情報処理能力、記憶容量、通信帯域幅の驚異的なペースでの低コスト化により、21世紀のビット経済(デジタル社会)ではコンテンツの流通にかかる限界費用が、ほとんど気にならないくらいに安くなっている。
それゆえに、20世紀のフリー・ビジネスとは大きく性質を異にする「無料」を生かしたマーケティング戦略により巨額の富を生み出すビジネスが登場している。
ここでは、無料経済を4つの類型に分けています。
1.直接的内部相互補助
無料または極端に安い値段の商品で客を呼び、利益を出せる魅力的な他のモノを売る。
例)携帯電話の端末を無料にして通話料で稼ぐ。
ドリンクは無料だがショーは有料。
駐車場無料でショッピングモールに客を呼ぶ。
2.三者間市場
二者が無料で交換をすることで市場を形成し、第三者がそこに参加するために費用負担する。
例)テレビ・ラジオの無料放送、広告主が媒体料を払う。
クレジットカードの発行は無料、加盟店が手数料を支払う。
子供は入場無料、大人は有料。
3.フリーミアム
一部の有料顧客が、他の多くの顧客の無料分を負担する。
例)無料のウェブサービスで付加サービスを利用するためには有料。
基本ソフトウェアは無料、機能拡張版は有料。
広告付きは無料、広告を取り払うには有料。
4.非貨幣市場
金銭以外の評判や関心が動機となり成立する贈与経済。
例)ウィキペディアの編集。
知らないうちに無償の労働力を提供している。
例)検索するたびにグーグルのアルゴリズム向上に貢献している。
限界費用ゼロの世界での不正コピーの受け容れ。
例)ミュージシャンが無料で楽曲配信し、ライブで収入を得る。
1.と2.は、20世紀のアトム(=実物)経済でも存在したのに対し、3.と4.は21世紀のビット経済であればこそ急激に拡大している。
特に、3.のフリーミアムという概念が新しい。
そこでは無料ユーザーが圧倒的多数であり、それを全体の1~2割くらいしかいない有料ユーザーが支えている。
それが可能になるのは、デジタル化により莫大な数の母集団を低コストで集めることができる(そのための手段が「無料」)ようになったから。
母集団の数が膨大な一方、ユーザーを集めるコストは低いので、割合が低くても有料ユーザー分で全体の費用を賄い、かつ利益を出すことができる、というわけです。
このあたりは非常にわかりやすい。
頭の整理という点で、非常に有用でした。
一方で、ちょっとショッキングなくらいに刺激的な見方を教えられた点もあります。
著者によれば、フリーへの考え方は(現在の)30歳を境にした上の世代と下の世代で全く異なる。
20世紀型のアトム経済で育った30歳以上の世代は、モノやサービスにはコストがかかっているのでムダにすることは悪徳だという感覚がある。
それに対して、小さいころからビット経済に慣れ親しんだ30歳以下の世代は、デジタル世界では製造・物流コストが無視してよいほど小さいことが感覚的に分かっており、デジタルなモノやサービスをムダにしたりタダでコピーして楽しんだりすることに抵抗がない。
それから、海賊版について。
中国やブラジルでは音楽ソフトやブランド品の海賊版が横行している。
先進国に暮らしている人間の感覚からすると許し難いように思えるが、中国人やブラジル人もニセモノとホンモノの価値の違いはちゃんと分かっている。
それを利用して、あえて海賊版を許容してプロモーション手段としてファンを増やし、ホンモノで儲けるビジネスモデルが生まれている、といいます。
そんなこと自信をもって言っちゃっていいのかな、と何となくドキドキしちゃうあたり、自分も「旧世代」であることの証明かもしれません…