55歳からのハローライフ | |
村上 龍 | |
幻冬舎 |
老いを迎えた団塊の世代前後の「普通の人びと」が「生きづらい時代」をもがきながら人生の再出発を切り拓いていく。
同一のテーマでの中編5本の連作小説。
40歳のラインを踏み越えて、人生の折り返しを意識せざるを得なくなった自分にとって、何かヒントになるようなものがあるのでは、という関心もあって読んでみたんですが、さすがにちょっと世代のギャップがあり、実感をもって感じられるものは正直無かったかなと。
ただ、「他人事」として読んでも、それぞれに十分おもしろさを感じられるクオリティであるのは確か。
連作といっても、各作品はそれぞれ独立していて登場人物が重なったりもしない。
が、それぞれのエピソードにおいて「飲み物」がキーポイントに登場することが共通している。
アールグレイ、ミネラルウォーター、コーヒー、プーアル茶、日本茶。
せっぱ詰まった状況に置かれたとき、お気に入りの飲み物を口にすることでホッと心を持ち直す。
その感覚にはリアリティがあるし、各エピソードにおいて印象的なアクセントになっています。
5作のうち、個人的には『空を飛ぶ夢をもう一度』が最もよいと思う。
壮絶な臨場感が素晴らしい。
山谷から川崎まで、タクシーとバスで瀕死の友を連れてゆく件りは、映画『スケアクロウ』の切なさに通じるものがある。
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テーマがテーマだけに、各編それぞれに挫折感と哀愁が漂っているわけだけど、その一方で、この程度で済んでいるのならまだ幸せだよな、という気もする。
最も悲惨な『空を飛ぶ夢をもう一度』にしても、友には最期を看取ってくれる母親が存在していることでまだ救いがある。
我々団塊ジュニア世代が彼らくらいの年齢になる頃の世の中には救いが残っているだろうか…