そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『火花』 又吉直樹

2015-07-22 22:53:10 | Books
火花
又吉 直樹
文藝春秋


4ヶ月前から図書館に予約していたのだが、なんともタイムリーに芥川賞受賞した直後の先週末に回ってきた。
三連休の間に読み切ってしまった。
表現は平易ではないが、テンポがよいので読んでいて心地はよい。
編集者のアシストもあるのかもしれないが、文章力、語彙の豊富さは秀逸と思う。

まず感じたのは、「神谷さん」は又吉にとって理想の芸人像なのだろうなということ。

全編通じて、自身が棲まうお笑いの世界に対する、底知れなく深い、そして屈折した愛情が溢れている。
そして芸人であり続けることの、とてつもない苦しさも。

一方で、芸人の世界がこのようにピュアで誠実であることは、こちら側にいる我々にもイマドキけっこうバレてしまっているので、意外性には欠ける。
我々素人が想像可能な範疇を打ち破るには至らず、その向こう側を描いて欲しかったという何となしの物足りなさは漂う。
どん底をもっと暴いてほしい感じ。
ラストのボケも嫌いではないが、照れ隠しではぐらかしている感はある。
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昆虫食のススメ

2015-07-19 18:12:15 | Society
本日の日経朝刊最終面の文化欄で、フランス文学者にしてファーブル昆虫館長である奥本大三郎氏がコラムを書いている。
見出しの「バッタのハンバーグ」に思わず目を惹かれて読んだ。

加工食品への虫混入が騒動になる今日この頃、氏は「いったい、日本人はいつから、こんなに虫嫌いになったのであろう」と嘆く。
以下の一節が秀逸。

即席麺に昆虫が入っていた、とクレームがついたわけだが、その麺には「エビ入り」とうたってあったりするではないか。昆虫もエビも、分類学的に言えばどちらも節足動物である。その中の昆虫綱と甲殻綱の違いにすぎない、と言うのはもちろん、単なる理屈であって、そんな理屈を一般の消費者が受け入れるわけはない。そもそも何故虫が嫌かといえば、嫌だから嫌なのである。


いかに虫が嫌われようと、来たるべき食糧難の時代には人間は昆虫食に回帰せざるを得ないというのが氏の見解。
特にバッタ類は有望で、日本のインスタント食品技術をもってすれば、粉末にして食感やフレーバーを工夫すればビーフやチキンの代替になり得ると。
バッタは生育が早く、養殖して大量生産することも比較的容易と考えられるので、その点でも有益であると主張されている。

個人的にはイナゴの佃煮くらいなら全く抵抗なく食べてしまうのでバッタ肉のハンバーグくらいならいけそうな気がするが。
セミの天ぷらとなると、さすがにちょっと抵抗あるかな。
まあでもエビやシャコなんかも同じようなものだろ、と言われるとそんな気もしてきて、案外慣れてしまうのかもしれない。

それにしても、ジャポニカ学習帳の件といい、ホントどうしてこんなに嫌われるようになったんだろうね、虫。
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『荒神』 宮部みゆき

2015-07-12 21:18:33 | Books
荒神
宮部みゆき
朝日新聞出版


時代小説であり怪獣小説。
怪奇時代小説なら他にいくらでもあるだろうが、これはオンリーワンのキワモノ作品だろう。

とにかく驚かされるのは、こんな誰も見たことのないような化け物との戦いを、実に生き生きと描写する圧倒的な筆力。
中盤のクライマックスである砦での大破壊シーンなど、まるで眼前に場面が浮かぶようで、登場人物たちが直面する恐怖がありありと伝わってくる。

他の書評では「人間の業が…」みたいな観点で評価されているようだが、その点はイマイチのように感じた。
600頁に迫る大著でありながら、「業」を感じさせるほどの描き込みが不足している。
ちょっと登場人物が多すぎて、キャラクタが被るのも多くて役割が整理しきれていない印象。

映画化するなら観て見たい。
ちょっとグロそうだけど。

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『赤線地帯』の時代の空気

2015-07-03 23:23:50 | Entertainment
赤線地帯 [DVD]
京マチ子,若尾文子,木暮実千代,三益愛子,沢村貞子
角川書店


溝口健二監督の遺作『赤線地帯』、先日NHKBSで放送していたのを録画して観た。

正直、社会状況や価値観があまりに前時代すぎて今となっては物珍しく観るしかないのだが、「夢の里」の案外モダンな店の造りと奥行きを意識した宮川カメラの構図取り、京マチ子の捨て鉢なキャラ造形が印象深い。

それにしても三益愛子は痛々しすぎるだろ。
あの掃き溜め(失礼)に若尾文子がいて、それで場が成立するという強引な設定が清々しい。

しかし、こうして売春合法時代のリアルタイムな空気に触れてみると、従軍慰安婦問題を現代の価値観で断じることのナンセンスさを感じざるを得ない。
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