そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『極北』 マーセル・セロー

2012-06-29 23:04:03 | Books
極北
マーセル・セロー(著)村上 春樹(訳)
中央公論新社


読み進めるうちに、この世界観は『ナウシカ』なのだなと気づいた。
主人公は姫様ではないし、蟲も出てはこないけれど。
そして、バイオレンスぶりには『マッドマックス』か『北斗の拳』が入っているけれど。

「訳者あとがき」によれば、村上春樹は原書を読んですぐ、これはぜひとも自分が訳さなければ、と気に入ったようだけど、『ナウシカ』や『北斗の拳』だと思えばそれもよく理解できる。
この人の世界観って良くも悪くも30年前から変わってなさそうだもの。

物語世界は確かに魅力的。
ディストピア世界をたった一人で生きていく主人公の、絶望的な孤独と、強烈な生命力の描出は素晴らしい。
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『地震イツモノート』

2012-06-19 23:19:33 | Books
地震イツモノート (ポプラ文庫)
渥美公秀,寄藤文平
ポプラ社


阪神・淡路大震災の被災者の意見をもとに作られた防災マニュアル本。
完璧なマニュアルを志向するのではなく、震災を経験した人たちの気持ちや工夫をノート風に集めたもので、「防災が、地震のための特別な努力ではなく、私たちのライフスタイルの中に自然に横たわるものであってほしい」との思いを込めて編集されたとのこと。

イラストも豊富で、被災者の生の体験がじんわりと伝わってきます。

「当時はガラスが一面に飛び散っていたので、今もカーテン開けっ放しは恐い。薄いレース一枚でもひいている」
「集合住宅では、全ての家のブレーカーが落ちているか確認できるまで電気を通すことができなかった。逃げるときは必ずブレーカーを落としていくことが大事」
「三日分の蓄えがあるとないとで命の分かれ目といってもいいかもしれません。缶詰、レトルト食品、無洗米、よく言われていr備蓄品でいいんです」
「笛…友人が家の中に10時間以上閉じ込められたとき欲しかったと言っていた。家は普通に立っていたので気づかれなかったそう」

等々、実際被災してみないと絶対に意識できなさそうな貴重な情報も満載。
避難所生活での生々しい体験に基づく、人間のいいところ/嫌なところについての記憶が語られている部分も印象的です。

編者によれば、普段から地域コミュニティのつながりを作っておくことが、いざというときの最大の「防災」になるという。
その通りだとは思うけど、なかなか難しいですよね。

東日本大震災が発生する以前に書かれたものなので、その点でやや複雑な感慨も抱いたりもしますが、ちょっとずつでも日常から「備え」をしておくためのヒントになるという点で、多くの人に読んでほしいと思える一冊です。
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2つのeuro

2012-06-17 22:52:35 | Sports
euro2012、深夜に録画してちょこちょこ観てるんですが、やっぱり面白いっすねえ。
Jリーグや、日本代表のアジアの戦いを見慣れている身からすると、やはりスケールの違いを感じる。
例えばパスのスピード、足元に吸いつくように止まるトラッピング。
いつも思うことだけど、CFとGKは特に彼我の差を感じます。
マリオ・ゴメスとかマンジュキッチとか、敵にいると想像するだけで恐ろしい。

で、もう一つのeuro、通貨のほうのeuro。
今日、ついにギリシャの再選挙ですね。
まあでも、急進左派連合が勝って財政規律拒絶するリスクは十分すぎるくらい認識されているわけだから、織り込み済みの市場はさほどネガティブに振れる可能性は少ないような気がするんですが、どうなんでしょう。
今日の日経朝刊に『孤独な女王、誤算のマリオ』ってコラム(『地球回覧』)が載ってました。
「女王」とは独メルケル首相、「マリオ」とはマリオ・ドラギ欧州中銀総裁と伊マリオ・モンティ首相のことです。
「規律を乱すと身うちの抵抗に遭う。だが無策続きでは欧州の信頼は地に落ちる。」って、まさに、ですね。
コラムによれば、欧州は財政統合・政治統合も見据えた賭けに出たように見える、とのことだけど、本当にそんな決断をしたとしたら凄いことだよなと思います。
我らが野田サンが英誌で「決断できるリーダー」として賞賛されたってのが話題になっているけど、レベルが違うと思う。
だってねえ、他は棚上げしといて消費増税と原発再稼動だけ一点突破したってだけでしょう。
「決断」ってそういうことじゃないよね。

さて、サッカーのほうのeuroですが、ギリシャ代表がしぶとくロシアを打ち破って予選リーグ勝ち抜けましたね。
で、今日の結果次第ですが、順当に行くと決勝T初戦(準々決勝)でドイツ代表と当たる可能性が高い。
ドイツvsギリシャ、ユーロ危機をめぐる因縁の対決がユーロで、なんてなかなかオツなものです。
いっそのこと、財政支援の適否を賭けて戦ってみては、なんて。
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『道化師の蝶』 円城 塔

2012-06-03 14:48:36 | Books
道化師の蝶
円城 塔
講談社


今年芥川賞を受賞した表題作と『松ノ枝の記』の2作を収録。

難解、という評は聞いていましたが、読みづらいわけではない。
気分よくすらすら読み進められる、というか字面を追っていけるんだけど、頭には入って来ない(「理解」はできない)という不思議な体験を味わえます。

2作とも「文章を書くこと」「物語ること」が主題になっている。
それらのことに強い関心がある読者であればあるほど魅かれる世界かもしれない。

自分のような俗人には、やはり「場面」が思い浮かばないとなかなか印象に残らない。
そういう点では『松ノ枝の記』のほうが、相対的には平凡でありますが、よい余韻が残ります。

あと、細かいけど「屹度」っていう漢字の使い方が気に入りました。
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