そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『空の拳』 角田光代

2013-03-22 23:05:52 | Books
空の拳
角田 光代
日本経済新聞出版社


序盤を読み始めていた時点では、正直、あまり好きになれる小説ではないような印象を抱きました。
何より主人公=空也のキャラクタ造形に違和感を憶えてしまって。
如何にも女性作家が創造した男性キャラというか、いくらなんでもこんな男いないだろ、という感じ。
酔っぱらうと女言葉になるってのが全く持って意味不明。

ドラマ性も薄くて、淡々と展開していって、ワルキャラ作りと経歴詐称の件りも、何だか亀田兄弟を安易にモデルにしてるようで心踊らず…

ところが不思議なもんで、読み進めていくうちにジワジワーっとくるんですよね。
空也がボクシングの世界に馴染んでいく位相が読んでいるこちらがらにもシンクロしてくるというか。
そうなってくるとこの淡々とした時系列の展開が、なんだか現実感を生む。
しかもそれが出版社の人事異動の周期で切り取られたりするからなお一層。

才能ある奴ない奴、精神的にタフな奴弱い奴、その辺の人間模様もまた現実感をじんわり滲み出す。

なんなんだろう。
やっぱりボクシングって素材が独特の現実感を呼び込むんだろうか。
殴り殴られるというプリミティブな営みが。

子供の頃『がんばれ元気』を読んだときの、踏み込んではいけない領域に触れたような、ある意味隠微な感覚が呼び戻されたような気がしました。
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『あなたを天才にするスマートノート』 岡田斗司夫

2013-03-19 23:32:19 | Books
あなたを天才にするスマートノート
岡田 斗司夫
ロケット


『オタクの息子に悩んでます』に感銘を受け、岡田さんに興味をもったことから、ノート術を解説した本作を読んでみることにしました。
Kindle版にて読了。

本書タイトルにもある通り、岡田さんのノート術は「天才」になることを目的にしている。
ここでいう「天才」の条件とは、「発想力」「表現力」「論理力」の3つを兼ね備えていること。
紹介されているスマートノート術によって、この3つを同時に鍛えることができる、と。

本書を読んで、自分が書いているこのブログがなぜ「面白くないのか」がよく分かりました。
「論理力」というか、理屈で考えることについてはそれなりに自信があるんですが、「面白く」書くことについての努力もトレーニングも全くしていない。
本書で紹介されている「ノートの左ページの使い方」を読んで、初めて「面白く」書くことのトレーニング方法が分かった気がします。
(嗚呼、この記事も面白くない…)

それともう一点、『オタクの息子に…』にも通じるところですが、スマートノートは最終的に「見識」を育むこと、そして「強い主体性」を持つことに結実する、というところに感銘を受けました。

「知識」:情報を自分の好き嫌いのフィルターを通した状態
「人格」:知識を解釈する時のスタイル
「知識」+「人格」→「教養」となる。

「教養」:歴史的視点・地理的視点を自在に操られるようパースペクティブ(遠近感)がついた知識

だが、教養はつまらない。「語り手の顔」が見えないから。
「教養」に「立場」と「判断」が加わって「見識」となる。

「強い主体性」とは、「この世界に対する責任感」「関わろうとする意志」。

一人称と意志・覚悟。
そうなんです、これが無いからこのブログはつまらないんですね。
よくわかっちゃいました。

そしてこの「見識」と「強い主体性」を持つことは、これから人生の後半戦を歩んでいく自分にとって、大事なテーマになると確信しています。

まずは五行日記から始めてみようかな…
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『統計学が最強の学問である』 西内 啓

2013-03-03 23:17:28 | Books
統計学が最強の学問である
西内 啓
ダイヤモンド社


Kindle版にて読了。

「統計」というと「データを解析して現状を把握する」営み、というイメージがありますが、著者に言わせればデータ解析は「具体的な行動に繋がる」ものでないと意味がない。
例えば、ビジネスにわざわざ統計解析という手段を用いるのであれば、少なくとも以下の「3つの問い」に対して答えることができるものでなければならない、と言います。

【問1】何かの要因が変化すれば利益は向上するのか?
【問2】そうした変化を起こすような行動は実際に可能なのか?
【問3】変化を起こす行動が可能だとしてそのコストは利益を上回るのか?


逆に言えば、こうした問いに回答をもたらすことができる強力なツールとなり得るからこそ、統計学が「最強」だと言っているわけです。
「どんな分野の議論においても、データを集めて分析することで最速で最善の答えを出すことができる」から「最強」なのだと。

経験や想像に基づいて仮説を立てて喧々諤々議論するよりも、さっさとA/Bテストをやってみるほうがずっと早いし正しい答えを得ることができる。

ところが、著者が「日本全体での統計リテラシー不足」を嘆くように、現実社会で統計学的な考え方が理解されることはなかなかに難しい。
人はどうしても己の経験に基づく感覚論を優先しがち。
先日も、WBCの壮行試合の中継をテレビで視ていたら、解説の桑田真澄氏が「調子のよいバッターだと(振ったかどうか)微妙なスイングをしてもストライクが取られないものなんですよね」などとコメントしていた。
桑田氏のような聡明な人物をしてもこうなんですよね。
このコメントに統計的な根拠は間違いなく無いだろうし、統計解析されればおそらく反証される可能性は高いと思う。
或いは、先日このブログにも書き、本著の中でも触れられている「平均への回帰」も同様。

昨今流行りのビッグデータへの信仰も然り。
情報技術とハードウェア性能の向上により、膨大な全数データをコンピュータで解析して何がしかの答えを得ようというのがビッグデータの志向ですが、統計的な手法を用いればビッグデータを扱うような高価なハードに莫大な投資をせずとも殆ど精度の変わらない答えを得ることができると言います。
莫大なデータを高速で処理すること自体に意味があるのではなく、解析結果からどれだけの価値を得られるかということこそ本質であるはずだ、と。

回帰分析など統計学の理論については一通り簡単に紹介されています。
これ一冊読んだからといって統計解析の手法を使いこなせるようになるわけではありませんが、考え方は理解できるので、専門書の図表にてよく「*」で表現されている「統計的に有意」の意味は分かるようになるし、単に感覚だけで書かれている与太話を見抜くことはできるようになるでしょう。

著者は1981年生まれで東大医学部出身、大学では生物統計学を専攻して医者ではなく統計家になった、という経歴の持ち主のようです。
読んでいて凄く頭のいい人なんだろうな、というのは伝わってきました。
コメント (4)
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アベノミクスで資産効果?

2013-03-02 17:53:26 | Diary
円安が進んだことで、我が家にも多少恩恵が生まれています。

10年くらい前に作ったドル預金、その後の長期ドル安で、円ベースでの減価が進み塩漬けとなっておりました。
当時は結婚前でまだ経済的にも余裕があったので結構多額(ン十万円)替えちゃったんですよね。
いざという時のための余裕資金として位置付けていたのでまあいいのですが、それにしても円ベースで3分の2くらいまで減価しちゃっていたのは哀しいものがありました。
ドルの金利が高かった頃はそれでもまだドルベースでは増えていってたのでよかったんですけどね、リーマンショック後は金利もつかなくなっちゃったし。

なんたって円/ドルが120円くらいだった頃にドルに替えたので、現時点の90円台でも全然戻せてはないんですけど、でもバランスシートが改善すると何となく安心感が生まれる。
先日も親戚が結婚するのでご祝儀を捻出したんですけど、心の余裕になるんですよね。
ちょっと気が大きくなるというか。
こんなのを資産効果とは言わないのでしょうが、円安による心理面での効果って間違いなくあるんだろうな。

さて、ここまで順調すぎるほどのアベノミクスですが、「口先だけで実際にはまだ何もやってないのにね」と揶揄する声も聞こえてきます。
でもね、「何もやっていない」ことに価値があるんですよね。
というか、「何もやっていない」からこそうまくいっているのでは。

このままずっと何もしないでくれればいいのに。
そのうちいろいろとやりたくなっちゃうんだろうなあ。
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