本日付け日経新聞朝刊コラム「大機小機」は『ライブドア事件を風化させるな』。
筆者は”渾沌”氏。
以下、引用。
後味の悪い裁判だった。堀江被告の罪状は、資本取引とすべき自社株の売却益を利益計上した粉飾決算と、関連会社による企業買収に絡んで偽計情報を流した偽計取引である。どちらの起訴事実も専門的な技術論に偏し、実刑とのバランスを欠くように見える。
今も人気タレントのように振る舞う本人の言動から反省は感じられず、検察の国策捜査の受難者であるかのような言説も目立つ。閉塞状態にある日本にイノベーションを起こそうとして、変化を拒むエスタブリッシュメントにつぶされた、という筋立てだ。
しかし、ライブドア犯罪の本丸は、裁判では争われなかったところにある。
ニッポン放送株を大量に取得した立会外取引は、TOB(株式公開買い付け)ルールの趣旨に反した脱法行為。度重なる大幅株式分割は、意図的に株式の需給を逼迫させて株価の乱高下を誘う相場操縦。巨額の買収資金を調達したMSCB(価格修正条項付き転換社債)は、引き受け手の証券会社が株価を操作して暴利を得ることを想定した株主への裏切り行為である。
自己利益のためには他社を省みない、市場への背信行為は詐欺か詐欺的行為であり、法や自主規制ルールの変更をもたらした。法が明確に禁止していなければ何をやっても構わないという、自由の意味をはき違えた市場の乱用者がライブドアの素顔だろう。
捜査当局は実質を重視し、不正行為を禁止する包括規定を適用すべきだったのに、重罰を科せる代わりに立件が難しい法の適用を避け、勝訴の確実性が高い形式犯で妥協した。後味の悪さは本筋を外した起訴事実にあり、後世の人は判例だけでは事件の本質の理解が困難な点にある。
本件に対しては、シンパ/アンチ双方から情緒的な反応が応酬されている中、本稿は非常にバランスのとれた捉え方をしていると感じました。
事件の本質にメスが入れられないまま形式的な断罪が下されることで、堀江氏が見せしめのために狙い撃ちされたという側面と、図に乗ったインモラルな秩序破壊者という側面の衝突が尖鋭化するばかりで、むしろ本質が隠されてしまうという不幸。
高等遊民氏のこちらの記事も秀逸なのであわせてご紹介。
「今、改めてライブドア事件を振り返る」