そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『みかづき』 森 絵都

2017-06-18 16:40:18 | Books
みかづき
森 絵都
集英社


高度成長後期から昭和の終わり、平成へと時代が流れる中、世の中は少しずつ変化を取り込み、気がつけばその面影を消し去るほどに変わり果てた姿になっている。
そこに、ある家族の激動の歴史が重ねられる。

こう書くと、文学作品でも映像作品でも、よくある手法であるように聞こえてしまうかもしれない。
が、本作の場合、そこに学習塾という稼業が、公教育との確執を経ながら産業へと変わっていく歴史を更に重ねるというスパイスを加えているところにオリジナリティがある。

そして、家族の歴史という面でも、血の繋がりによる因縁と、血の繋がりを持たないが故に生まれる情の繋がりをバランスよく配する。
激情と和解が織りなす大河ドラマが感動を呼ぶ。
登場人物の描きかたも、例えば主人公である大島吾郎の、器の大きい好人物だが女性関係には緩さを見せるキャラクタなんかには、女性作家ならではの繊細なリアリティが感じられる。

小説の形式としては新しさが無かったとしても、とても丁寧に描き込まれており、完成度の高さを感じる。

それにしても、今やちょっとしたターミナル駅の周辺には予備校や進学塾の建物が乱立している様子を目にするようになった。
自分が30数年前に中学受験のために通ったのは、ちょうどこの小説で吾郎と千明が立ち上げたような、自宅を改造して教室に仕立てた個人経営の塾だったが、今や完全に淘汰されてしまったのだろうな。
塾という存在になんらかの形で縁をもった経験がある人であれば、人それぞれ、この小説にノスタルジーを感じるのではないだろうか。
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