ヴィム・ベンダース監督の最新作、役所広司主演の『PERFECT DAYS』を、ようやく観る。
のっけから、クルマを走らせるシーンで、東京の高速道路を未来都市に見立てたタルコフスキーの『惑星ソラリス』が、頭を過ぎった。まあ、関係ないのであるが。
途中まで期待で胸を高まらせて、観た。
しかし,トイレ掃除の仕事の若い同僚が出てくるシーンから、ひっくりかえってしまった。若者たちが出るシーンはジャームッシュに撮ってほしかった気がする。
何度か挿入される、よくわからないモノクロの重ね映像は、不要な気がする。
ときどき面白い感じのセリフがあったりするが、物語の軸に触れるものではない。
同じ役所広司主演だから『素晴らしき世界』と比較する人も多いと思うし、じっさい、「何かしでかした人がこの境遇にいる」という結末近くの説明で似通ってしまったので「あらら」と思ってしまったが、まあ比べても仕方ないと思う。
あがた森魚さんのギター伴奏で石川さゆりさんの歌を聴く映画とは思わなかった。
田中泯さんにはもっと活躍してほしかった。
さいきん病いに向き合う役の多い三浦友和と主人公の「影踏み」も、気の効いたことをしているのはわかるが、幾らなんでもご都合だろう。
浅草の、駅の改札に近い地下街の焼きそばも出す居酒屋には、この映画の「聖地巡礼」のお客が押し寄せていたりするのだろうか。知らないけど。
下北沢をもっと写してほしかったが、それはこちらの勝手である。
基本は、渋谷のトイレの広報映画である。そう思うと、とてもよくできている、と思う。
ベンダース監督は、1990年頃に、某広告代理店主導でトヨタの広報のための短編映画を撮っていたはずである。その流れと関係あるのかどうか知らないが。そのトヨタの方のに関わっていた人と過去に微妙に接点があったことを思い出したが、まあそれはどうでもいい。
一九七〇年代後半、ベンダース監督の『さすらい』とヘルツォーク監督の『カスパー・ハウザーの謎』の二本を、ドイツ文化センターが無料で貸しだしてくれていた時期があって、岡山・倉敷の有志で、倉敷市民会館で上映会を企画したことがあるが、フィルムが届いて目の前にあるのに映写機が壊れていて観られなかったという事件がある。その二本は、後になって東京に出てきてからようやく観ることになるのだが、『さすらい』を観るまでには、その後十五年くらいかかったのではないか。
タイトルになっている『PERFECT DAYS』はルー・リードの曲だが、燐光群『屋根裏』のニューヨーク上演時に、ルー・リード氏本人が劇場まで観に来てくれたのには、ほんとうに驚いたことを憶えている。
正直に言えば、物語は不要だった気がする。とことん何も起きない映画にしてほしかった、と思う。
これだけ感想が出てくるのだから、やはり観るべき映画だったのである。