そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『弱い日本の強い円』 佐々木融

2013-04-22 23:34:43 | Books
弱い日本の強い円 (日経プレミアシリーズ)
佐々木 融
日本経済新聞出版社


昨年購入して「積ん読」してる間に安倍政権になって円安がガンガン進んじゃって、時期を逸したかな~と心配しながら読みましたが、全然そんなことなかった。
外国為替のメカニズムについて、たいへん分かりやすく学ぶことができました。

「少子化で国力が衰退する国の通貨が高いのはおかしい」
「こんなに莫大な財政赤字を抱えている国の通貨が買われるわけがない」
「大震災の直後なのに円が買われるのは何故だ?」
巷間云われるこういった言説がナンセンスであることが解説されます。
通貨の相対価値は「国力」などという曖昧な概念で決まるわけでない。

為替市場はあまりに大きな市場で、多様なプレーヤーがそれぞれ異なる動機に基づき売り買いを行っている(これを「ファンダメンタルズ」という)。
特定のプレーヤーが市場を操作することなどできない。
「投機筋」が悪者にされることが多いが、投機的な取引は、売ったら買い戻し買ったら売り戻す必要があるので中期的には市場に対してニュートラルである。

むしろ、貿易収支、証券投資、直接投資などの片道切符のフローによる影響が大きい。
日本や米国は投資資金を豊富に持っているため、円や米ドルは好景気になると外貨投資するために売られて下がり、不景気になると手じまいするために買われて上がる。
円安になると日経平均株価が上がる、と思われているが、株価が上がる好景気だから円安になるという逆の因果もある。
東日本大震災など有事の際に、円が高くなるのも、日本が債権国であるがゆえに、海外投資を控える流れが強まるからである。
さらに日本は貿易黒字国(最近は赤字ですが)であるがために、輸出で稼いだドルを国内で使うために円に変える取引が常にある。
従って、円が「買われる理由」などなくても常に買わているのであり、「売られる理由」があるだけが必要なのである(米ドルはその逆)。

為替レートといえば、ついつい米ドル/円レートばかりに注目が集まるが、他の主要通貨を含めた相対レートを論じなければ意味がない。
例えば、日本の輸出企業にとって今日では米ドル/円レートよりも円/ウォンレートの方が重要である。

…といったところがエッセンスでしょうか。

で、中長期的な為替レートの傾向は、物価上昇率の差により影響を受ける、と解説されます。
著者は、金融緩和によりインフレ率を上げようとするリフレ策には懐疑的な立場です。
その理由として、デフレの方が国民の購買力は高まること、制御できないインフレに陥る副作用があること、そしてそもそもゼロ金利下で量的緩和をしても金利がこれ以上下がらないので円安にはならないこと、を挙げています。
最後の「ゼロ金利下で…」の部分については、完全に外れましたね。
というか量的緩和を実際にする前から円安が進んだわけですが。
「期待」という心理的要因で為替レートが動くメカニズムを捨象していたのか。
このあたりについての著者の見解も聴いてみたいところです。
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「入り口」からの雇用慣行転換

2013-04-14 14:35:53 | Economics
今朝の日経新聞に高島屋の鈴木弘治社長のインタビュー記事が載っていました。

同じ職場で5年を超えて働く契約社員・パートが希望した場合に無期雇用への転換を義務付ける改正労働契約法がこの1日に施行されましたが、高島屋では既に契約社員を積極的に正社員に登用する施策を進めているとのこと。
契約社員が正社員になるための試験を受ける資格を「勤続5年」から「勤続3年」に短縮したそうです。

正社員と契約社員では給与面での差はあるが、それは役割・責任の重さを反映したのものである、と。
で、「正社員は保護されすぎ」という認識に基づく今の解雇要件緩和の議論に対しては「社会全体が不安定になる」として反対姿勢を示しています。

インタビューでは新卒採用について触れられていなかったので、高島屋の新卒採用サイトを見てみたところ、2014年度の採用予定人数は50名。
過去実績は、2012年度が64名で2013年度が80名(予定)と書いてあります。
社員数が単体で約1万人、連結で約1万5千人いることを考えると新卒採用はかなり少ない印象ですね。

要は、新卒の正社員採用は最低限に絞って、契約社員として働く人の中から有能な人材を正社員に転換することで基幹人材としていく、という方針に転換した、ということなんでしょうね。
これって今後日本企業における雇用慣行が変化していく一つのモデルケースなんではないかと思います。

新卒一括採用って学生側にとっても企業側にとっても一発勝負になるのでリスクが高い。
学生側からすると、ここで正社員としての身分を得られるかどうかで人生が変わってしまうし、企業側からすると将来数十年にわたって抱え続けることになる正社員をほんの短い選考期間で選択しなければならない。
経済の成長度や人口構成が昔とは様変わりする中で、もはやそのような慣行を続けていくことができない状況になっている。

高島屋のケースは小売業ならではの特殊性もあるんでしょうが、これがいろいろな業種・企業に波及して、正社員を新卒一括採用するという「入り口」が多様化していくのはよい方向なんじゃないかと思います。

解雇規制の緩和により労働市場の流動性を高めるという考え方もわかるんですが、それはセーフティネットの強化と一体化して進める必要があり、なかなか難しいのではないか。
解雇という「出口」よりも「入り口」から変えていくた方が現実的なのではないかと。
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回りくどいTPP擁護?論

2013-04-10 23:37:12 | Economics

本日付け日経新聞朝刊コラム『大機小機』が久々に面白かった、というかよく分からんかったので、以下メモ。
『TPPに必要な消費者の視点』、文責は「魔笛」氏。

 外国製品に関税をかければ、国内での販売価格が関税分高くなる。それでその製品の需要が抑えられ、国際価格が下がる。安く輸入できるから、日本は得をする。
 このとき消費者の払う額は関税分だけ高いが、その分は政府の歳入となり、減税や歳出拡大を通して国民に戻る。そのため総合的な便益は、国内価格ではなく国際価格の動きが決める。
 つまり保護貿易とは、外国製品を買い控えて国際価格を下げ、その輸入支払い分を稼ぐために必要な国産品の輸出量を減らす政策だ。海外に渡す国産品が減れば、国内で使える量が増え、消費者の生活が豊かになると説明する。このように損得すべて考慮しても、日本のある程度の保護継続と、相手側の保護撤廃が望ましいことになる。 

ここまでが「標準的な貿易理論」であるとして紹介されているのですが、本当なのでしょうか。
どうも感覚的によくわからないものがある。

関税をかけて高くなった外国製品の需要が減ると国際価格が下がるというが、それって1国対1国の貿易しか考えていないのでは。
日本だけ関税をかけたら、日本以外の国に輸出することになるので、単純に国際価格は下がらないという気がしますが。

それから「海外に渡す国産品が減れば、国内で使える量が増え」という部分も違和感。
これって国内の供給力が限られていた時代の話では?

ただ、「魔笛」氏も、上に言う「標準的な貿易理論」を支持しているわけではありません。
続き…

 しかし「国内で使える国産品が増えて消費者が得をする」という理屈は現実には合わない。需要不足の現状では国産品の購入は増えず、物余りが拡大する。結果的に景気が悪化すれば、人々の生活は逆に苦しくなる。

「需要不足」というようり「供給力の過剰」ではないだろうか。
同じことなのかもしれないけど。
さらに続き…

 さらに、輸出を増やすことに成功したら、日本の経常黒字が拡大する。これが円高を呼んで、結局は輸出が減少する。円高を避けながら販売を伸ばすには、内需拡大しかない。それにはTPP交渉において、企業の立場だけではなく消費者の立場で考えることが重要だ。

この辺になると、ややちんぷんかんぷん。
いきなり「輸出を増やすこと」が「成功」とされているが、そんな文脈だっけ?
「需要不足」だから「内需拡大しかない」って単なるトートロジーのような気も。
さらに続き… 

 例えば消費者が喜ぶ外国製品の輸入を促進する。これが円安を導くから国産品の需要も増える。内需拡大で新産業が育つ環境も整い、産業構造の転換も容易になる。商品の種類も増えるから消費者も喜ぶ。内需拡大による雇用増加で、景気も上向くだろう。

うーん、相当ちんぷんかんぷん。
「消費者が喜ぶ」と内需拡大するってこと?
飛躍があるような… 

これでコラムは終わっちゃってるんですが、要するに自由貿易で国は富むということが言いたい?
回りくどいわりには普通のことしか言っていないような… 

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