畏るべき昭和天皇松本 健一毎日新聞社このアイテムの詳細を見る |
昭和天皇という人物が持っていた、強さや聡明さ、政治的合理性については、保坂正康氏の著作などで、既に知ってはいたのですが、本著では史料として残された多数の証言に基づき、昭和史の様々な場面で現れた、その類稀なる「畏るべき」パーソナリティが多面的に検証されます。
「近衛は弱いね」だとか、杉山参謀総長に対する「太平洋はなお広いではないか」だとか、印象的な発言に纏わるエピソードは多々ありますが、著者が何よりも強調しているのは、昭和天皇が日本という国家において唯一人、「私」を捨てた「公け」の存在であろうとし続けたこと。
敗戦後も、平成の時代の皇室が今まさにそうであるような「民主国家における象徴天皇」ではなく、あくまで「天皇制下の民主主義」に対する信念を有していたこと。
それはまさしく(絶対主義的な意味ではなく)日本国は「天皇の国家」であることに対する信念であった、と。
勿論、昭和天皇がそのような信念を本当に持っていたのかどうかを証明する術はなく、それもまた著者の松本健一氏の「信念」ではあるわけですが、確かにここで紹介される数々のエピソードを通してみると、そのような昭和天皇像が浮かび上がってくる。
昭和が終わって早や20年以上の時が過ぎました。
自分は実際には昭和天皇の最晩年10数年しか知らないわけですが、このような大きな存在が実在していた時代と、「それ以後」の断絶は、思っていたよりも深いものなのではないか、そんな気にさせられました。