「歌う船」 アン・マキャフリー

身体的に欠陥を持ち、そのままでは生きていけないが、頭脳は優秀に生まれた子。
《中央諸世界》はその子を金属の殻に封じ込め、機会装置と繋いで、〈殻人（シェル・ピープル）〉を作り出す。
ヘルヴァはその様に誕生した頭脳船（ブレインシップ）の偵察艇だった。
一般的に、その船を〈脳（ブレーン）〉乗り組む偵察員を〈筋肉（プローン）〉と呼ぶ。
ヘルヴァの趣味は歌う事、「歌う船」と呼ばれる。
これは、ヘルヴァの活躍を描くオムニバス長編。

ヘルヴァの始めてのプローンはジェナン。ジェナンは歌が上手だった。
しかし、ジェナンは任務で死んでしまう。
身体は機会でも、心は人間の１６才の少女ヘルヴァ。ジェナンの死に苦しみ、悲しむ。
しかし、次の任務を与えられ、新たなプローンを乗せ、宇宙を飛ぶ。
臨時の仕事で、一度きりの乗船のプローン、シオダやキラとの接触、
同じブラインシップの話からヘルヴァは死について、生きる事について考えて行く。

キャラメルボックスの「ブラッグ・フラッグ・ブルース」の基になった話。
意志のある宇宙船と言うと、キャプテン・ハーロックのアルカディア号を思い出す。
しかし、トチローがアルカディア号にあるのは精神だけ。
しかし、ヘルヴァは船に人格があるのではなく、ヘルヴァがいて、そして船がある。
読んでいても始めはその外観にとらわれて、頭脳だけ人間の船とみてしまった。
この物語の中にもその様な人達が登場してヘルヴァを悩ませる。
読んでいて、ヘルヴァを一人の人間として見られる様になり、
よりヘルヴァの気持ちが分かる様になったと思う。
外見にとらわれない人間でありたいと思っているのに・・・・気が付いた時は、情けなかった。
明るく、皮肉も言って、少女そのもののヘルヴァ。人間ドラマとして楽しめる。
始めに相棒になったジェナンの死を経験しなければならなかったヘルヴァが可哀想だった。
ラストで新しい相棒のプローンと出会えて良かった。