デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) | |
ティム・ブラウン | |
早川書房 |
最近、仕事上でもデザイン思考というキーワードが出てくることが多くなってきたので、結局なんなのよ?という見識を得たくて、入門編を求めて読んでみた。
著者のティム・ブラウンは、Appleのマウスなどをデザインした米国のデザインコンサルティング会社「IDEO」のCEO。
すっかり忘れていたのだが、以前読んだ『クリエイティブ・マインドセット』の著者(トム&デイヴィッド・ケリー)がそのIDEOの創設者で、その本の中でもデザイン思考について触れられていたのだった。
このブログにもブックレビューを書いていたのだが、ほとんど印象が残っていない。
結局、全然ピンと来ていなかったということなのだろう。
で、この本。
デザイン思考による新たな発想でイノベーションを生み出した事例が豊富に紹介されているのだが、どれも断片的で、字面だけ読んでいてもイメージが湧いてこない。
机上の知識だけ得ようとしても意味がなく、実践にこそ真髄があるということか。
そんな中でも印象に残った部分を引用すると…
「私たちがデザインしようとしているのは、名詞ではなく、動詞なのだ(たとえば「電話」〔モノ〕をデザインするのではなく「電話をかけること」〔経験〕をデザインする、ということ)」
その結果、アプローチが変更された。看護師は、ナース・ステーションではなく、患者の前で情報を交換するようになった。…さらに重要なのは、患者がプロセスの一部になったということだ。患者自身が自分にとって重要な情報を提起できるようになったのだ。
サービス企業の中に、将来的なイノベーションに投資する文化が見られることはほとんどない。仮にあったとしても、投資の対象はサービスそのものではなく、サービスを実現するインフラストラクチャーに集中する傾向にある。
デザイン思考は発散的思考に始まる。つまり、選択肢の幅を狭めるのではなく、あえて広げようとすることから始まるのだ。
モノではなく、サービスをデザインするということ。
一つ目、二つ目の引用部分はそのことをよく現わしている実例。
ところが、サービス業を営む企業ではそのような発想がこれまでほとんど導入されてこなかった、と言っているのが三つ目の引用部分。
そしてデザイン思考家が力を発揮するのはイノベーションの下流ではなく上流である、というのが四つ目の引用部分で言っていること。
モノづくり、サービス業、いずれにおいても、B2Cであればイメージもわきやすいが、著者によればデザイン思考は組織の構築など社内の企画部門などの仕事にも役に立つという。
「人間中心主義」で発想するということであれば、確かにそうかもしれない。