ひどい雨なら延期にしようと半分あきらめていた。朝起きると、うっすら空は明るく悪くない予感がする。“週末は雨”と天気予報で散々脅かされていたので、少々得をした気分で出発した。行く先はベルギーのゲント。
ゲントは中世の町並みを今だ髣髴とさせる古都である。街の中心部に足を踏み入れると、何故、石畳の道を馬の蹄がリズミカルに行き交ったり、裾の長いドレスの婦人が見えないかと思うほどに中世そのままのたたずまいなのだ。
まず石橋を渡る。![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/95/ca66c705a748114d8860ea2c41c052aa.jpg)
橋下の川岸にはギルドハウスが並んでいる。。。![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/dc/6be09dce950128ebb6f61608983c5de2.jpg)
神聖ローマ皇帝カール5世の生誕の地であり、16世紀には輝かしい街であった事だろう事が難なく想像できる。繊維産業で栄えた街は当時パリと同じ位の人口を持っていたというからなかなかなものだ。
聖ミカエル教会の脇から橋を渡ると聖ニコラウス教会、鐘楼、聖バーフ大聖堂が一望出来る。
今回のゲント訪問目的は聖バーフ大聖堂内
にあるファン・エイク兄弟の祭壇画を見ることであるから、まず脇目を振らずに何はともあれ大聖堂に入る。素晴らしい聖堂内にまず一目投げかけてから、“神秘の子羊”の展示室に入った。
現在は開いたままの状態でガラスケースに収められているが、それでもこの祭壇画が放つ魅力は軽減される事無く素晴らしい。
画集で見る事が出来ない細部を一つ一つ確認するように眺めてゆく。解説を聞けば、絵の中の小道具のシンボル性、描かれた場面が表す意味は奥深く、そしてヤン・ファン・エイクの編み出した絵画技法を眺めてつくづく感嘆した。当時祭壇画設置位置の右に窓があったので、右光線の採光に決めたのだろうという説もあるほどに光にこだわる画家だったらしい。またアダムのつま先が絵の枠からはみ出ていたり、受胎告知場面においては絵を分ける枠組み額の影までもが描かれており、視覚的臨場感を与えている。
祈祷書を読みふける、深い紺色の衣を纏った聖母マリアの表情は平安そのものであり、頭上に頂く冠には薔薇、ユリ、苧環、すずらんがあしらわれている。ユリは処女性、清純を薔薇は愛、痛み、清純を、苧環は謙遜、すずらんは処女マリアを表わしている。その冠の上には12の星が描かれ黙示録の12章を暗示させる。
-又。強大なしるしが天に現れた。一人の女が太陽を着て、月を足の下に踏み頭には12の星の冠をかぶっていた。-黙示録、12章1節
洗礼者ヨハネはらくだの衣の上に紺色と明緑色半々のマントを纏い、膝上に旧約聖書イザヤ書が開かれているのが読み取れるそうだ。そこには“慰めよ”と読めるそうだから、 40章の-“慰めよ、慰めよ、私の民を。”とあなた方の神は仰せられる。- であろうか。ヨハネは人差し指を救世主に向けている。中央の“父なる神”は宝石のちりばめられた真紅の衣を纏い贅をつくした大僧正の冠を頂いている。しかし背後の錦の模様に胸を裂いて子に我が血を与えるペリカンが描かれていること、葡萄の木が描かれていること、ペリカンの上にイエス キリストの名が記されている事から、この画像はイエス キリストを示しているという解釈もあるようだ。それはヨハネが中央像に向って指差している事からもその印象を強くしている。父なる神に向って指差す事は無い筈だという説だ。もちろん真偽はわからないが、憶測をめぐらすのも一興だ。
神秘の子羊が描かれる下段中央の草原には少なくとも42種類の植物が数えられるという事だが、ガラスを隔ててそれを確認する術は残念ながら無かった。
しかし大聖堂で買った解説書の部分写真を見ると、確かに様々な植物が丹念に描かれている。スミレ、苧環、タンポポ、タンポポの綿毛、すずらん、雛菊、アマドコロ、ざくろ、薔薇、ユリ、アイリスなど私が確認できるだけでもまだいま少しある。
出来れば祭壇画に近寄って大きなルーペでなめるようにつぶさに点検できたら面白い事だろう。
兎に角隅々まで綿密な構想で描かれたこの祭壇画の全てを知ることは出来ないが、実際鑑賞すると、これだけの多くの関心が湧く意味がおのずと理解できるというものだ。
いつまでも眺めていたい気持ちはあっても、残念ながら一人占めで見るわけにはゆかず、また足も疲れてきたので満足感を両腕にたっぷり抱えて、祭壇画に別れを告げた。過去記事に書いた経緯でこの祭壇画を注目するに至ったのだが、この素晴らしい祭壇画に出会う事が出来て幸せに思う。
ルーベンスなどもさりげなく掛かっている聖バーフ大聖堂自身、もちろんの事一見の価値を十分持っている。
ロマネスク様式が残る地下聖堂もなかなか良い。
そこには現在修復中の美術館の所蔵品一部が展示されていて、ヒエロニムス・ボッシュの小品が何点か展示されていた。ボッシュの生誕地も確かゲントからそれほど遠くないが、その話は又別の機会に残しておこう。
もう一度地上階に上がり、並ぶステンドグラスをしみじみ眺めたり
ゴシック様式の荘厳な効果に改めて感心してみたりひとしきり楽しんで大聖堂を後にした。
(続く)
ゲントは中世の町並みを今だ髣髴とさせる古都である。街の中心部に足を踏み入れると、何故、石畳の道を馬の蹄がリズミカルに行き交ったり、裾の長いドレスの婦人が見えないかと思うほどに中世そのままのたたずまいなのだ。
まず石橋を渡る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/95/ca66c705a748114d8860ea2c41c052aa.jpg)
橋下の川岸にはギルドハウスが並んでいる。。。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/dc/6be09dce950128ebb6f61608983c5de2.jpg)
神聖ローマ皇帝カール5世の生誕の地であり、16世紀には輝かしい街であった事だろう事が難なく想像できる。繊維産業で栄えた街は当時パリと同じ位の人口を持っていたというからなかなかなものだ。
聖ミカエル教会の脇から橋を渡ると聖ニコラウス教会、鐘楼、聖バーフ大聖堂が一望出来る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1c/6c/90829d5d82066c8c10b39639494e1bcb.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/44/121c3fc3ed2ad98a14027fcdb9990ad3.jpg)
現在は開いたままの状態でガラスケースに収められているが、それでもこの祭壇画が放つ魅力は軽減される事無く素晴らしい。
画集で見る事が出来ない細部を一つ一つ確認するように眺めてゆく。解説を聞けば、絵の中の小道具のシンボル性、描かれた場面が表す意味は奥深く、そしてヤン・ファン・エイクの編み出した絵画技法を眺めてつくづく感嘆した。当時祭壇画設置位置の右に窓があったので、右光線の採光に決めたのだろうという説もあるほどに光にこだわる画家だったらしい。またアダムのつま先が絵の枠からはみ出ていたり、受胎告知場面においては絵を分ける枠組み額の影までもが描かれており、視覚的臨場感を与えている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/2c/87663f2441ed3ca84842be05689e9cf3.jpg)
-又。強大なしるしが天に現れた。一人の女が太陽を着て、月を足の下に踏み頭には12の星の冠をかぶっていた。-黙示録、12章1節
洗礼者ヨハネはらくだの衣の上に紺色と明緑色半々のマントを纏い、膝上に旧約聖書イザヤ書が開かれているのが読み取れるそうだ。そこには“慰めよ”と読めるそうだから、 40章の-“慰めよ、慰めよ、私の民を。”とあなた方の神は仰せられる。- であろうか。ヨハネは人差し指を救世主に向けている。中央の“父なる神”は宝石のちりばめられた真紅の衣を纏い贅をつくした大僧正の冠を頂いている。しかし背後の錦の模様に胸を裂いて子に我が血を与えるペリカンが描かれていること、葡萄の木が描かれていること、ペリカンの上にイエス キリストの名が記されている事から、この画像はイエス キリストを示しているという解釈もあるようだ。それはヨハネが中央像に向って指差している事からもその印象を強くしている。父なる神に向って指差す事は無い筈だという説だ。もちろん真偽はわからないが、憶測をめぐらすのも一興だ。
神秘の子羊が描かれる下段中央の草原には少なくとも42種類の植物が数えられるという事だが、ガラスを隔ててそれを確認する術は残念ながら無かった。
しかし大聖堂で買った解説書の部分写真を見ると、確かに様々な植物が丹念に描かれている。スミレ、苧環、タンポポ、タンポポの綿毛、すずらん、雛菊、アマドコロ、ざくろ、薔薇、ユリ、アイリスなど私が確認できるだけでもまだいま少しある。
出来れば祭壇画に近寄って大きなルーペでなめるようにつぶさに点検できたら面白い事だろう。
兎に角隅々まで綿密な構想で描かれたこの祭壇画の全てを知ることは出来ないが、実際鑑賞すると、これだけの多くの関心が湧く意味がおのずと理解できるというものだ。
いつまでも眺めていたい気持ちはあっても、残念ながら一人占めで見るわけにはゆかず、また足も疲れてきたので満足感を両腕にたっぷり抱えて、祭壇画に別れを告げた。過去記事に書いた経緯でこの祭壇画を注目するに至ったのだが、この素晴らしい祭壇画に出会う事が出来て幸せに思う。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/6c/ba90ee1fcd577ee1fe9f2091b9bef9b0.jpg)
ロマネスク様式が残る地下聖堂もなかなか良い。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/77/91/ccf3e598cda5792da556dc4cc955131b.jpg)
もう一度地上階に上がり、並ぶステンドグラスをしみじみ眺めたり
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/c2/6434b8e7cc8fcfa9aa46076b30b3124b.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/01/b4e835133bdd787b92e260c0ce804ac0.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/56/4246f975641432a98f28684a6135e205.jpg)
(続く)