Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

坂本龍一音楽、「攻めている」ブロードウェイ最新の『人形の家』

2023-04-30 | Weblog

坂本龍一さんが亡くなって悲しいが、坂本さんの音楽が使われた、イプセン作『人形の家』が現在、ブロードウェイで上演されている。

 

エイミー・ヘルツォークが脚色、ジェイミー・ロイドが演出、『ゼロ・ダーク・サーティ』『女神の見えざる手』等で知られ、一昨年には『タミー・フェイの瞳』でアカデミー賞を受賞したばかりのジェシカ・チャステインがノーラを演じている、話題作だ。

昨今あらためて商業主義が指摘されるブロードウェイ作品とは思えない、素舞台。舞台上はからっぽだ。裸の劇場内部が丸見えだが、俳優の身長高よりちょっと上のラインから下は、舞台床も含めて、真っ白に塗られている。それは照明がかなり美術と演出の領域に侵蝕して「攻めている」からで、ハイテクも共存させることで、おそろしくシンプルでありながら、効果的である。

俳優はみんな黒いシンプルな衣裳。椅子も簡素。

ジェシカ・チャステインのノーラは、ラストを除いて、ほぼ、座ったままだ。タランチュラの踊りでも座っている。他の俳優の性別や出自、身体性に於いても、この世界がダイバーシティー化していることを証明する選択と演出が為されている。男性が支配する世界の理不尽さが、もともとのテキストのニュアンスを越えて、人々がじっとしているとき、黙っているとき、とくに、モノトーンの世界の中で、際立ってくる。

舞台美術としては他に、私が新国立劇場で演出した『マッチ売りの少女』とほぼ同様の二重回転盆を駆使している。いろいろなことを思い出して、苦笑いしてしまう。この盆の動きは、階上の席で見るのと、一階で見るのとでは、まるで見え方が違うはずだ。

 

そして音楽のクレジットは、「坂本龍一 & アルヴァ・ノト」。作品を透明かつ複雑な豊かさに仕上げ、極めて効果的である。

 

先月、観ることができた。この『人形の家』、16週間限定の上演、あと5週間というのはもったいない。

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