世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

『経営成績の進捗状況に関する定性的情報等』

2007年01月23日 | Weblog
雛鳥は親鳥の嘴から餌をもらう。
真っ赤な口をあんぐりと開けて、
自らの欲求をアッピールするべくピーピー鳴く。
やがて雛鳥は自分で獲物を探す訓練をする。
それは、本能なのか、親鳥の導きによってなのか…。

「好きなようにやっちゃっておいて」

親鳥である吉熊上司の言葉に、いよいよ自分で餌を探しに行く時を知る、雛鳥亮子は、ここ最近、悩んでいた。
「どうしたらいいんだろ」
ここ数日は、プレッシャーに押し潰されそうだった。
自分が、無邪気に「わからな~い」で済まされる年齢でないことぐらい、
来月29歳を迎える私は知っている。

この仕事に取り組むのは初めてではない。
ただ、いつもは吉熊上司と共同で行っていた。
今回は全て任されたのだ。

やや無難な感じに収まったが、なんとか文章を完成させた。
たった数行の文章。
しかし、それが決算資料の一部を担い、誰かの目に触れることを考えただけでドキドキする。

こんな私が、
こんなことをやっていいのだろうか、
と思う。

「あの子、なんであんなに気が小さいんですかね」

社長が私のことを他部署の人間にそう言っている。
そのことを吉熊上司は心配しているらしい。

気弱な自分を打破したい。
吉熊上司を安心させたい。
…そんな思いから、私は不安な心を封じて書類を吉熊上司に提出した。
精一杯の私の背伸びだ。

書類に目を通す吉熊上司。

駄目かな?
やり直しかな?
…やっぱり、ドキドキ。

「いいんでないかい」

あっけなく採択された。
緊張が緩み、思わずハイヒールで跳ねてしまう。

でも、安心するのはまだ早い。
これは決算書類の完成ではないのだから。

これから皆で数字チェックや校正をし、
ようやく世間にお披露目となる。


雛鳥には、自分で餌を探さなければならない時が来る。

それは雛鳥にとって、寂しくて辛いことには違いない。
しかし、空を飛べる楽しさも得られるはずだ。

青い空を自由に飛び、
それに伴う責任を自覚しながら生きるのも、
そう悪いことではない。

親鳥のぬくもりを感じながら、
今の私は、
そう思う。

コメント (5)

マリー・アントワネットと、あるOLの類似点について

2007年01月23日 | Weblog
残業後、化粧品を買いに行く。
が、売り切れ…。
あと数日ぐらいの残量があるから大丈夫かな。
ウロウロとショッピングモール内を歩くと、映画館にぶちあたった。
そういえば、最近の大型SCには必ずと言っていいほど映画館が併設されている。

前々から観たかった「マリー・アントワネット」の映画が、あと数分で始まるところであった!

おお!
この偶然は「今、観ろ」っていうことなのねん、と勝手に解釈し、観ることにした。

内容は、言わずもがな、ルイ16世の妃、マリー・アントワネットの話。
そう、あの贅沢しすぎて民衆に首チョンパされちゃった人。

私は彼女が好きだ。
小学生の頃に読んだ本が切欠だ。
世界の人物が紹介されている学習漫画での彼女の描かれ具合いが気に入った。
あれが彼女との出会い。
きらびやかなドレスや宝石、舞踏会…日本の片田舎に住む女児には刺激的であった。
私もああいうドレスを着用して、城で踊りたい!…妄想癖があった女児には、学校の蛍光灯がシャンデリアに見えた…。

7年前に初めてベルサイユ宮殿に入場したことは今でも覚えている。
アントワネットが日向ぼっこをしたと伝えられている廊下の突き当たりで、うっとりとしている私の顔を写真で見る度に、その感動が蘇る。
「アントワネットの二酸化炭素がこの部屋に残されているかもしれない」と、深呼吸をしながら見た装飾の激しい天井は、目がくらむぐらいの贅沢さであった。

さて、映画だが。
(ネタバレあり)

しょっぱなから裏切られる!
アップビートなサントラで幕を開けるのだ!
ジジャーン!といった具合いに。

「もしや、これは下妻物語?」と思った。

私の脳内では桃子が茨城の田園で
「その名も下妻!」
と、カメラ目線で言うシーンが頭を駆け巡ったのである…。
そんなノリなの?この映画…。
一瞬、頭が混乱する。

色鮮やかなケーキや靴や花など、女子心をふんだんに取り入れた映像はポップでキュート。
甘いものが好きではない私でさえも「マカロンとやらを食べてみたい」と思った(マカロン未体験)。

甘美な宮廷絵巻を想像していた私は、随所に散りばめられるそんな音楽や映像にポカーンとしつつも、でも次第にその斬新さの虜になっていった。

それらの現代風にアレンジされた手法は、現代女性とアントワネットとの距離を縮めさせる役割を果たせたのではないだろうか。

アントワネットだって、私とあまり年齢が変わらない女子なんだと、親近感まで沸いてきた。

14歳でオーストリアからフランスに嫁いだアントワネット。
国境で下着から全部フランス製のものに着替させられるシーンがある。
教育係のおばさんに、愛犬までぶん取られる。
私が吉熊をあのようにカツアゲされたら、かなり怒り狂うだろう。
おばさんに噛みつくかもしれない。

結婚してもなかなか性行為をしてくれないルイ16世に不安になりつつも、なんとかその気にさせて、子供を産む。

…しかし、公開出産。

つくづくこの時代の女性は大変だなと思った。

母親になったアントワネットは宮殿の煩わしさに耐えきれなくなり、突然ロハスに目覚める。
ルイ16世からプチ・トリアノンという田舎の宮殿をプレゼントされ
「田舎っていくね?」
とか言っちゃう。
ターシャみたいにガーデニングをするんである!
野に咲く花を幼い娘と手を繋ぎながら愛でるアントワネットは、凄く幸せそうであった。

しかし、豪遊は止まらず。
朝まで遊び狂う。
朝日を見ながら、遊び仲間たちと青春したり。
浮気までしちゃって、んもう、すっかりお淫ら三昧。
…当然、貧困に喘ぐ群衆からブーイング。

しかし、アントワネットは
「何か問題でも?」ってな感じで、無視。
潔くてカコイイ!

とうとうベルサイユ宮殿を群衆に取り囲まれる。
騒ぎ声が室内まで届き、響き渡る。

が、普通に食事。
そのときテーブルの上で手を繋ぐアントワネットとルイ16世が好き。
やっと二人の心が通じあった瞬間だ。
しかも、こんな時になって。

皮肉だわ。
切ないわ。

…なんて感じていたが、実際には飢えで死んだ市民もいっぱいいるわけで…。

根本的に私はアントワネット気質ではないんだろう。
憧れてはいるけれども。
自己評価が低いので、いつも周囲の目を気にして過ごしている私は、あんなに奔放になれない。心から贅沢を楽しめない、せせこましいOLだ。

でも、唯一アントワネットの気分が理解できることがある。
一度贅沢な化粧品を使うと、もうそのレベルを下げられないということだ。

アントワネットも、きっと贅沢な生活レベルを下げられなかったんだろう。
怒り狂う群衆の声も耳に入らないぐらいに。

不況になっても化粧品会社が利益を保持できているのを見ると、アントワネットなソウルを持っている女性が、私だけではないことを感じる。
コメント (7)