透明な迷宮 | |
平野 啓一郎 | |
新潮社 |
平野啓一郎が24歳にして『日蝕』で芥川賞を受賞したのは1999年のこと。
当時はまだ20代だった自分も、自分より若い世代が…ということでかなり衝撃を受けたことをよく覚えている(その後、綿矢りさとかも出たが)。
あれから早や15年が過ぎ、『日蝕』以来久々に平野啓一郎の小説を読んでみた。
6編の短中編が収録されている。
いずれも、犯罪とまではいかないが背徳的な要素を含む、日常に起こる奇妙な出来事を描いている点では共通しているが、トーンはかなり不揃いな印象を受けた。
特に連作として書かれたわけではないようなので、当然なのかもしれないが。
『日蝕』はとにかく難解だった印象した残っておらず、内容もまったく覚えていないのだが、その印象に比すると作風にエンターテイメント性とまではいかないが、サスペンスで引っ張ったり、やや官能めいていたり、大衆性への歩み寄りを感じた。
ただし『Re:依田氏からの依頼』だけは観念的でちょっと読み進めるのが辛い感じだったが。
個人的には、死んだ父親の遺品から見つかった拳銃を巡って親族に波風が立つ様子を描いた『famili affair』が最も秀逸と思った。
近親間に長い年月を経て刻まれた愛憎の描き方がとてもリアル。
また『透明な迷宮』も、キューブリックの映画『アイズ・ワイド・シャット』を思わされるような題材で、隠微でありながらどこか純粋な感情を描いていて、なかなかよい。
と思うと『火色の琥珀』のような倒錯世界を描いたのもあったりして、バラエティに富んだちょっと面白い作品集である。