9月27日付け日経新聞朝刊「経済教室」渡辺努・一橋大学教授の稿よりメモ。
9月15日に、政府・日銀は円売り・ドル買い介入を行ないましたが、その際の介入は「非不胎化」であったと云われています。
「非不胎化」とは何か。
先進各国では、政策金利(日本では無担保コール翌日物金利)に目標水準を達成するように貨幣の量を日々調節するというかたちで金融政策が運営される。しかし円売り介入によって市場に出回る円資金が多くなると、政策金利が目標水準から乖離してしまう。これを避けるために、中央銀行は介入資金を吸収する公開市場操作を行う。
これが「不胎化」である。先進各国の中央銀行は通常、ほぼ100%の不胎化を行うことが多くの実証研究で確認されている。100%の不胎化が行われる限り、為替介入が円資金の流通量に影響を及ぼすことは決してない。その意味では両者は独立である。これは国際マクロ経済学の教科書にも登場する常識である。ただし、金利が正の世界における常識にすぎない。貨幣が飽和し金利がゼロの世界では異なる仕組みが働く。
2003~04年にかけて政府・日銀が行った大規模な為替介入では、介入資金が平均して20日ほど市場に滞留していたとのこと。
何故それが可能だったのか。
介入資金の滞留が可能になったのは貨幣が飽和していたからだ。大介入に先立つ01年から日銀は量的緩和政策を実施していた。大介入の開始当時、日銀当座預金残高の目標値は15兆~20兆円に設定され、しかも目標の上限値を超えることも可とされていた。
これだけの大量の資金供給の結果、貨幣はすでに飽和しており、コール翌日物金利はゼロであった。この状況で、円売り介入によって市場に注入された円資金が放置されたとしても翌日物金利がさらに下がることはない。つまり円売り介入資金を放置したとしても金融政策の目標を達成できなくなるわけではない。これは金利が正の世界との大きな違いであり、「介入は直ちに100%不胎化しなければならない」という「金利が正の世界における常識」がもはや通用しないことを意味する。
実際、不胎化する場合としない場合では、介入が為替相場に及ぼす効果(円の下落率)に違いが見られるといいます。
それは何故なのか。
…「予想」を通じる効果だ。話を単純にするため、介入は一切不胎化されず、介入資金は永遠に市場に残るとする。永遠に残るということは、経済が不況から脱出して正常化する遠い将来の時点でも、資金が市場に残っているはずだから、介入による円資金の追加供給は将来時点の金利を下げる効果をもつ。この金利低下は将来時点で円安を発生させるが、それが人々の予想に織り込まれると、現在の為替が円安になる。
本来は互いに独立しているはずの金融政策と為替政策が、ゼロ金利の世界では融合するというお話。
ゼロ金利だから非不胎化が可能であり、ゼロ金利だから非不胎化するしかない、ということか。
衒学的には面白いけど、なんだかなーという感じです。