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できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

「自分たちが何をしてきたか」が問われている感覚の大事さ

2010-12-20 09:42:59 | いま・むかし

久しぶりの更新になります。ツイッターではしょっちゅう何か発信していますが、ようやく、ブログの更新に時間のとれる状況になりました。さっそく、日記帳とは別に、このところ思うことをこちらでも書いておきます。

さて、今年の2回生後期の演習(総合人文学科・現代社会と人間コースの「コース演習Ⅱ」)では、「子どもの貧困」をテーマにして、<新書本サイズの文献をていねいに読み解く練習>に取り組んでいます。そこではテキストとして、阿部彩『子どもの貧困』(岩波新書)と岩田正美『現代の貧困』(ちくま新書)、この2冊を取り上げています。

その『現代の貧困』の25ページには、次のような文章があります。以下、文字色を変えて引用しておきます。

私は、はじめて大学に就職した70年代の半ば、「新しい貧困の意味」という小さな論文を書いて直属の教授に叱られたことがある。貧困のような「古くさいモン」をテーマにすることはまかりならない、というのであった。ちょうど高度消費社会への転換期にあたることを考えれば、貧困ではなく、消費者問題や高齢者のケアなどの新しいテーマに向かうのが当然、と教授は考えたのであろう。

これを読んで、私はハッとしました。ここで岩田さんが書いていることは、「社会福祉学の世界では、ある時期から『貧困』というテーマはマイナーなテーマ、古臭いテーマとして扱われていたのだ・・・・」ということですよね。

たぶん、1970年代以降の社会福祉学のなかでも、マイナーなテーマになったとはいえ、たとえば北海道大学で教育福祉論を研究してきたグループや、この岩田正美さんのように、地道に「貧困」というテーマを追いかけてきた人は、個別に見ていけば何人かいるかと思います。

ですが、その岩田さんが、上のようなことを語るわけです。

だとすれば、今、社会福祉学系の研究者が「貧困」というテーマを取り上げるということは、少なくとも「1970年代以後最近までの社会福祉学はいったい、総体として、どこを向いて(あるいは、誰のほうを向いて)研究してきたのか?」ということが問われているのではないか、と思うのですが。

私は社会福祉学に限らず、教育学や社会学、心理学など、およそ子どもの支援にかかわる研究領域では、この「いったい~学は、総体として、どこを向いて(あるいは、誰のほうを向いて)研究してきたのか?」ということが問われている感覚、これを大事にする必要が今、あるのではないかと思っています。特に「人権の尊重」を目指す立場で研究をしてきたのであれば、その感覚はますます研ぎ澄まされていく必要があるのではないか、と思っています。

教育学においても、「貧困」というテーマはある時期から話題にも上らなくなったかと思いますが、1950年代・60年代あたりまでは重要なテーマだったはず。それこそ、被差別の子どもたちの就学機会の保障というテーマを考えたときには、これは当時の同和教育論・解放教育論において重要な課題だったはずです。また、就学援助制度をどう考えるか、教科書無償配布や給食費の問題など、教育行政や教育政策の分野で重要な課題があったはずです。そして、これらの課題をめぐる議論はすべて、憲法や教育基本法(旧法)に定める教育権保障のあり方を考えることにつながってきたのではないでしょうか。

だから私は、「今まで自分たちはどっちの方向を向いて(誰のほうを向いて)、何を研究してきたのか?」という感覚抜きに、ただ今、話題が「子どもの貧困」を向いているからとか、それで研究プロジェクトを立ち上げたら文科省の「特色GP」が取れそうだからとか、そういう感覚で各学問分野の人たちが「子どもの貧困」問題を論じてしまうことには、一抹の危惧を覚えます。

そういう感覚からはじまった「子どもの貧困」問題に関する研究は、ある意味「時流に乗る」という感覚に根ざすもの。それこそまた「時流」が変われば、今、「貧困」に関する研究をすすめている人たちも、かつて岩田正美さんが言われたように、「そんなもの古臭い」と言われるのではないでしょうか。

もっと腰をどっしりと落ち着けて、じっくりと子どもたちの生活実態を見つめながら、そこから何が教育や福祉、保育や心理などの考えるべき課題なのかを、きちんと議論していくこと。そういう私たちの研究に対する姿勢が今、「子どもの貧困」という課題については問われているような気がしてなりません。

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