そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「畏るべき昭和天皇」 松本健一

2009-05-30 23:49:29 | Books
畏るべき昭和天皇
松本 健一
毎日新聞社

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昭和天皇という人物が持っていた、強さや聡明さ、政治的合理性については、保坂正康氏の著作などで、既に知ってはいたのですが、本著では史料として残された多数の証言に基づき、昭和史の様々な場面で現れた、その類稀なる「畏るべき」パーソナリティが多面的に検証されます。

「近衛は弱いね」だとか、杉山参謀総長に対する「太平洋はなお広いではないか」だとか、印象的な発言に纏わるエピソードは多々ありますが、著者が何よりも強調しているのは、昭和天皇が日本という国家において唯一人、「私」を捨てた「公け」の存在であろうとし続けたこと。
敗戦後も、平成の時代の皇室が今まさにそうであるような「民主国家における象徴天皇」ではなく、あくまで「天皇制下の民主主義」に対する信念を有していたこと。
それはまさしく(絶対主義的な意味ではなく)日本国は「天皇の国家」であることに対する信念であった、と。

勿論、昭和天皇がそのような信念を本当に持っていたのかどうかを証明する術はなく、それもまた著者の松本健一氏の「信念」ではあるわけですが、確かにここで紹介される数々のエピソードを通してみると、そのような昭和天皇像が浮かび上がってくる。

昭和が終わって早や20年以上の時が過ぎました。
自分は実際には昭和天皇の最晩年10数年しか知らないわけですが、このような大きな存在が実在していた時代と、「それ以後」の断絶は、思っていたよりも深いものなのではないか、そんな気にさせられました。
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「町長選挙」 奥田英朗

2009-05-28 23:15:15 | Books
町長選挙 (文春文庫)
奥田 英朗
文藝春秋


イン・ザ・プール」「空中ブランコ」に続く伊良部シリーズ第3弾。

前2作と異なるのは、それぞれの短編において、新聞社&プロ野球人気球団のオーナー、新興IT企業の社長、いつまでも若さを保つ人気女優、と誰もが明らかに分かる実在の人物をモデルにした患者を主人公にしている点。
さらに本のタイトルになっている「町長選挙」では、舞台を小さな島に移して、島を二分する町長選挙に巻き込まれる伊良部、という奇抜な設定が試みられています。

マンネリ化を防ごうという意図があったのではなかろうかと思いますが、そのぶん話がやや浮世離れしてしまって、前2作までにあった絶妙なリアリティが失われてしまった気も。
鮮やかさという点では、「空中ブランコ」の各編に比べると今一歩な印象を持ちました。
まあそれでも一気に読ませる面白さは相変わらずなのですが。
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「徳山道助の帰郷・殉愛」 柏原兵三

2009-05-25 22:10:07 | Books
徳山道助の帰郷・殉愛 (講談社文芸文庫)
柏原 兵三
講談社

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「徳山道助の帰郷」「殉愛」「坐棺」の3篇を収録。

「徳山道助の帰郷」は昭和42年下期の芥川賞受賞作。
大分の田舎の農家に生まれ、最後は陸軍中将まで上り詰めた老いた職業軍人が、終戦後10年を経て死期の近づくのを感じながら最後の帰郷を果たす。
これは本当に小説だろうか、と思わずにはいられない淡々とした筆致で、老いた元軍人の人生を振り返るとともに最晩年を迎えた心境を語らせる。
ごく一部センセーショナルな出来事を盛り込んではいるものの、基本的には取り立てて事件めいたものも起らず、著者自身の母方の祖父をモデルにしたという主人公の人生への、国への、故郷への想いを辿ることで、明治から昭和へと生きた日本人が経験した「時代」を感じることができます。

「殉愛」は、3篇の中で個人的には最も気に入りました。
著者自身をモデルにしたと思われる主人公の晩熟な学生が、間借り人である画家とフランス人妻、通いの家政婦として寄り付く美しい主婦との関わりの中で、静かに心乱される感覚がリアルでよい。

「坐棺」はもっとも私小説的色合いの濃い短い作品。
学生時代に、祖母の葬式のために富山の農村を訪れた際の回顧の形式をとり、古い因習に捉われた田舎での親族たちの確執を丹念に辿る。
ひとり先に帰京することになった主人公が思わぬハプニングに遭遇するラストが印象的。

柏原兵三は、芥川賞受賞して5年後に38歳で脳出血により急死。
今となっては実に地味な存在ですが、いずれも不思議な魅力のある小説でした。
すでに絶版になっているようですが、彼の「長い道」という小説は、藤子不二雄Aの「少年時代」の原作だそうです。
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マスクメン

2009-05-22 23:05:04 | Society
今週、仕事で、全国から100人くらい集まる会議で喋る機会があったんですけど、なんかみんなマスクしてて異様な光景でした。
関西から来た人と対面で話したときなど、妙に距離を置いて遠慮がちだったりして。

新型インフルエンザ騒動で冷静さを欠く日本人とメディアの異常【週刊 上杉隆】(ダイヤモンド・オンライン) - goo ニュース

ここにきて、日本人は騒ぎすぎじゃないか、という論調が増えてきましたね。
確かに、別に人ごみでもない屋外で、健康な人がマスクを外さないのはちょっとやり過ぎ。
ナウシカの腐海じゃないんだから。

まあ何でもかんでも欧米のレベルに合わせる必要もないので、今後強毒性のパンデミックに襲われたときに向けてのリハーサル、と考えれば、過剰反応も悪い面ばかりではないとは思いますが。
でも、マスクがどこに行っても買えない、という状況をみる限り、リハーサルも失敗していると言えるかも。

マスクなんかじゃウイルスは防げないよ、というのは正論だと思いますが、満員電車などでは付けないよりは付けたほうが多少は予防にはなるんじゃないかと思うし、気休めにしてもマスクしたい人はすればいいんじゃないかと思います。
それよりも、未使用のマスクを常に携帯しておいて、電車の中で近くにいる人がマスクもせずにゴホゴホ始めたら、「これ付けてください」と差し出すのが一番効果的な使い方かもしれませんが。
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日本はコメ輸出国になれるか

2009-05-19 23:07:43 | Economics

今日の日経新聞朝刊「経済教室」山下一仁・東京財団上席研究員の論文「農業ビッグバン今こそ」より。

日本の米価(60キログラム当たり)は国内需要の減少により十年前の二万円から一万四千円に低下したが、日本が輸入している中国産の価格は二千円から一万円にまで上昇している。減反をやめれば、米価は約九千五百円に低下し、国内の需要は一千万トン近くに拡大する。輸入米よりも国内価格が下がるので、事故米の原因ともなったミニマムアクセス米は輸入しなくてもよい。関税も要らなくなるので世界貿易機関(WTO)や自由貿易協定(FTA)交渉で後ろ向きの対応をしなくて済む。
価格低下によって、新しい需要を取り込むことができる。減反のおかげでおいししいコメへの品種改良は進んだ。食味では世界に冠たる日本米が価格競争力を強化すれば、発展するアジア市場に参入できるようになる。減反を廃止するだけで輸出が視野に入り、さらに規模を拡大すれば輸出を活発に行えるような価格状況になる。輸出価格はさらに上昇するだろう。中国が都市部と農村部の一人当たりの所得格差が三倍以上に拡大しているという三農問題を解決していくと、農村部の労働コストが上昇し、中国の農産物価格も上昇していくからだ。

日本米と中国米の価格差がここまで接近しているとは俄かには信じがたい気もするけど、こういう話をきくと農業問題に対する見方も変わってくる。
環境や医療・介護と並んで「成長分野」に農業を挙げるのは既に紋切り型になってしまっている印象ですが、このようなストーリーを描いて農業の生産性を語るのはちょっと夢があっていいな、と思います。

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不毛な選択

2009-05-17 16:49:30 | Politcs
鳩山新代表、小沢氏は選挙担当 記者団の質問に答える(共同通信) - goo ニュース

しかしまあ、まったく盛り上がらない代表選。
あえて世間の注目を浴びないように、狙ってやってるとしか思えない。

つまり、こういうことなんでしょう。
小沢一郎という人は、無党派層を取り込んで票を稼ぐことなんてビタ一文考えていない。
選挙とは組織を固めることだという信念に凝り固まっている。

ということで、バラマキ派が勢力を巻き返した自公と、労組票に通じる党内左派と社民・国民新党との野党協力への配慮優先の民主党という、実質的に違いのない選択肢しか用意されないことになる。
無党派層の関心は高まらず、それでますます組織選挙の色合いが濃くなるという不毛。

といっても、こんなこといつまでも続けてはいられないという流れは止められるはずもなく、こういうことを何度か繰り返していく中で少しずつ変わっていくのしかないのかもしれないですが。

それにしてもウオッカは鮮やかでした。
ああいうふうにスカッといってくれるといいのだけれど。
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「スプーク・カントリー」 ウィリアム・ギブスン

2009-05-15 22:22:57 | Books
スプーク・カントリー (海外SFノヴェルズ)
ウィリアム・ギブスン
早川書房

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ウィリアム・ギブスンの名前も知らなかったくらい、SF小説には門外漢の自分ですが、たまには普段読まないジャンルでも…と思い手を出してみました。

舞台になっているのは現代の現実世界そのものだし、登場人物も多少変わったプロフィールの持ち主であってもごく普通の生身の人間だし、登場する技術も現実の技術水準からかけ離れたものは出てこない。
それでもやはり、これは「SF」なんだな、という印象は受ける。

その印象は、ディテール描写に由来しているのだろう。
モノにしてもセリフにしても、そのディテールに配慮された表現は、普通の小説とは違っている。
特に情景描写が印象的。
ホテルの部屋やバーにしても、車やヘリや飛行機などの乗り物にしても、或いは、ロスアンゼルス、ニューヨーク、そしてヴァンクーヴァーといった都市の風景にしても、訳文で読んでいることもあってその情景を思い浮かべ切れないところがあるにしても、その独特の表現が、どこか異世界感を漂わせる。

まったく関わり合いを持たない3人の主要登場人物が、それぞれに見えない力に巻き込まれていく様子を、短い章をスピーディーに切り返しながら展開しながら進めていく手法も、読む者を惹きつける力があるのだけれど、一方で魅力ある登場人物たちが最終的に絡んでいくあたりが案外あっさりしていて、やや肩透かしをくらった感も。
一言でいえば、そういう小説ではない、ということなんだろうけど。

何となく最後まで小説世界に入り込みきれなかった気もするけど、楽しんで読むことはできました。
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トランジスタ・ラジオ

2009-05-14 22:41:41 | Entertainment

日曜日にNHKでやってた忌野清志郎の追悼番組を録画しておいたのを観ました。
驚くのは1983年くらいのライブ映像に、全く古さを感じないこと。
「トランジスタ・ラジオ」とか、改めて聴くと感動してしまう。

授業中 あくびしてたら 口がでっかくなっちまった
居眠りばかりしてたら もう 目が小さくなっちまった

こんな詞思いつくなんて、やっぱり天才だ。

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腸禍

2009-05-13 22:44:35 | Diary
予兆は日曜の夕方。
夕食を一応一通り食べたものの、いつもの食欲がない。
食後、風呂に入った後あたりから全身がダルくなり、9時過ぎに就寝。
激しい腹痛で目覚めたのは午前4時半。
それから朝まで断続的にトイレに駆け込むことになり、全く眠れず。
出社できる状況ではなかったので、とりあえず会社に連絡し、朝イチで医者に。
急性の腸炎、おそらくウイルス性だろうとのこと。
薬を処方してもらって、午後は出社したものの、その日一日水分を摂るのみで完全絶食。
昨日(火曜)は、朝昼ウィダーinゼリーのみ、晩はちょっとだけお粥を。
今日になってようやく少し落ち着いてきたので、夕食は野菜スープを作ってもらって、ちょっと量も食べられるようになった。
久々のまともな食事は美味かった…

いやー、こんなにひどいのは人生初です。
体重も2kgくらい減ってしまった。
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二子玉川にフットボールアワー現る

2009-05-09 21:36:26 | Diary
ここ数日、雨続きだったけど、今日は久々の快晴で暑いくらい。
昨晩は大学時代の友人と遅くまで飲んでたにも関わらず、今朝は6時過ぎにコドモに起こされてしまいましたが、二日酔いもなく意外に快調。

玉川高島屋のイベントで吉本のお笑いライブをやるというので行ってみることに。
今日は、アホマイルド、エハラマサヒロ、フットボールアワーの3組が登場。
1階の吹き抜けスペースが会場で、客層もお笑いイベントに向いているとはけっして言えない雰囲気(芸人自身、ネタの中でそのへんいじってましたが)でしたけど、それなりの盛況でした。
コドモがちょろちょろするので落ち着いて観ていられなかったけど。

アホマイルドは初めて観ましたが、うーん、ちょっと苦しい。
組み体操風の体を張った芸なのでわかりやすいっちゃわかりやすいんんだけど、声も聞きとりにくくて、正直スベってたかな。
エハラマサヒロは、テレビで何度か観たネタでしたが、歌芸ってのはやっぱり盛り上がっていいですね。
フットボールアワーは、ネタはもちろんアドリブでの観客いじりなども堂に入っていて、さすがという感じでした。
岩尾もいいんだけど、後藤のツッコミはうまいよなぁといつも感心させられます。
と、夜テレビをみてたら、フットボールアワー、レッドカーペット賞とってましたね。

明日も同じイベントで、麒麟やペナルティが来ると言うので、どうせヒマだしまた行ってみようかなどとヨメと話しています。
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