令和6年最初のブログです。年が明けてほぼ1ヶ月半が過ぎてしまった。この間いろいろあったのも事実だが、書くペースも遅くなっていることを自省します。
さて、先日小澤征爾氏が亡くなったそうだ。私がこの世界的に有名な指揮者の名前を知ったのは、1973年に発売されたYESの3枚組ライブアルバムYESSONGSのオープニングで聞かれるストラヴィンスキーの「火の鳥」によってである。小澤征爾・指揮、ボストン交響楽団*による「火の鳥」がここで使われていると知った。プログレ大好き高校生が聞いた初めてのYESのライブでは、クラシックの音楽が流れ、その終わり部分にリック・ウェイクマンの弾くメロトロンが重なり、間髪入れずに1曲目のシベリアン・カートゥルが始まる。何てカッコいいんだ!高校生の私はそう思ったに違いない。
ロックを聴く前はクラシックや映画音楽、イージーリスニングを好んでいたが、YESSONGSをきっかけに改めてクラシック音楽にも興味を持つようになった。EL&Pが取り上げた「展覧会の絵」は知ってはいたが、ストラヴィンスキーは全く知らなかったし、その後ラヴェルやドビュッシーなども聞くようになっていった。こうして振り返ってみると、小澤氏の演奏が私の音楽嗜好を拡げてくれたきっかけになったのかもしれない。
(小澤征爾指揮、パリ管弦楽団による「火の鳥」。)
ちなみにアルバムYESSONGSについては12年前にこのブログで紹介しているので、もしよろしければご覧ください。
*YESSONGS 日本盤ライナー、立川直樹氏の解説による。
CRIMSON(クリムゾン)。中森明菜1986年リリース10枚目のアルバムで、私はこれが大好きなのである。特に1曲目のMIND GAME の曲調、アレンジに最初に聴いた時から惹き付けられた。カッコイイ。作曲者が小林明子というのも驚きだった。「恋におちて」のイメージが強かったから。2曲目は竹内まりあ作の「駅」。作者の夫君がこちらのヴァージョンを聞いて異議を唱えた?という話があるが、私はこの明菜の囁くように歌い上げる方が断然好みだ。その他、何回も聞いたアルバムなので全曲耳に馴染んでいる。
前置きが長くなったが、今年このアルバムのアナログ盤が再発された。それも今回は45回転2枚組でのリリースだ。気がついた時には少しばかり時機を逸してしまったが、何とか手に入れることができた。そして、前回紹介した新しいレコードプレーヤーにて聴いている。A面からD面までの4サイドがあるわけだが、前述の2曲を聴くことのできるA面ばかりヘビーローテーションしている。ついでにいうと、この盤は1枚目が赤、2枚目が青のカラーディスクである。また、ジャケットがモノクロ(全然クリムゾン=深紅でない!)で味わい深く、このLPサイズは部屋に飾りたくなる。
個人的には当時流行のシンセサイザーの音が多用されているのが懐かしい。そして、オリジナルでは最終曲「ミック・ジャガーに微笑みを」にラジカセにカセットを入れるなどの効果音が重なっているのだが、この度のヴァージョンでは効果音なしのテイクがボーナストラックとして収録されているのも話題になっている。
さらに、今月「中森明菜ベストアルバム Best Ⅱ」が2CD+2LP+カセットテープから成るボックス形態で発売された。シングル盤がほとんど1位を取った時期の作品(DESIRE、TOTTOOなど)10曲が収録されているのだが、45回転2枚組のLPと今回はカセットまで付いている。価格も1万ちょっととのことで、思わず予約を入れていた。そちらも先日届いたばかりだ。ちなみに今回のLPも赤色とピンク色のカラーヴァージョンである。
このように中森明菜については「中森明菜デビュー40周年記念ワーナーイヤーズ・全アルバム復刻シリーズ」として過去の作品が次々リイシューされているのだが、解説を読むと今回の音源は「ラッカーマスターサウンド」と呼ぶ手法で制作された。曰く、「アナログレコードの原盤であるラッカー盤にカッティングし、カートリッジ(レコード針)で再生した音を、デジタル化した音源。原音に限りなく近く、アナログレコードの持っているふくよかなサウンドを再現!」。ということはレコード音源をデジタル化してレコードにしたのを今聴いている?(これに関してはいつも疑問に思うのだが、アナログをデジタル化した音源はアナログ的な音色なのだろうか?)
さて、中森明菜は林哲司氏トリビュート・アルバムのため「北ウイング」を再録音(これが大人の雰囲気でオリジナルとは全く別物だが素晴らしい!)するなど、徐々に活動再開に向けた動きが感じられる(という世論の読み)。長らく活動を休止していた状況から、ファンの皆さんは再登場を心待ちにしているのだろうが、音源的にはすでに再登場を果たしてくれた。私としてはこれらのレコードを聴くだけでひとまず満足だが、はたして年末の復活はあるのだろうか。
そんなことも気にかけながら2023年が終わる。来年こそ世界に紛争のない良い年であることを願い、今年最後のブログとします。
今まで手元にあったレコードプレーヤーは安価なベルトドライブ型である。レコードを聴くことが充分にできるのだが、若干ピッチが合わず不満もあった。昔のようにダイレクトドライブのレコードプレーヤーが欲しいなと思ってもいたが高価で手が出ない。ところが先日、アマゾンのブラックフライデーで目をつけていた製品が2割引になっていた(それでも自分にとっては高価ではあったけれど)ので思い切って購入してしまった。
その製品はオーディオテクニカのAT-LP120XBTという機種である。見た目はとても重厚で、カートリッジを接続しスケールバランスを取るなど、昔所有していたプレーヤーと手順は同じ。レコードを乗せて回すとストロボ点滅により正確なピッチであることがわかる。これには思わず興奮してしまった。パソコンとのUSB接続でレコード音源をデジタル化できるなどの機能もあるがまずはレコード再生である。絶対にいい音で聴けるはず。
こういう場合に最初に聴きたい盤は何だろうか、ということで以下はその時聴いたレコードを簡単に紹介する。ちなみにオーディオ・セットは、これも数ヶ月前に購入したパナソニックのCDプレーヤーSA-PMX90とその付属スピーカー。それまで使っていたONKYOのMD/CDプレーヤーのCD部分が壊れてしまい、修理に挑戦するも失敗したため購入した製品である。Hi-Rez対応でUSBメモリ等を接続することでFlacファイルなどが再生できることも大きな魅力なのだが、何と言ってもスピーカーの音質がもの凄く良い。特に低音の出が素晴らしくて、この品質の良さは驚きであった。
さて、この時聴いたのは当然、自分の好きなアルバムということになる。順に上げてみる。
1 最初にターンテーブルに載せたのはYESのClose To The Edge「危機」アメリカ盤両面マトリックスAである。大迫力の重厚な音が鳴り、最初のこの一枚で大満足。
2 だが、それで終わるわけはない。続いては、KING CRMSON の LIZARD。初期のアルバムで一番好きな作品。こちらは中学生の時に買った国内盤ではなく数年前に購入したアメリカ盤。AT/GPありの両面マトAA。一応AAはファースト・プレスと思われるが充分迫力ある音と繊細な演奏に耳が離せなくなる。
3 3枚目は大好きなミシェル・ルグランSUMMER OF '42「おもいでの夏」サウンドトラック。一番好きな映画音楽。そして久しぶりに全面を視聴。実はサントラの音源ではないのと、アルバムとしては「ピカソ組曲」という別の作品が収録されている。
4 ここで邦楽の代表として松田聖子のTouch Me, Seiko。シングルのB面を集めたアルバムだが、名曲がたくさん収録されている。聖子ソングで私が一番に好きな「蒼いフォトグラフ」(テレビドラマ「青が散る」のテーマ曲として有名)、SWEET MEMORIES、隠れた名曲「制服」、そして松任谷由実作の「ボン・ボヤージュ」など好きな曲が多いアルバムだ。
5 次に目が行ったのは、アントニオ・カルロス・ジョビン。タイトルはJOMBIN。このアルバムで有名なのは「三月の水」で、ポルトガル語と英語の2ヴァージョンが収録されている。が、加えてクラウス・オガーマンのアレンジによる重厚な夢弦サウンドと共に美しい小品が並ぶ。
6 5のストリングス・サウンドに触発され聴きたくなったのは、パーシーフェイス楽団のBOUQUET「愛の花束」。特に1曲目のアルバム・タイトル曲は重厚なストリングス・サウンドでこのシステムでも充分美しく聴くことができた。
7 次に聴きたいのはジャズとなる。ビル・エヴァンスMOON BEAMS。ジャケットを飾るだけでも持っている価値のあるアルバムだと思うが、そのサウンドも美しい。ピアノの音がきれいに、心地よく鳴る。こちらの盤はかなり後の再プレス。
8 さて、ここまで来てTHE BEATLESのアルバムを聴いていないことに気がついた。次はビートルズだ、と思ったがどのアルバムにしよう?中々決められなかったが、結局LET IT BEにした。持っている3枚はすべて国内盤だが、70年6月にリリースされたボックスセット用のシングル・ジャケットをセレクト(AP-9009)。両面ともチリノイズが多く、何故か後のプレス版よりおとなしめの音がする。だが、音量を上げると迫力が出てとてもイイ感じに鳴る一枚だ。新しいプレーヤーでもチリチリ音は変わらず。
このプレーヤーが到着したのは休日だったけれど、聴くのはこの辺が限界。だが、音を確かめたいアナログ盤は他にもまだある。徐々に乗せてみよう。
そんな時に新たに購入したレコードが届いた。(次に続く)
Tower Recordsに注文していたザ・ビートルズの最後の新曲 NOW AND THEN が届いた。
50年前の1973年は高校に入学した年だった。その年、ピンク・フロイドの「狂気」とキング・クリムゾンの「太陽と戦慄」という2枚のアルバムが発売された(英国発売はどちらも3月)。プログレ大好き少年の私としては当然のことながら注目をしていた。だが、どちらのアルバムを購入するかということは大問題であった。高校生の小遣い程度では両方を手に入れることは難しいからである。
結局私はクリムゾンの新作の方を買った。デビューアルバム「宮殿」に衝撃を受けロックに目覚め、「リザード」に夢中になった私にとってクリムゾンは変わらず神秘的で別格の存在だったのだ。そして、フロイドの「狂気」はNHK-FMの番組で全曲を放送しタイミング良くカセットテープに録音することができたという状況もあった。(当時はそのようなラジオ番組があった。イエスの「海洋地形学の物語」やEL&Pの「恐怖の頭脳改革」も全編オンエアされた記憶がある。)
しかし、そのクリムゾンの新作を聴いた時、何か違うなという感覚を持ってしまった。1曲目の「太陽と戦慄パート1」の攻撃的な音は私が期待したサウンドではなかった。確かに「放浪者」のようにフリップのアコギが入り、フルートやピアノの音が重なる叙情的な曲もあったのだが全体的には激しいロック・サウンドという印象だった。結果としてお気に入りのアルバムとはならなかった。
それに比べて、「狂気」の方は一部激しいサウンドや前衛的な部分もあるが、全体的には叙情性が豊かな印象だった。トータル・アルバムとしての存在感もあった。結局、「狂気」の方が好きになった。だが、カセットテープでいつでも手軽に聴ける「狂気」をレコードで入手することはなかった。レコード盤で購入したのは2011年のことである。
思い起こせば、1972年のイエスの「危機」に始まり、私にとって73年はプログレッシブ・ロック全盛の時であった。ジェネシスのFoxtrot(72年リリース)を高1の時の同級生から借りて初めて聴いたのはこの年であった。また、イギリス以外のヨーロッパのバンドが盛り上がった年でもあった。72年に発表されたオランダのバンドFocusの「Ⅲ」が73年に日本でリリースされ、その後ライブアルバムを発売。その彼らの2作目Moving Wavesは素晴らしい出来だった。またイタリアのP.F.M.が「幻の映像」を秋に発売。このアルバムはプログレのほしいところを全て網羅した傑作だったと思う。とにかくこの年は夢中になるバンドがありすぎて、翌年には高校でプログレバンドを作るまでになってしまったのである。
50年前、1973年はそんな思い出深い年であった。
(左下は50周年記念盤CD "LIVE AT WEMBLEY 1974"。右下はDOLBY ATMOS MIXなどが収録されたブルーレイ盤)
(本ブログにて以前「狂気」について記したことがあります。→ 思い出のプログレアルバム#11「狂気」)
ちょっと前に来ました。元森高ファンクラブ会員(妻が)。
今も応援しています。
45回転シングルだから音が良い!
バート・バカラックがこの2月に亡くなった。94歳だったというから大往生と言って良かったのではと思う。が、大好きだったフランシス・レイ、ミシェル・ルグランら往年の映画音楽作曲家がここ数年で次々亡くなってしまったのはとても残念である。レイの時もルグランの時も特にこのブログでは取り上げなかったのだが、今回はバカラックにちなんだ思い出を記したい。
私にとってバカラックは前述の二人の作曲家と違う存在だった。好きだったバカラック・ソングを当初は彼の作曲だとは知らずにいたからである。中学生の時にFM放送で聴いて録音していたあるお気に入りの曲が、その筋に詳しい友人が「恋よ、さよなら」というタイトルだと教えてくれた。作曲家のことは知らないまま愛聴した。ヒット・チャートにランクインした「雨に濡れても」はB. J. トーマスという人の曲だと思いながらレコードを買った。もう1曲、やはりヒット・チャートで聴いた「サン・ホセへの道」も大好きでこちらもレコードを購入。私にとってこれはボサ・リオというグループの曲だった。
だが、それらは全てバート・バカラックの音楽である。ついでに言うと、映画音楽の好きな私は映画「幸せはパリで」のテーマ曲「エイプリル・フール」(パーシーフェイス楽団)を当時のラジオで知り、特にカトリーヌ・ドヌーヴのセリフの入るサントラ音源が大好きでエアチェックした音源を何度も聴いたものだ。バカラックの作曲ということは随分後で知った。「遙かなる影(Close To You)」もカーペンターズのオリジナルだと思っていた。そして徐々にバート・バカラックの存在を知り、その偉大さを知ったのである。
バカラック・ソングはお洒落な曲調が多いと思う。April Fools、This Guy's In Love With You、Alfie(これはシンガーRumerが2010年にリリースしたヴァージョンが絶品!)など好きな曲はたくさんあるが、中でも一番のお気に入りは A House Is Not A Homeである。本当に良い曲だと思う。最近はTHE SONGS OF BACHARACH & COSTELLOのCD2枚組ヴァージョンと「カジノ・ロワイアル」サントラ完全版を購入。後者にはThe Look of Loveが含まれているが、これも名曲中の名曲である。
では、追悼の意味も込めて久しぶりにシングル盤に針を落としてみよう。
↑ 両シングルジャケット解説には作曲者バカラックのことはあまり触れられていない。
↑ 札幌の映画専門店で見つけた「幸せはパリで」アナログ盤サントラ。
↑ 意外と手元のバカラックCDは少なかった。
「ヨルガオ殺人事件/アンソニー・ホロヴィッツ」(山田 蘭・訳)創元推理文庫
21年9月に文庫版で出版された本作品をようやく読んだ。一粒で3度おいしい、探偵小説としては極上の作品であった。
ホロヴィッツの「カササギ殺人事件」は出版と同時に購入し、すぐに読み始めたものだが本作品については遅れを取ってしまった。スーザン・ライランドが主役の本シリーズは本格推理小説として読み応えがあると思っているが、もう一つ創元社から出版されている元刑事ホーソーンとアンソニー・ホロヴィッツが登場するシリーズ(「メインテーマは殺人」など)の方は自分の感性に合わず好き嫌いがはっきりしてしまった。そんな経緯で「ヨルガオ〜」も手にするのが遅くなってしまったのだが、もっと早くに読むべきであった。それほど面白い作品だった。
冒頭でも言ったように、ひとつの作品だが3回の謎解きが楽しめる。前作同様、本編(現実世界)のストーリーの中に名探偵アティカス・ピントが登場する作中劇が盛り込まれ、それは本編と大きく関連性がある。しかし、独立した作品として読むこともでき、私はその作中劇の意外な犯人には衝撃を覚えた。
また、この作中劇には冒頭のアティカス・ピント登場のシーンにおいて、宝石盗難事件のエピソードが語られるのだが、ちゃんとした長編小説にしても良いほどの不可能犯罪とそのトリック解明であった。
ということで、本編と合わせて3つの謎解きが用意されている(帯には「謎解きが2度も味わえる」とあるが)。それが「一粒で3度おいしい」の意味である。ただひとつ難点を上げるなら、2つの作品がミックスされているため登場人物が多すぎて名前を覚えられないことである。(ただ、この名前にもトリックが隠されているのだが、、、。)
ところで、前作「カササギ殺人事件」は6話のドラマ形式で映像化された。脚本にはアンソニー・ホロヴィッツ自身が関わっているという。WOWOWで見ることができ、私も視聴した。原作では劇中作が独立して語られていたが、この映像作品では本編と劇中作が交互に、時にはオーバーラップして進行する。その意味では原作を知っていてもストーリーに引き込まれた。そして、イギリスの風景や登場人物達のイメージがより明確になり、大変見応えのある作品だった。
まずは今日から「さっぽろ雪まつり」が開催。会場を設けての実施は3年ぶりとのことで札幌市中央区の大通公園とすすきのの2カ所で始まった。写真は大通り会場昨日の準備の模様。札幌駅から大通公園まで歩いてみたが、とてもたくさんの人が。今年は賑わいを見せてくれるだろう。
さて、本日のお題。エラリイ・クイーンのシリーズ物と言えば、「国名シリーズ」と「ドルリー・レーン4部作」となるだろう。だが、実際にはもう一つのシリーズ物が存在する。それは架空の町ライツヴィルを舞台とした「ライツヴィル4部作」である。
クイーン・ミステリが大好きな私も、このことを認識したのは最近のことである。それはハヤカワ文庫から越前敏弥氏による新訳版の作品が次々と刊行されているおかげだ。2014年の暮れに「災厄の町」が出て本ブログでも触れた(ここ)。その後「九尾の猫」(2015年、この作品はライツヴィルとは関係なし)、「フォックス家の殺人」(2020年)、「十日間の不思議」(2021年)、そして昨年2022年「ダブル・ダブル」と新訳が刊行され「災厄」「フォックス家」「十日間」「ダブル」の4作がライツヴィル作品となる。
殺人事件を論理的に解決する「国名シリーズ」のパズル性と違って、「災厄の町」は人間ドラマが重視され、より「文学」的要素が加味されたとエラリイ・クイーン研究家飯城勇三氏はその解説で述べている。私は現在「ダブル・ダブル」のみ未読なのだが、確かに3作とも密室、首なし殺人、アリバイ・トリックなど本格推理ものでは定番の「謎」は登場せず、人物達の動きや言葉、環境などの描写に重きがなされている。その中でもスリルやサスペンスはあるし、最後に大逆転的構成も整えられているから、パズル的要素も皆無ではない。だが、明らかに国名シリーズとは趣が違う。そして、「十日間」は、いわゆる「後期クイーン的問題」が話題となった作品である。この言葉は聞いたことがあったが、どのような意味なのかはこの本の解説を読んでわかった次第である。これを詳しく論ずるのはネタバレ的になるので控えておくが、このような視点が生じることも後期のクイーン作品が従来とは違うことの証なのであろう。
ということで、4部作最後の「ダブル・ダブル」を読むのが楽しみだ。その中、昨年12月にさらにハヤカワ文庫から「靴に住む老婆」(新訳版)が刊行された。これは、あかね書房少年少女世界推理文学全集No.8「エジプト十字架の秘密」の中で「十四のピストルのなぞ」という題名で併載された作品だ。はっきり言って内容はすっかり忘れている。従ってこちらも早く読みたい。飯城氏によると、この作品は「災厄の町」に続いての発表だったが、「ファンが期待する内容」、つまりパズル的作品に戻っているとのこと。たしかマザーグースが引き合いに出されていたはず。
ちなみに、「災厄の町」は「配達されない三通の手紙」として79年に野村芳太郎監督により、舞台を日本に置き換えた設定で映画化されている。(松竹映画)
<追記>
「ダブル・ダブル」読了。飯城勇三氏による解説を読んで知ったのだが、架空の町「ライツヴィル」はこの後刊行された「帝王死す」「最後の女」そしていくつかの短編作品にも登場するそうだ。従って「ライツヴィル4部作」という表現は間違いなのかも。未読なので断定できないが、ネットでの検索ではこれら6作をライツヴィル作品とされている向きもある。自ら確かめるためにも今後の新訳刊行に期待したい。