夢の話は自分だけが面白いと思うもので、他人の夢滓などちっとも面白くないのだろう。それでも敢て夢の話を書いて見ることにした。
”怖い話”を書いてみようかというのがきっかけだったのでこの夢を選んだが、夢としては荒唐無稽さが無くて 面白く無い。
手元に昔の夢日記がある。映像的に美しく言葉では表わせない絵のような夢もある。
たいていはぶつ切りの話が何食わぬ顔でちゃっかりつながっていたりするのものだが、ある時最後までつじつまの合う夢を見た。これだけ長くて現実的(?)な夢を見るのは後にも先にも今のところこれだけだ。大抵は継ぎ接ぎコラージュである。色は必ず覚えている。後からつけたのだろう、といわれても実際の所はわからないが、覚えている。。と思っている。
夢日記はメモ書きだから、下記の話は読みやすいようにと多少の色付け、夢保持者の特権、勝手な付け足しを施したが、筋書はほぼこのとおりだ。夢を実際見ている時間はわずかだというから、このえらく長い話が一瞬の間にどんな風に折りたたまれて記憶に残るのかと不思議に思う。
ちなみにこの夢を見たときの私の視点は映画を見るように外にある。傍観者の立場だ。
注意!:以降他人の夢屑だって読んでやるぞ、という方のみ読み進めてくださることをお勧めします。
緑濃い八月の日曜日。
空を見上げれば一面に蒼空が広がっている。ただぽつんと吹き出物のように小さく固そうな雲が東の空に浮かんでいるのが見えるだけだ。今日も暑くなるのだろう。
庭先に出されたテーブルでは家族が朝食を始めたところだった。
両親に挟まれるように座った男の子がジャム付のトーストを制覇しようとしている。
父親はゆで卵の皮を割り、母親がコーヒーを新しくカップに注いでいる音が、風の運んでくる音に加わってもまだ静かな日曜日の朝。ぬるい空気が空間にヌメリを持って動くともなし停滞している。
突然、静けさは油の切れた木戸を開ける音にかき乱された。父親は『朝食が終わったら、木戸の留め金に後で油を差しておかなきゃいけないぞ』と考えながら卵に薄皮を熱心に丹念にむき続けている。
「あら、どこの坊やかしら?」
という母親のいつもよりも一つトーンの高い声をきっかけに一斉に庭木戸を振り向くと、ぼろきれを纏っただけの痩せこけて片目の潰れた少年が木戸に手を掛けたまま、ぼんやりと佇んでいた。
少し頭を右にかしげながら、少年の片目は彼等をみているのに、しかしその視線は彼等を通り越し、後ろの何かを探っているかのようだ。魅入られたように凍りついたその場を解凍したのは今までジャムパンと格闘中だった、今年5つになる子供だった。
「君は誰?」
それに続けて母親が、少年を朝食に招いた。
あたかも今、目が覚めたかの様子で少年は木戸にかけた手に力を込め、心を半分どこかに置き忘れたような様子で近づいてきた。片足を引きずって歩く少年は薄汚れたなりの奥にどこか親しみを覚える何かを持っている。父親も母親も機械的に食事に専念している振りをしているだけのようで、実は少年から何故か目が離せなくなっている。
たっぷりとした食事を終えて彼らが訊ねる間もなく、少年は自分の生い立ちを語り始めた。話が進んでゆくうちに父親の顔にあらゆる感情がかわるがわる万華鏡の様に変化している。母親の薄く開いた口元は呼吸する事を忘れているかの様で、コーヒーカップを持つ指先が白くなっている。
彼等の変化を見取りながら少年が話し終えた。
父親は10年前の今頃、何もかもが上手くゆかずに仕事も失いイライラしていた。
ある真夏の夕方、空気がすっかり膨れ上がって息ぐるしい中を、5つになったばかりの息子を連れて近くの野原に散歩に出かけた。いつもより夕飯が遅かったので、あたりはすでに薄暗くなっている。
左右に丈高い草原が広がっていて、道筋のほか一面緑が地面を埋めている。
風が草原のうえを通る音さえもしない。枝の先をナイフで尖らせながらぼんやり散歩を続けていた。
と、右手の草むらがいきなりガサガサとゆれ動いたのだ。それだけのことに彼の頭の中がパーンと飛んでしまった。そして草むらの中に向って手に携えていた先を尖らせた細く長い枝をがむしゃらに振り回し突き刺した。
手ごたえがあったと思った途端、ドサッと何かが倒れる音とヒーと細く高い泣き声が聞こえたのに我に返り、草むらを分け入ると、そこには目を刺されて血まみれになった我が子が倒れていたのだ。
動転した彼はいきなり走り始め、自宅の庭が見えたその時、我に帰って又引き返したが、倒れていた筈の息子の姿はなく、そこだけなぎ倒された草の穴が開いているだけだった。
「それでは君は私の息子だ」と父親は自分の過ちの許しを請いながら少年を抱きしめ、少年の長い旅も終わり、一つの悪夢は終わったように見えた。
翌日、母親が特別に腕を振るった夕食の後、父親は息子二人を誘って散歩に出かけた。何もかもすべて歯車は合うべき所に合わさり、ようやく順調な未来を描く事が出来る様に思った父親はいつになくはしゃいだ様子だ。
拾った枝で草をなぎ倒しながら、来週末には釣りに行こうと饒舌だった。
日は暮れて、夕闇が音を立てながら近づいてくるのに気がついて引き返すことになった。長男が従う足音が聞こえる。
数歩歩いたその時、右手の草むらがガサガサと揺れ動き、父親は草むらに思わず突き刺した枝の先に何があるのか、“見る事”が出来なかった。
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私の夢日記にはタイトルがつけてあるものも多い。題名だけここにいくつか書き上げて見ると、
1.ももあんこ
2.本屋たたたたた
3.ドーナツのなる木
4.蒼いマグノリア
5.8階建ての周りを惑星が回る。
6.2色バベルの塔
7.欲張るものは損をする
8.鯰またはツワブキの森にハンミョウ
9.巨大金魚に咬まれる
10.千切れる腕
食べる夢もかなり多い。時々友達が呆れるのは、夢で美味しく食べて、香りもすることだ。最近楽しい美しい夢が減ってきたので、残念だ。
”怖い話”を書いてみようかというのがきっかけだったのでこの夢を選んだが、夢としては荒唐無稽さが無くて 面白く無い。
手元に昔の夢日記がある。映像的に美しく言葉では表わせない絵のような夢もある。
たいていはぶつ切りの話が何食わぬ顔でちゃっかりつながっていたりするのものだが、ある時最後までつじつまの合う夢を見た。これだけ長くて現実的(?)な夢を見るのは後にも先にも今のところこれだけだ。大抵は継ぎ接ぎコラージュである。色は必ず覚えている。後からつけたのだろう、といわれても実際の所はわからないが、覚えている。。と思っている。
夢日記はメモ書きだから、下記の話は読みやすいようにと多少の色付け、夢保持者の特権、勝手な付け足しを施したが、筋書はほぼこのとおりだ。夢を実際見ている時間はわずかだというから、このえらく長い話が一瞬の間にどんな風に折りたたまれて記憶に残るのかと不思議に思う。
ちなみにこの夢を見たときの私の視点は映画を見るように外にある。傍観者の立場だ。
注意!:以降他人の夢屑だって読んでやるぞ、という方のみ読み進めてくださることをお勧めします。
緑濃い八月の日曜日。
空を見上げれば一面に蒼空が広がっている。ただぽつんと吹き出物のように小さく固そうな雲が東の空に浮かんでいるのが見えるだけだ。今日も暑くなるのだろう。
庭先に出されたテーブルでは家族が朝食を始めたところだった。
両親に挟まれるように座った男の子がジャム付のトーストを制覇しようとしている。
父親はゆで卵の皮を割り、母親がコーヒーを新しくカップに注いでいる音が、風の運んでくる音に加わってもまだ静かな日曜日の朝。ぬるい空気が空間にヌメリを持って動くともなし停滞している。
突然、静けさは油の切れた木戸を開ける音にかき乱された。父親は『朝食が終わったら、木戸の留め金に後で油を差しておかなきゃいけないぞ』と考えながら卵に薄皮を熱心に丹念にむき続けている。
「あら、どこの坊やかしら?」
という母親のいつもよりも一つトーンの高い声をきっかけに一斉に庭木戸を振り向くと、ぼろきれを纏っただけの痩せこけて片目の潰れた少年が木戸に手を掛けたまま、ぼんやりと佇んでいた。
少し頭を右にかしげながら、少年の片目は彼等をみているのに、しかしその視線は彼等を通り越し、後ろの何かを探っているかのようだ。魅入られたように凍りついたその場を解凍したのは今までジャムパンと格闘中だった、今年5つになる子供だった。
「君は誰?」
それに続けて母親が、少年を朝食に招いた。
あたかも今、目が覚めたかの様子で少年は木戸にかけた手に力を込め、心を半分どこかに置き忘れたような様子で近づいてきた。片足を引きずって歩く少年は薄汚れたなりの奥にどこか親しみを覚える何かを持っている。父親も母親も機械的に食事に専念している振りをしているだけのようで、実は少年から何故か目が離せなくなっている。
たっぷりとした食事を終えて彼らが訊ねる間もなく、少年は自分の生い立ちを語り始めた。話が進んでゆくうちに父親の顔にあらゆる感情がかわるがわる万華鏡の様に変化している。母親の薄く開いた口元は呼吸する事を忘れているかの様で、コーヒーカップを持つ指先が白くなっている。
彼等の変化を見取りながら少年が話し終えた。
父親は10年前の今頃、何もかもが上手くゆかずに仕事も失いイライラしていた。
ある真夏の夕方、空気がすっかり膨れ上がって息ぐるしい中を、5つになったばかりの息子を連れて近くの野原に散歩に出かけた。いつもより夕飯が遅かったので、あたりはすでに薄暗くなっている。
左右に丈高い草原が広がっていて、道筋のほか一面緑が地面を埋めている。
風が草原のうえを通る音さえもしない。枝の先をナイフで尖らせながらぼんやり散歩を続けていた。
と、右手の草むらがいきなりガサガサとゆれ動いたのだ。それだけのことに彼の頭の中がパーンと飛んでしまった。そして草むらの中に向って手に携えていた先を尖らせた細く長い枝をがむしゃらに振り回し突き刺した。
手ごたえがあったと思った途端、ドサッと何かが倒れる音とヒーと細く高い泣き声が聞こえたのに我に返り、草むらを分け入ると、そこには目を刺されて血まみれになった我が子が倒れていたのだ。
動転した彼はいきなり走り始め、自宅の庭が見えたその時、我に帰って又引き返したが、倒れていた筈の息子の姿はなく、そこだけなぎ倒された草の穴が開いているだけだった。
「それでは君は私の息子だ」と父親は自分の過ちの許しを請いながら少年を抱きしめ、少年の長い旅も終わり、一つの悪夢は終わったように見えた。
翌日、母親が特別に腕を振るった夕食の後、父親は息子二人を誘って散歩に出かけた。何もかもすべて歯車は合うべき所に合わさり、ようやく順調な未来を描く事が出来る様に思った父親はいつになくはしゃいだ様子だ。
拾った枝で草をなぎ倒しながら、来週末には釣りに行こうと饒舌だった。
日は暮れて、夕闇が音を立てながら近づいてくるのに気がついて引き返すことになった。長男が従う足音が聞こえる。
数歩歩いたその時、右手の草むらがガサガサと揺れ動き、父親は草むらに思わず突き刺した枝の先に何があるのか、“見る事”が出来なかった。
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私の夢日記にはタイトルがつけてあるものも多い。題名だけここにいくつか書き上げて見ると、
1.ももあんこ
2.本屋たたたたた
3.ドーナツのなる木
4.蒼いマグノリア
5.8階建ての周りを惑星が回る。
6.2色バベルの塔
7.欲張るものは損をする
8.鯰またはツワブキの森にハンミョウ
9.巨大金魚に咬まれる
10.千切れる腕
食べる夢もかなり多い。時々友達が呆れるのは、夢で美味しく食べて、香りもすることだ。最近楽しい美しい夢が減ってきたので、残念だ。