「手を拱(こまぬ)く」という諺をご存知だと思います。
「何もせずに傍観する」と云う時に使われる諺ですが、最近では「手をこまねく」と言う人が増えているそうです。
一部の辞書にも、「本来はこまぬくだが、近年はこまねく」と載っているようです。
今日は本来の意味から変わりつつあるこの諺についてご紹介します。
「拱(こまぬ)く」という言葉は【腕を組むこと】という意味で、もともと、中国で意を表す挨拶として、手を胸の前で組み合わせることに由来しています。
「組みぬく」から「こまぬく」になったという説や、高麗(こま)の人の、腕を組み袖につらぬく所作からという説もあります。
いずれにしても、「腕を組む」と何もできなくなり、そこから【何もせずに傍観する】という意味でも使われるようになったようです。
その「こまぬく」の音が変化した言葉が「こまねく」で、最近では若い人を中心に使う人が増えてきており、更に、「こまねく」と云うことから本来の意味を勘違いする人が増えてきていると云われています。
平成20年度に行われた文化庁の調査では、「こまねく」の意味を、本来の【何もせずに傍観している】と正答した人は全体の40.1%だったのに対して【準備して待ち構える】と誤答した人は45.6%に上り、その内30代以下では50%近くの人が間違った方を選ぶと云う結果だったそうです。
これは、「(こ)まねく」ということばのイメージから、「招く」で【待ち構える】という意味に捉えるようになったのではないかと考えられるものです。
因みに、【準備して待ち構える】と云うフレーズには「手ぐすねを引く」と言う諺があります。
「くすね」は松脂と油を煮て練ったもので、弓の弦の補強剤として使われ、戦い前に「くすね」で手入れをするということから、【十分な態勢で待ち構える】という意味になったものです。