そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

子や孫の世代のために

2009-02-27 23:05:59 | Politcs

「溜池通信」の2月26日付「かんべえの不規則発言」にオバマ大統領の議会演説に対する所感が記されていました。
深く感銘を受けたので、僭越ながら全文引用させていただきたいと思います(太字体は引用者によるもの)。

○オバマの議会演説を聞いて思ったことを、若干追加しておきます。

○アメリカ政治の決まり文句に、「子や孫の世代のために」という言葉があります。もともとが移民の作った国ですから、自分たちは父の世代より豊かに、子や孫の世代はさらに恵まれるべし、というのがあの国における一種の大義(もしくは強迫観念)です。

○ゆえに「子や孫の世代のために」と言われると、誰も反対ができない。オバマ大統領が「教育への投資が重要だ」「赤字のツケを後世に残してはならない」と言った場合、党派を超えたスタンディングオベーションになる。これは非常に健康なことだと思うのです。

○というのは、日本の政治で「将来の世代のために」なんて言葉は、少なくとも近年は聞いたことがない。「年寄りをいじめるな」というのはよく聞くし、「若者が割りを食っている」という主張も最近は増えてきたけれども、「これから生まれてくる世代」のことなんて、誰か考えているんでしょうか。

○少子化が問題だ、もっと子供を増やさなければならない、という声がある。しかるにその動機は「年金を払ってもらえないから」であったりする。つまりこれから生まれてくるのは、巨額の借金と介護の負担を背負った世代ということになる。それじゃあ出生率が上がらないのも無理はないですな。そんな浅ましい動機に支えられた少子化対策が、効果を挙げることはけっしてないでしょう。

(「だったら移民を増やそう」という意見も、その浅ましさにおいては大同小異です)。

とにかく、「この俺はいくらもらえるんだ」式のスモール・ポリティクスの発想でいる限り、建設的な提案など出てくるはずがない。前向きのエネルギーも生まれては来ないでしょう。嘘でもいいから、「未来の世代のために、いい国を残そう」という発想がなければならない。本来の日本社会というものは、子供を大事にする文化があったはずだと思うのですが。

ともかく、政治家が悪い、メディアが悪い、官僚が悪いなどと言っている間は、いわゆる「閉塞感」がいつまでも続くのではないかと思いますぞ。

自戒も込めて、まったくおっしゃる通りだと思います。
勿論、人の親である自分は、我が子が将来を過ごすことになる社会の在り様に思いを巡らせることがないわけではありませんが、それにしても結局「我が子」のことしか考えていない。
ましてや子供を持つまでそんなこと考えもしなかった。
ダメですな、こんなことでは。
目を開かれた思いです。

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「iPS細胞ができた!」 山中伸弥、畑中正一

2009-02-26 23:56:33 | Books
iPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢
山中 伸弥,畑中 正一
集英社

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人類史上に残る大発見と言われた京大の山中伸弥教授研究室によるiPS細胞発見について、元・京大ウイルス研究所所長でシオノギ製薬副社長も務めた畑中氏との対談インタビュー形式で紹介した本です。
まったくの門外漢で、iPS細胞といわれても何のことやらさっぱりわからなかった自分にも、どんな発見で将来的にどのように役立つ可能性があるのか理解することができました。
ただ、初歩的なことがわかると、次はもう少し詳しい話が知りたくなるのが人情ってもので、例えば「レトロウイルス」だとか「転写因子」だとか、この本だと簡単な注釈で済まされてしまっている内容について、より踏み込んだ解説があればよかったのになどと思ってしまいます。
というのは、この本、やたらと活字が大きくて、しかも代り映えのしない二人の対談風景を写した写真が多用されてたりして、ページ数の割に内容が薄いんですね。
それならもうちょっと内容充実させてくれてもいいのに、とついつい思ってしまいます。

対談の中で印象に残ったのは、山中氏のアメリカでの体験談。
学会で渡米したときに、たまたま乗ったタクシーで、運転手に「何の研究をしているのか?」と訊かれて、「幹細胞だ」と答えたらその話題で盛り上がったというエピソード。
日本じゃあり得ない話で、米国の一般人レベルでの医科学に対する関心は日本とは比べ物にならず、それが科学に関する彼我の層の厚さの違いにつながっているのでは、という話です。
何となく、数理系については一般には日本のほうが上をいってるようなイメージを持っていたけど、そのへん認識を改めなきゃならないようです。
そんなこともあって、iPS細胞についても、応用研究については日本はかなり劣勢に立たされるのでは、というような悲観的な見方も述べられています。
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「壁と卵」の話

2009-02-25 23:42:37 | Society
先週の話になりますが、村上春樹がエルサレム賞授賞式で行ったスピーチがいろんなところで話題になっています。
自分が普段回覧させてもらっている著名ブログでも、池田信夫氏(これ)や内田樹氏(これこれ)が採り上げています。
(ちなみに現時点「壁と卵」でググると池田氏の記事が一番目、内田氏の記事が二番目にヒットする。)
「君は日本人の誇りだ」と言う池田氏のように称賛する声が多い一方、「これではイスラエルに対する批判になっていない」という厳しい見方もあるようです。

自分の場合、文学でも映画でも、その「作品」に込められた主張だとかメッセージだとかを「解釈」することにあまり興味がなく、その「作品」の表象、即ち「表現」としての力や面白さに関心があるので、このスピーチについても、その政治的な含意を探ることよりも、「壁と卵」というメタファーの巧みさに惹かれます。
この「壁と卵」という表現の選択は本当に秀逸だと思う。
「壁と卵」といえば村上春樹、村上春樹といえば「壁と卵」、というように、きっと数十年語り継がれるくらいのインパンクとを世間に与えたのではないでしょうか。
それくらい「記憶にこびりつく」表現だと思う。
(それに比べると、ガザ侵攻の直後というコンテクストや、スピーチに込められた政治的含意などは、時を経るにつれ捨象され、忘れられたり捻じ曲げられたりするに違いない。
だからこそ自分は「解釈」することにあまり関心を持てないのです。)

先日読んだ「アイデアのちから」のチェックリストに沿ってチェックすれば、このスピーチは以下の点で優れていると言えるのではないかと思います。

まず何より「意外性がある」。
「壁」と「卵」という組み合わせが意外だし、そもそも文学賞の受賞スピーチでそんな単語が出てくることに意外性がある。

そして「具体的である」。
全体的には抽象的でわかりにくい部分もありますが、「卵が壁にぶつかる」というイメージは万人が容易に頭に浮かべることができる具体性を持っている。

さらに「物語性がある」。
物語を語っているわけではありませんが、卵の立場に立つ、というのは「挑戦」の筋書きにつながるイメージを喚起する。

やはりこの人、表現者としては凄いなぁと素直に思う。
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オスカー

2009-02-23 23:27:40 | Entertainment
「おくりびと」に外国語映画賞 米アカデミー賞(朝日新聞) - goo ニュース

賞を獲ることに価値があるわけでも、賞を獲ったから価値があるわけでもないと分かってはいても、ついつい気になってしまうアカデミー賞。

「おくりびと」は観たいと思いつつ観ていないので、作品にコメントすることはできないのですが、日本映画がオスカー、というだけで、やはり「おぉ」と思わされるものはあります。
日本映画が云々というより、このことによって日本の俳優さんが世界中で注目されることのほうが嬉しいような気がしたりもするんですが。

いろんなところで非常に評判のいい、イーストウッドの「チェンジリング」は無冠だったみたいで。
今週末観に行くつもりです。

主演男優賞のショーン・ペンはゲイ映画ですか。
「ブロークバック・マウンテン」といい、このジャンルは彼の地ではウケがいいのでしょうかね。
ガス・ヴァン・サントといえば「マイ・ブライベート・アイダホ」なんて映画もありましたな。

作品賞と監督賞はダニー・ボイル。
「トレインスポッティング」から何年経つんだろう。

ヒース・レジャーは、いろんな意味で受賞しないという解はなかったのでしょうな…
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「アイデアのちから」 チップ・ハース、ダン・ハース

2009-02-22 00:18:30 | Books
アイデアのちから
チップ・ハース,ダン・ハース
日経BP社

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邦題から受ける印象だと、独創的ですぐれたアイデアを生み出すための発想力や構想力について書かれた本のように思えますが、そうではありません。
原題は"Made to Stick"、自分のアイデアを多くの人たちの頭に”くっつけさせる”、すなわち脳裏に刻み深く印象付けるためにはどうすべきか、効果的なコミュニケーションのスキル・テクニックを豊富な実例をもって教えてくれる極めて実用的な内容です。
逆に言うと、独創的な発想力などまったく持ち合わせていない平凡な人でも、この本で提唱されるチェックリストを実践すれば、自身のアイデアを印象的で多くの人を惹きつけるものに高めることができる、というのがこの本の主張です。

チェックリストは”SUCCES”という六文字で表されます。
 Simple「単純明快であること」
 Unexpected「意外性があること」
 Concrete「具体的であること」
 Credentialed「信頼性があること」
 Emotional「感情に訴えること」
 Story「物語性があること」

この本に書かれていることのエッセンスは、終章のラストにダイジェスト形式でまとめられているので、そこの部分だけでも切り取って手元に置いておけば役立ちそうなんですが、それでも9ページもある。
「核となる部分を簡潔に」というこの本の教えに従い、個人的に印象に残った部分をさらに厳選して、以下備忘のため残しておこうと思います。

<単純明快であること>
・逆ピラミッド構造:新聞記事のリード。
・既にあるものを利用する:既存のイメージを活用。「ザボンとは要するに超大型のグレープフルーツ」。

<意外性があること>
・聞き手の推測機械を打ち壊す。
・謎を生みだして、関心をつなぎとめる。「土星の輪は何でできているのか?」

<具体的であること>
・「サドルバック・サム」:宗教団体が想定する「教会に来てほしい」詳細な人物像。

<信頼性があること>
・「ダースベイダーの歯ブラシ」:細部を語ることで生まれる内在的信頼性。
・シナトラ・テスト:「ここでうまくいけば、どこへ行ってもうまくいくさ」

<感情に訴えること>
・マザー・テレサの法則:「個人を見た時に私は行動する」
・マズローのピラミッド底辺部を避ける。:他人は自分より下にいるという誤った思い込み。
・「テキサスを怒らせるな」「テキサス人はポイ捨てをしない」:アイデンティティに訴える。
・「知の呪縛」:「他人も自分と同じくらい気にかけている」という思い込み。ピアノ二重奏財団の例。

<物語性>
・「シミュレーションとしての物語」と「励ましとしての物語」
・三つの筋書:「挑戦」「絆」「創造性」
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グローバルインバランス

2009-02-21 00:17:01 | Economics

今週2月17日(火)~19日(木)にかけて、日経新聞朝刊「経済教室」では、「国際不均衡 どう是正」と題して、2000年以降米国の経常赤字を中国・中東などの新興国の経常黒字が支えるいわゆる「グローバルインバランス」問題について、3回シリーズで特集されていました。
以下は、その備忘メモです。

第1回は、小川英治・一橋大学教授。
「経常収支の黒字国と赤字国とは、ミラーイメージ(鏡像)であり、どちらにグローバルインバランスの責任があるのかと、犯人捜しをするのは無意味」とした上で、不均衡をいかに解消するかという問題を考えるにあたり、中国の経常収支黒字縮小に向けた方策の方向性が論じられています。
方策としては「過剰貯蓄の解消」と「人民元切り上げ」の2つの切り口が主張されますが、これら2つは両立しないことが以下のように解説されます。

賃金・物価が伸縮的な経済であれば、国内総生産(GDP)は必ず完全雇用水準に落ち着き、これをもとに貯蓄の大きさが決まり、貯蓄投資ギャップから経常収支が決定される。したがって、伸縮的な経済の下では、経常収支の不均衡を調整するのは為替ではなく、貯蓄の多寡になる。
一方、賃金・物価が硬直的な経済であれば、GDPは常に完全雇用水準で決まるわけではない。すなわちこの状況でも資本移動は比較的スムーズでまず為替相場が決まるので、為替相場は経常収支不均衡の調整手段となりうる。

実証分析によれば「中国においては賃金や物価は伸縮的であり、貯蓄が経常収支の主要な決定要因であることが判明した」とのこと。中国の経常収支黒字を減少させるには「貯蓄を減少させ、消費を増加させることが有効である」と言えるとのことです。
(これに対して、日本は為替の経常収支に対する影響が大きく、貯蓄減少よりも為替相場により経常収支を調整する方策の有効性が高い、とのこと。中国に比べて外需依存が相対的に低いため、貯蓄率を減じても経常黒字縮小の効果が低い、ということのようです。)
中国の貯蓄減少は内需主導への転換が必要であり、そのためには社会保障制度を整備して将来不安に基づく過剰貯蓄傾向を解消することが肝要、と結論付けられています。

第2回は、原田泰・大和総研チーフエコノミスト。
まず、「中国の過剰貯蓄が米国の実質金利を低下を通じて米国のバブルの原因となった」というポールソン前財務長官の発言について、中国の黒字拡大と米国の金利低下に事実として時期的なズレがあることを指摘した上で、仮に中国の経常収支黒字が米金利低下に連動したという議論が正しいとしても、それは「実質金利の低下がもたらす均衡であって、バブルでもなんでもない」と論じます。
さらに、以下のように解説されます。

過剰貯蓄が一時的なら米国が低い金利を当て込んで過大な投資をした後、中国の人々が、突然、自分たちが貯蓄しすぎていたことに気がつき、消費を拡大し、貯蓄を減らしだしたら、米国の金利が上がり、過大な投資プロジェクトが破綻することになるからだ。
だが、住宅バブルがはじけたのは、中国の貯蓄が減少したからではない。米国の住宅価格が、中国の過剰貯蓄でも支えきれないほど上がりすぎたことが崩壊の主因である。中国の過剰貯蓄が原因なら、米国の住宅バブルが破裂したときには、中国の消費が急拡大していなければならないが、そんなことは起きていない。

次に、日本の低金利政策がいわゆる「円キャリー」を通じて米国への資金流入をもたらしバブルの原因となった、といった議論についても、「実質金利と名目金利の違いを無視した議論」と否定します。
海外の金利が日本よりも高いのは、インフレ率が高いためであり、実質金利で比べれば日本の金利は決して低くない、とのこと。

米国金融危機の原因を中国や日本に求めるのは誤りであり、あくまで主因は「米国の金融監督システムの不備と、その不備を悪用した人々にある」と結ばれています。

第3回は、橋本優子・東洋大学准教授。
欧州諸国を中心に、「金融部門が世界的にフロー、ストック両面で拡大した」ことがグローバルインバランスの背景にあることを指摘。
その上で、今般の金融危機事態がグローバルインバランス解消のきっかけになると解説されています。
そして、金融部門の痛手が相対的に小さいアジアにおいて、危機克服の過程で内需拡大が実現できればグローバルインバランス縮小の傾向はさらに揺るぎないものになる、と説明されています。


グローバルインバランス発生の主因をどこか一か所に特定することがナンセンスであることは、冷静に考えれば当然のこと。
内需拡大を果たせないまま急激に経済拡大してしまった新興国と、金融監督の仕組みをうまく機能させられずバブルを発生させてしまった米国という、それぞれの事情が折悪しく噛み合ってしまった…といったところでしょうか。

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正気か?!

2009-02-18 23:56:10 | Politcs

夕刊の記事を見て、目を疑いました。

追加景気対策、地デジTV購入に2万円支援 自民が検討(NIKKEI NET)

 自民党は追加景気対策の一環として、地上デジタル放送が受信できるテレビやチューナーを購入した全世帯に一律2万円程度の支援金を配布する方向で検討に入った。2011年7月に地上デジタル放送へ全面移行する計画も1年間前倒しして、早期普及を目指す。液晶テレビなど急激な需要落ち込みに悩む電機業界を支援する狙いもある。

 自民党のe―Japan特命委員会(小坂憲次委員長)が18日、「IT(情報技術)による景気・雇用・環境緊急対策パッケージ」の議論に着手、3月までの取りまとめを目指す。国税の申告などの行政手続きを電子化する電子政府計画、電気自動車普及なども前倒しし、合計で7兆円規模の経済効果を見込む。(16:01)

新聞記事によれば、5千万世帯に2万円ずつ配るつもりらしい。
2兆円ですよ、2兆円!
テレビ買わせるために2兆円の税金遣おうってんだから…
政治家の浅知恵だか官僚の入れ知恵だかわからんけど、とても正気とは思えません。
そもそも、地デジに移行して何かいいことあるのか全く国民的に理解されていないってのに、こんな歳出許されると思ってるんだろうか。
家電メーカーやテレビ業界の延命のため?と勘ぐられても仕方ないのでは。

「景気対策になる」というけど、特需が終われば結局元の木阿弥。
せっかく家電業界が淘汰整理され、外需製造業依存の経済構造が変革されるチャンスだってのに…
政治=バラマキだと思ってる輩が衰退しない限り、日本は変わらない。
結局落ちるところまで落ちるしかないのかもしれない。

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「百年に一度」の欺瞞

2009-02-13 00:18:45 | Economics

またまた日経新聞朝刊「経済教室」から。
2月12日付け同欄、大田弘子・政策研究大学院大学教授(前・経済財政担当大臣)の論文「供給構造の改革こそ本筋」よりメモ。

 現状は「百年に一度の危機」という言葉でひとくくりに表現されることが多い。だが何が問題で、どんな症状を呈しているかは国によって異なる。米国・欧州の状況は、全力疾走中に骨折したようなもので、ショックが極めて大きい。他方、日本の場合は内臓疾患を抱えての転倒だと私は考えている。地域経済の停滞や消費不振は、金融危機という外的ショックで起きたわけではない。構造的な問題を抱え以前から弱かった部分が、危機によってさらに弱まっているのである。したがって、骨折のように添え木で治療するというより、体質強化を伴う取り組みが不可欠である。
 (中略)
 では、日本が構造的に抱える弱みとは何か。第一はサービス産業と農業の生産性の低さであり、第二は、対日直接投資の低さなどグローバル化への取り組みの遅れであり、第三は、硬直的な雇用慣行による人材のロスである。小売業、運輸業、飲食・宿泊業などの生産性の低さは、地域経済の弱さに直結している。また、就業者の七割を占めるサービス産業で賃金が上がらなければ消費も伸びない。海外から直接投資をよびこみ、新たな発想や技術に刺激を受けながら、この分野の生産性を高めることが不可欠である。
 (中略)
 景気対策の名の下に不要な歳出まで拡大させ、弱いところを弱いままに保護しても、何ら問題は解決しなかったことを、私たちは90年代に十分に経験したはずである。

この人、大臣時代はまったく存在感無かったな、という印象ですが、まともなこと書いてますね。
特に、「百年に一度の危機」という都合のよいフレーズの欺瞞を暴いた部分や、骨折と内臓疾患の比喩などはなかなか鮮やかな表現だと思いました。
ただ、上で引用しなかった部分に書かれた具体策は、いまいちピンと来るものもなく、面白味もありませんでした。
そのあたりが理論家としては優れていたとしても、政治家としては力を発揮できなかった所以なのかもしれません。

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通貨発行益と政府紙幣

2009-02-11 01:05:57 | Economics

2月10日日経新聞朝刊「経済教室」深尾光洋・日本経済研究センター理事長の論文「効果ない政府紙幣発行」から以下メモ。

まずは通貨発行益について。

 現在の日本では、通貨発行益を認識するのに二つの方法を採用している。
 日銀が市場から国債を買い入れ、代金として日銀券を売り手に渡す場合、購入した国債を日銀の資産、発行した日銀券を負債に計上する。日銀はこの段階では日銀券発行の利益を認識せず、国債からの金利収入が入った段階で日銀券製造費や経費などを差し引いた残額を利益計上する。
 一方コイン発行では、政府は発行増加額の95%を発行益として認識し、5%を将来回収する際の準備金として積み立てる。このため発行増加額の95%から貨幣の鋳造コストを差し引いた額が、財政収入として計上されている。

政府と日銀で通貨発行益の認識方法が異なるのは、単なる会計方式の違いであり、日銀のほうがより保守的な(安全サイドに立った)会計方式と言えるようです。

次に、政府紙幣発行の帰結について。

 政府紙幣発行で、政府は本当に将来返済しなくてよい追加歳入を手にできるのか。結論からいえば、将来のどこかでインフレにして物価を上昇させ、通貨に対する取引需要を増大させることができれば、答はイエスである。だが国民には、「インフレタックス」という負担が発生する。つまり物価上昇で通貨価値が下落するという負担である。
 逆に、政府紙幣を発行してインフレにしない場合、政府は発行時点で紙幣発行益を計上できる。だが日銀収益減少による日銀から政府への納付金の減少が発生するため、政府は将来増税が必要になる。さらに巨額の政府紙幣を発行する場合には、日銀収益が赤字になり、政府から日銀への補助金が必要になることも考えられる。このように、政府紙幣発行は、将来の日銀収益を先取りするだけである。

このあたりの議論は素人には難しすぎてなかなか理解しづらいんですが、これがインフレ政策であるということは分かります。
結局のところ、インフレのマイナス面と、このままデフレが進行していくマイナス面を比較して、どっちが「まし」か、という議論に行きついちゃうのかもしれませんが・・・

ところで、政府紙幣だとか無利子国債だとか、「ちょっと変わった話」に政治家が飛びつくのには、選挙を見据えて「がんばってる」感を少しでも醸し出したいという想いもあるんでしょうね。
あるいは、鳩山総務相の郵政・オリックス叩きだとか、政府vs人事院のバトルだとかも、「悪役」を立てて「闘ってる」感を創出する戦術なんだろうなあ、などと思ったりする今日この頃です。

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「天然ガスが日本を救う」 石井 彰

2009-02-07 23:50:11 | Books
天然ガスが日本を救う 知られざる資源の政治経済学
石井 彰
日経BP社

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著者は天然ガスを「知られざる実力者」と表現しています。
近年、東シベリアなど日本近隣地域を含め世界的に大規模ガス田が見つかり埋蔵量の面でのポテンシャルが有望で、且つCO2排出の面でも天然ガスはかなりの優等生であるとのこと。
「クリーンエネルギー」というと日本では太陽光発電だとか風力発電などがまず話題に上るわけですが、これらは話題性はあっても広く実用化するにはまだまだ技術的なハードルが高い。
CO2排出を抑えるという点では優れている原子力利用も推進するには政治面での壁がある。
それよりも(現状日本では存在感が薄くても)欧米では利用が伸びている天然ガスのプレゼンスを高めるべきだと主張されています。

天然ガスの他のエネルギーと比べての特徴は、輸送にコストがかかること。
常温では気体なので、長距離を輸送するにはパイプラインが必要になります。
欧米では基幹パイプライン網が発達している一方、日本での天然ガス利用はをLNG(液化天然ガス)の輸入が以前より中心になっていました。
LNGはタンカーで輸入されるわけですが、日本の場合、港湾から内地へとガスを送る国内のパイプライン網も未発達(韓国ではかなり発達しているそうです)で、その要因としては日本ではガス会社の供給地域が細分化され、広域をカバーする大規模ガス会社が存在しないことが挙げられています。

固定的なパイプラインによる輸送という制約があるため、天然ガスの市場は現状石油のようにはグローバル化しておらず、相対での取引が中心になっているとのこと(今後はそのあたりも事情も変わってゆきそうだとのことですが)。
物理的に取引相手を変えることが困難であるがゆえ、天然ガスの国際取引においては売る側も買う側も相互依存を高めざるを得ない。
最近、ロシアがウクライナ向けの天然ガス送出をストップさせ欧州への天然ガス供給が滞ったという話題がロシアを「悪役」に据える形で報道されましたが、著者に言わせれば、上のような事情を勘案すると、ロシアが一方的なバーゲニングパワーを持っているかのような捉え方はナンセンスで、西側メディアのプロパガンダ的側面が強いということです。
この辺は目からウロコでした。

個人的に、サハリンでの天然ガス開発の件や日本付近の海底に眠るメタンハイドレートの件などのニュースには関心があったんですが、詳しいことはまったく分かっていなかったため、読んでみた次第。
著者いわく、おそらく、日本で一般向け、特に一般ビジネスマン向けに書かれた最初の天然ガス啓蒙書、とのことですが、確かに自分も含めて世間ではこの本に書かれているようなことはほとんど知られておらず、その一方でもっと世間一般に知られるべきものであるということを再認識しました。

それにしても、日本でここまで天然ガスについての関心が高まらない理由って何なんでしょうかね?
本の中でもちょっと触れられてたけど、原子力利用を推進したい勢力の政治圧力とか影響してるんでしょうか。
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