中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

南京からの手紙

2008-06-19 09:39:02 | 中国のこと
 東京の施路敏(シ・ルミン)が会社の休みを取って上海に帰り、いつものように南京の祖父母の家に行った。東京に戻ってから、お土産に南京特産の塩鴨と醤油煮の鴨、祖母たち手作りの粽を送ってくれた。その中に祖父の王明福(ワン・ミンフ)さんから私に宛てた手紙が入っていた。南京の祖父母の家には昨年夏に路敏と訪れ、快く迎えてもらった。

手紙は次のようなものである。

こんにちは
 中国と日本の両国は隣人同士です。お互いに関心を持つべきで、過去の戦争についてはもう何も言いません。あなたは中国人民との友好と世界の人民との友好のために励んでおられます。未来の生活はもっと良くなるでしょう。両国は互いに助け合って、共に向上していきましょう
 ご健康をお祈りします。
              中国平和老人
                    王明福

 王さんは83歳で、2年前に交通事故に遭ったために車椅子の生活をしている。手紙の末尾に、手の関節炎のために字がきれいに書けないことを詫びてあったし、路敏の話では耳も遠くなっているようだ。1927年の日本軍の南京占領のときには香港に避難していたが、その父親は危うく日本軍人に射殺されるところを九死に一生を得ている。奥さんは当時まだ幼かったが南京にいて、虐殺された死体を見ている。昨年訪れた時、日本に一部の新聞などには南京事件はなかったということも言っていると話したら、王さんは苦笑して「あったのですよ」と言い、父親から聞いた話をしてくれた。

 そんなことで祖父母は日本人に対しては良い感情を持っていなかったことは路敏から聞いていたが当然のことだろう。それでも訪れた時には、日本人には初めて会うと言って、家族の人たちと挙げて歓待してくれた。王さんは、中国人はお客さんを大切にしますと言ったが、本当に心温まる3日間だった。その折りにも家族の1人が、私に会って日本人に対する考えが少し変わったと言ってくれ、私なりに友好に役立ったのかと嬉しく思ったのだが、今度の王さんの手紙を読み、またその思いを強くした。

 現在の日本と中国との関係はかなりぎくしゃくしたものがあるし、何かにつけ意図的に反中国感情を振りまく者もいる。中国でもインタネットなどでは根強い反日感情があるようだ。おそらくは互いの国を訪れたことも無い者がほとんどで、偏った情報によって憎しみや嫌悪の感情を抱いているのだろう。そこからは何も明るい未来は生まれない。ささやかでも人間としての心の触れ合いをしながら互いに理解し合うように努力していけば、やがては日本と中国とは信頼し合える国になるだろうと信じている。王さんの短い手紙を読み返しながら、過去の戦争を体験した中国と日本の、平和を願う名も無い庶民の2人の老人が心を通わせ合うことができたことを嬉しく思い、その仲立ちになってくれた施路敏に感謝している。


     
 
  王さん夫妻と孫娘(向かって右が路敏)