心理の制御とマインドセットの持ち方。個人も組織も、未来の可能性はそこに懸かっている。
#ブクログ
https://booklog.jp/users/rainygreen/archives/1/B01MU364ID
一方、同じく人の生命に関わる医療の世界では、航空業界よりも桁違いに高い確率で事故が起きている。英国では、医療過誤や設備の不良により10人に1人の患者が死亡または健康被害を受けているという。
両者の違いは何によってもたらされているのか?航空業界ではミスや事故に対して強い権限を持つ独立の調査機関が存在し、フライトレコーダーなどの客観的なデータに基づき徹底した調査を行う。一方、医療の世界では事故が起こった経緯について日常的なデータを収集する習慣すら無い。
失敗から学習し、次の進化に繋げる「オープン・ループ」の有無が2つの業界を大きく分けている。
人は何故時に考えられない失敗をしてしまうのか。集中しすぎて時間感覚が麻痺してしまったり、社会的な上下関係により伝えるべき指摘や助言を控えてしまったり、そこには人間心理の働きが影響している。失敗を起こさないようにするためには人間心理を考慮したシステムが必要なのだ。
人間はそもそも、何か過ちが起こると、その経緯よりも「誰の責任か」を追及することに気を取られる傾向が備わっている。非難されること、自分の評判を落とすことへの恐れは、自尊心を守りたいという内発的動機を強め、時に認知的不協和により「不都合な真実」を否定する行動に出てしまう。
科学の発展は、反証可能性によりもたらされてきた。
非科学である星占いは、誰にでも当てはまる曖昧な予想を提示するがゆえに「占いが外れる」という失敗をすることが不可能な仕組みになっている。理論が完璧に見えるので信奉者は虜になるが、失敗から学習することが無いため進歩しない。何度繰り返しても占いの精度が上がることは永遠にない。
心理療法士は、治療の長期的影響に関するフィードバックを受ける機会がない。なので、いくら経験を積んでも臨床判断の能力が向上しない。
失敗から学ぶことが如何に重要かは、進化のプロセスを考えてみればよく分かる。試行錯誤は失敗することだ。試行錯誤して、よりよい方を選択することで累積淘汰により、最良の答えが見つかる。
ここでも人間心理が邪魔をする。
「どうせ答えはわかっているのだから試す必要はない」という思い込み。
目に見えるものを特定のパターンに当てはめ、もっともらしい解釈で満足してしまう「講釈の誤り」。
やった場合の結果だけでなく、やらなかった場合の結果も比較してみなければ、その施策の効果の有無は判断できない。だが、そうした「反事実の検証」は怠られがちだ。
大事なのはマインドセットだ。
「失敗は学習のチャンス」と捉える組織文化。
物事を単純化せず複雑さと向き合う姿勢。
複雑さを考慮せずに罰則を強化しても、ミスは減らずに、「ミスの報告」を減らしてしまうだけ。
失敗から学べる人と学べない人を分つのは、「失敗の受け止め方」の違い。成長型マインドセットの人は、失敗を自分の力を伸ばす上で欠かせないものとして自然に受け止める。
そう、心理の制御とマインドセットの持ち方。個人も組織も、未来の可能性はそこに懸かっている。
#ブクログ
https://booklog.jp/users/rainygreen/archives/1/B01MU364ID