散歩絵 : spazierbilder

記憶箱の中身

忘れ草

2005-08-01 16:22:26 | 植物、平行植物
雨曇りの早朝。薄墨色の雲が空気に反映している。 レモン色の少し反り返った花びらは濃緑を背景にそれ自体が光源を秘めているように輝き浮きあがる。夕暮れに開花し朝露を受けて輝く花は、夕刻には身を捩じらせて凋んでしまう短命な花だが、優しい香を放ちながら見る者の心を和ませる。
我が家に咲くのはHemerocallis citrina ユリ科のワスレグサ属 ユウスゲ。
ユウスゲの仲間にニッコウキスゲやカンゾウなどがある。カンゾウを忘れ草、ニッコウキスゲを禅庭花というらしいが、キスゲもカンゾウも近縁なので区別がつきにくいので混同してしまうようだ。またキスゲの花が首を傾けて咲くのに対し、カンゾウの花は天を向いて咲くと言う風にも聞いた事があるが、詳しい事はわからない。

昔の事。
祖父が日光からの出張土産に高山植物の押し花帳と高原に咲く花の写真カードつづりを買って来た事があった。今思えば祖父は自分で楽しむために買ってきたのだろう。欲しいとねだると実にしぶしぶと私にそれらを託した。それぞれの写真の裏には短歌や詩が添えられていて、中でもニッコウキスゲ(禅庭花)が一面に咲く写真は美しく,それは子供心に印象深く残った。カードの裏には”ニッコウキスゲの花咲く湿地帯 草鞋踏みしめ踏みしめとおる”と印刷されていたのをいまだに覚えているので面白い。他に何枚も写真はあったはずだが何故かその一枚の写真とその詩だけが記憶に残った。
又その頃、埃っぽい田舎道でノカンゾウ(忘れ草)の花がポツリと咲いていて何故だか凛々しく感じたのも覚えている。背が低くコンパクトに咲いていて、派手なオレンジ色の花なのに地味な印象の植物だとも思った。春先、十二単のように根元が重なったカンゾウの葉を切って”カンゾウ雛”を作るというのを誰に教わったものだか記憶が薄いが、根元からすっぱり潔く切ってしまうので、後で花は咲かないのではないだろうかと心配した記憶もある。

"忘れ草 我が紐につく 香具山の 故りにし里を忘れむがため” 大伴旅人

ワスレグサの名は中国においてこの花を見ると憂いを忘れるとか、この花を食べると憂いを忘れるとかの故事から来ているらしい。
金針花とも呼ばれて蕾を乾燥させたのもを料理する。ビタミン、鉄分が豊富で、歯ごたえがあり美味しい。
過去記事にその木の下で休むと記憶をなくすといわれる、魅惑的芳香のあるブルグマンシアの花に触れたが、いづれの花もその美しさや、えもいわれぬ香が私達を解放し、しばし夢の中へといざなう。