そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『ザ・ゴール』『ザ・ゴール2』 エリヤフ・ゴールドラット

2018-02-12 21:16:46 | Books
ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か
エリヤフ・ゴールドラット、三本木 亮
ダイヤモンド社


ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス
エリヤフ・ゴールドラット、三本木 亮
ダイヤモンド社


Kindle版にて読了。

思考プロセスについて学べる本がないかとAmazonを探索して辿り着いたのだが、思考プロセスをテーマにしているのは『ザ・ゴール2』のほうだった。
せっかくなので1作目から読んでみるかと2冊を連読。

完全に小説の形式を採っているのには驚いた。
1作目で、不採算の工場の責任者として建て直しに成功した主人公が、数年後を舞台にした2作目では経営幹部として多角化したグループ事業の売却交渉に挑む。
という点では『島耕作』っぽいのだが、大した仕事もせずに運と縁だけで出世していく島耕作と違って、こちらの主人公は仕事に苦悩し、必死に取り組んでいる。

ゴールドラット自身をモデルにした主人公の恩師や、工場・会社のスタッフ・幹部とのディスカッションを中心に理論と方法論が展開されていくのだが、主人公は同時に家庭の経営にも悩み、奥さんや子供との会話の中からも問題解決の手法のアイデアを得ていくあたりが面白い。
特に、1作目で、長男が入っているボーイスカウトのハイキングを引率する羽目になり、そのハイキングの様子を観察する中でボトルネックについての考察を深めていくあたりは非常にわかりやすい。
また、2作目では、思考プロセスの各種ツールがビジネスだけでなく、プライベートでの様々な問題解決に適用可能であることが示される。

1作目のテーマは、工場での生産管理。
TOC(Theory of Constraints)と名付けられたゴールドラットの理論が、小説のストーリーに乗って展開されていく。
TOCは、一言でいえば全体最適化の理論である。
企業や工場全体を一つのシステムとみなし、全体でのスループットを最大化することを究極にして最大の目的だとする。
企業が儲けるためには、スループットを増やすことが最も重要であり、次いで在庫を減らすことで、経費節減は重要性が低いとされる。
そしてスループットを最大化するにあたり着目されるのがボトルネックの存在で、ボトルネックの生産能力で工場全体の生産能力が決まってしまう。
ボトルネックがあるにも関わらず工場中の機械を目一杯働かせようとすると、工場内に在庫が積み上がるだけでスループットは増えない。
部分最適の陥穽に嵌ってしまうのである。

ちなみにこの『ザ・ゴール』、米国でベストセラーになったにも関わらず、15年以上の間、日本で翻訳版が出されなかった。
ゴールドラットが長年にわたり日本語版の出版に同意しなかったためで、その理由は「日本人は、部分最適の改善にかけては超一級であり、その日本人に全体最適化の手法を教えてしまったら、貿易摩擦が再燃して世界経済が大混乱に陥る」からだそうだ。
ほんまかいな、と思う一方、日本語版が出てから20年近くが経とうとしている現在も、日本企業が全体最適化するのが上手になったとも思えないのが悲しい。。

2作目のテーマはマーケティング。
1作目では工場内のボトルネックに着目したが、需要を十分に引き出せていない場合、市場にボトルネックがあることになる。
思考プロセスは、市場のボトルネック(制約条件)を解消するためにマーケティングに適用され、急激にシェアを伸ばすことを目的に用いられる。
「何をどのように変えるか」「どうやって変化を起こすか」を導くためのツールとして、「現状問題構造ツリー」「対立解消図」「未来問題構造ツリー」「前提条件ツリー」「移行ツリー」などが登場する。
それぞれのツールをどう使えばよいのか、雰囲気はわかるのだが、ほとんどが文章(セリフ)で説明されて、部分的にしか図示されないのが隔靴掻痒。
この本を読んだだけでは、思考プロセスを使いこなすことはできず、別の手段で体系的に学ぶ必要がある。
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『千の扉』 柴崎友香

2018-02-04 22:26:32 | Books
千の扉 (単行本)
柴崎 友香
中央公論新社


ここのところ、昭和の古き良き生活や習俗を振り返るような小説に、ついつい手が伸びてしまう。
『三の隣は五号室』『みかづき』『ゴースト』…『月の満ち欠け』にもちょっとそんな要素があった。

この『千の扉』の舞台は、実在の都営住宅。
小説の中では名前は明かされないが、戸山ハイツをモデルにしている。
都営住宅の敷地内にある、山手線内最高峰の山は、箱根山。

このマンモス団地を舞台に、順不同で時代が飛ぶことにより、時空を超えたドラマが紡がれていく。

主人公のキャラが独特。
一見どこにでもいそうで、それでいて今という時代に折り合いをつけるのが苦手そう、というか。
そんなキャラクタだからこそ、この時の流れが止まってしまったかのような都営住宅での、現代では成立しづらいコミュニティに馴染んでいく。
一方で、複雑さも湛えていて、夫とのテンポラリーでナチュラルな別居はリアルさを感じる。

少しミステリ仕立てのところもあるが、謎に踏み込み過ぎない匙加減は絶妙。

ノスタルジー、消えゆくものへの愛おしさに溢れている一方、このような生活感は意外にしぶとく残り続けるような気もする。
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