そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『透明な迷宮』 平野啓一郎

2014-11-30 00:16:18 | Books
透明な迷宮
平野 啓一郎
新潮社


平野啓一郎が24歳にして『日蝕』で芥川賞を受賞したのは1999年のこと。
当時はまだ20代だった自分も、自分より若い世代が…ということでかなり衝撃を受けたことをよく覚えている(その後、綿矢りさとかも出たが)。
あれから早や15年が過ぎ、『日蝕』以来久々に平野啓一郎の小説を読んでみた。

6編の短中編が収録されている。
いずれも、犯罪とまではいかないが背徳的な要素を含む、日常に起こる奇妙な出来事を描いている点では共通しているが、トーンはかなり不揃いな印象を受けた。
特に連作として書かれたわけではないようなので、当然なのかもしれないが。

『日蝕』はとにかく難解だった印象した残っておらず、内容もまったく覚えていないのだが、その印象に比すると作風にエンターテイメント性とまではいかないが、サスペンスで引っ張ったり、やや官能めいていたり、大衆性への歩み寄りを感じた。
ただし『Re:依田氏からの依頼』だけは観念的でちょっと読み進めるのが辛い感じだったが。

個人的には、死んだ父親の遺品から見つかった拳銃を巡って親族に波風が立つ様子を描いた『famili affair』が最も秀逸と思った。
近親間に長い年月を経て刻まれた愛憎の描き方がとてもリアル。

また『透明な迷宮』も、キューブリックの映画『アイズ・ワイド・シャット』を思わされるような題材で、隠微でありながらどこか純粋な感情を描いていて、なかなかよい。

と思うと『火色の琥珀』のような倒錯世界を描いたのもあったりして、バラエティに富んだちょっと面白い作品集である。
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『超簡単 お金の運用術』 山崎 元

2014-11-28 23:59:01 | Books
全面改訂 超簡単 お金の運用術
山崎元
朝日新聞出版


Kindle版にて読了。

山崎元さんのコラムやブログは以前から読んでいるので、その運用ポリシーやロジックについては馴染みがあったのだけど、それがコンパクトにまとめられた一冊ということで読んでみました(Kindleストアで250円だったし)。

どの金融商品に投資したらよいか、についてはいきなり冒頭で答えが書いてある、という画期的な構成。
で、その後、その答えの根拠となる山崎さんのロジックが説明される。
考え方はシンプルで、長期的視点で生活するのに必要な金額を確保(消費レベルを決める)した上で、いくらまでならリスクが取れるのかを判断して、無理のない範囲で投資する。
そして、資金の使途が限定されるような商品(医療保険とか学資保険とか)や、金融機関の営業マンが勧めてくるような金融機関の取り分(手数料)が割高な商品は避ける。
(本の中でも何度も出てくるように、山崎さん自身金融機関の人間なんだけど)

難しく考えなくていいんだな、ということはよくわかる。
ただ、個人的には投資につぎ込めるような余裕資金はまったく無いので実践に活かせないのが残念。
山崎さんは、お金の自由度をなくしてしまうという点で長期の住宅ローンを組んで持ち家を買うことはお勧めしていないんだけど、まさに自分はその境遇なので、余裕資金が出たらローンをさっさと返すというのが最もリーズナブルな「投資」ということになりそうだ。
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『「超」入門 微分積分』 神永正博

2014-11-27 23:35:32 | Books
「超」入門 微分積分 (ブルーバックス)
神永 正博
講談社


大学受験のときに入試科目から外してしまった科目をもう一度きちんと学び直したいという願望はずっと持っていた。
世界史、物理、化学、そして数学のうち当時「数学Ⅲ」と呼ばれていた微分積分と確率統計。

この本は、微分積分を「教科書的に」ではなく、その考え方から学び直させてくれる。
積分→微分、という一般的ではない順序で説明が展開されるのも、読んでみればリーズナブルであることに納得する。

微分積分に触れるのはそれこそ25年ぶりだったけど、公式とか意外に記憶に定着していることに我ながら驚いた。
一方で、公式がどうして成り立つのかだとか、円の面積や球の体積を積分を用いて算出するだとか、円周と円の面積・球の表面積と体積がそれぞれ微分・積分の関係で表されるだとかいったトピックは、高校時代にはまったく学ばなかったに違いなく、ああ最初からこういうふうに教えてくれればもっと興味を持てたのに…と思った。

というわけで、学び直しという点では大満足の一冊。
ただ、学んだ内容を生かす場面はなさそうだけど。
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それでも女子アナになりたいのか

2014-11-22 19:10:48 | Society
少々旧聞に属しますが、この話。

日テレ内定取り消し騒動。あらためて分かる日本における雇用の「重さ」(ニュースの教科書)

日本の雇用環境における内定取り消しの重さだとか、職業差別だとか、いろいろと論点があるが、個人的には、こんなに酷い目に遭わされてそれでもまだ日テレに入りたいのか?というのが一番の感想。
女子アナなんて、体裁ばかりが求められる虚飾で窮屈な職業だって痛感したのではないかと思うのだけど。
それに、こんな狭量な対応する会社に入ったところで果たして気持ちよく働けるのだろうか。

今回の騒動で十分に名前も売れて話題性もあるので、局アナなんかならずに最初っからタレントとして活動したってやってけるんじゃない?
(日テレの番組には出られないだろうけど)

まあ、裁判で内定取り消しの撤回を勝ち取って、その上で「入社はこっちからお断りよ!」ってやればかっこいいけどね。
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コマツの坂根さんに学ぶ日本的経営が停滞する理由

2014-11-20 23:35:06 | Economics
日経朝刊の『私の履歴書』、今月はコマツの坂根さんです。
今日は、1991年から坂根さんが米国企業と折半出資でつくった小松ドレッサー社のCOOとしてシカゴに赴任した時の話。

初仕事が工場のリストラで、6工場のうち、ドレッサー社から引き継いだ2工場を閉鎖した一方、1つだけコマツが立ち上げたチャタヌガ工場だけはリストラも日本流で進めたとのこと。

 つまり他工場のような閉鎖や一時解雇はせず、給料を3割カットしながらも、全員の雇用は維持したのだ。生産調整で仕事のなくなった社員は敷地内の草むしりや保守整備をしたり、近くの小学校のペンキ塗りなどを請け負ってしのいだ。それから半年ほどで景気が戻り、工場は再開。地元社会からは「コマツの経営は素晴らしい」と称賛され、私も鼻高々だった。
 だが、その後がいけない。米国市場が立ち直り、増産投資が必要になると、他の工場は投資して、雇用も増やしたが、「リストラしない工場」を掲げたチャタヌガでは踏ん切りがつかない。「規模を大きくして、次の不況がきたら対応できない」という心配が先に立つのだ。結局10年たってみると、他の工場が大きく伸びたのに対し、チャタヌガは取り残された。
 考えてみれば、こうしたチャタヌガの状況は、日本経済の姿とも一部重なり合う。「社員を大切にする」。この精神は日本企業が将来とも守るべき大事なことだが、あまりに労働市場の流動性が低いと、会社も個人も身動きが取れなくなり、成長機会を取り逃す。このジレンマをどう解消するかは、日本全体の課題である。


これってホント真理だよなあ、と思う。

坂根さんはジレンマって言ってるけど、これだけ不可逆的にグローバル化が進んでしまうと、日本的経営を捨てて流動性の高い社会に変わるしか道がないのは明白だと思う。
ただ難しいのは、一気に全部が流動性の高い社会に変わればいいけど、どうしてもタイムラグが出てしまうということ。
そうすると、どうしても一旦職を失ってしまうと次の職が簡単には見つからない、という事象がたくさん発生してしまう。
過渡期の問題だとは思うけどね。
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壁崩壊から四半世紀、変わったもの変わらないもの

2014-11-09 21:27:03 | Society
「ベルリンの壁崩壊」から25年(NHKニュース&スポーツ) - goo ニュース

ベルリンの壁が構築されたのが1961年、崩壊したのが1989年。
28年間建っていて、壊されてから今日で25年。
壁が建っていた期間に、壁が無くなって以降の期間が迫ろうとしている。

1989年、自分は高校2年生。
そろそろ大学受験のことでも考え始めるか、という時期。
実家の自室にテレビを買って、一番よくテレビを視ていた頃。
壁崩壊の様子も、ニュースステーションやらなんやらでよく視ていたことを覚えている。

会社の若い連中にソ連とか東ドイツの話をしても全くピンとこないようだ。
冷戦も完全に過去になった。

EU/ユーロ圏の現状を見れば世界は変わったようにも思えるし、プーチンの行状や中東情勢を見れば変わっていないようにも思える。

東アジア情勢の変化は激しい。
中国の存在は大きく変わった。
北朝鮮は?変わろうとしているのか?

今から25年後、何が変わっていて何が変わっていないのか、まったく想像がつかんね。
その頃自分は67歳か…(生きてれば)
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『満願』 米澤穂信

2014-11-04 22:44:22 | Books
満願
米澤 穂信
新潮社


米澤穂信の小説を読むのは初めてだったが、どうやらその筋ではかなり力を認められ、ファンも多い作家さんのようだ。
確かにそれも理解できる力量を感じた。
ここでいう力量とは構成力のことである。
自分の嫌いな伊坂幸太郎のような小手先の構成力ではなく、もっと骨太のものを感じる。

ただ、構成力が素晴らしい分、やや採点が厳しくなるというか、人物造型やサスペンスの描き方にもう一歩の物足りなさを覚える作品もあった。
以下、作品ごとの短評。

『夜警』
実は一番好み。
ベテラン警官と新人警官のキャラクタライゼーションに真実味があり、それが小説内での言動やもたらされる帰結と溶け合っている。
単に自分が職業小説好きだからかもしれんが。

『死人宿』
自殺者が多く出ることで有名な旅館を舞台に…とだけ聞けば陳腐だが、仲居になった元カノと主人公の価値観のすれ違いぶりの描き方がリアルで、悪くない。
ミステリとしてはやや浅い。

『柘榴』
好きな人は好きだろうが、自分にはイマイチ。
オチの方向性は早い段階で分かってしまった。
父親の人物像にもっと迫ってほしかった。
謎めかして書くには艶かしさが足りない。
女性読者へのウケはどうなんだろうね?

『万灯』
これも職業小説的。
というか映画的。
バングラデシュの資源開発に執念を燃やす商社マンが主役。
いきなり舞台が世界に広がり、アクション性も盛り込まれる。
気に入った。

『関守』
都市伝説を取材するライターが死亡事故の続出する峠のドライブインを訪れる。
一番一般ウケしそうだが、個人的にはイマイチ。
これも早い段階でオチが分かったし、オチに向かって逆算して書いている感がありあり。
形式として新しくない。

『満願』
かつて世話になった下宿先の美しい奥方が起こした殺人の弁護を引き受けた弁護士の回想。
ちょっと青春小説っぽい趣も。
どことなく聞いたことのあるような設定だが、オチには意外性あり。
が、意外性を補強するだけのリアリティには描き込みがやや足りないかな。

総じて読み応えはありました。
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