今回ご紹介するのは「書店ガール3 託された一冊」(著:碧野圭)です。
-----内容-----
「私、亜紀さんみたいになりたい!」
きらきらした目で新人バイトの愛奈に告げられ、困惑する亜紀。
子育てに疲れ、不慣れな経済書担当として失敗を重ね、自信を失いかけていたからだ。
一方、仙台の老舗書店のリニューアルを任された理子は、沢村店長との出会いを通し、被災地の現状を知る。
そんな亜紀と理子が、気持ちを一つにした目標とは!?
書店を舞台としたお仕事エンタテインメント第三弾。
文庫書き下ろし。
-----感想-----
※「書店ガール」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「書店ガール2」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
小幡亜紀は新興堂書店吉祥寺店に勤め、この4月で30歳になりました。
新興堂書店吉祥寺店はマルシェ吉祥寺というファッションビルの6階と7階にあります。
4月に育児休暇を終えて仕事を再開し、半年が経ったところです。
現在は1歳の光洋を保育園に預け、働くお母さんとして奮闘する日々が続いています。
職場に復帰してから亜紀はビジネス書・資格書・経済書を担当するようになりました。
産休前に亜紀が担当していたのは文芸書でしたが、そこは既に新しく契約社員として入社した尾崎志保に任されていました。
尾崎志保はかつて亜紀や西岡理子とともにペガサス書房で一緒に働いていた仲間でもあります。
今作では亜紀と副店長の市川智紀のギクシャクとした関係が目に付きました。
亜紀は1歳の光洋が熱を出したりすると急に仕事を休まないといけなくなることがあるのですが、そうすると市川智紀に嫌味めいたことを言われます。
口の悪い副店長は亜紀の憂鬱の種になっているようでした。
もう一つ亜紀の憂鬱の種になっているのが、ビジネス書・資格書・経済書の担当。
箱を開けると『会計監査六法』というタイトルが飛び込んできた。ロマンのかけらもないタイトルだ。
と心境を吐露しているように、亜紀は文芸のような楽しさのないビジネス書・資格書・経済書の担当にモチベーションを見出せないでいました。
新興堂書店吉祥寺店の店長を務めるのは、西岡理子。
理子は4月から東日本地区を統括するエリア・マネージャーを兼任することになり、店を空けることが多くなっています。
物語序盤の理子は仙台の櫂文堂(かいぶんどう)書店というお店に行っています。
櫂文堂書店は宮城県の老舗書店で4店舗あり、5月から新興堂書店の傘下に加わりました。
エリアマネージャーである理子は自身が店長を務める吉祥寺店、横浜店、浦安店、新宿店と櫂文堂書店4店舗の合わせて8店舗を統括しています。
理子は櫂文堂書店の本店の店長代理に外商部にいた沢村稔という人を指名。
沢村とともにリニューアル・オープンに向けた準備を行っていました。
しかしこの沢村という人がなかなか警戒心が強く、理子の食事の誘いもあっさり断られたりして、こちらもギクシャクしていました。
櫂文堂書店は新興堂書店に乗っ取られたようなもので、エリア・マネージャーとして来た理子のことも強く警戒しているのだろうと理子は考えていました。
今作では、高梨愛奈(まな)という吉祥寺店に入ったばかりの学生アルバイトが登場します。
高梨愛奈は亜紀と同じ大学の後輩で、二年生とのことです。
副店長の市川には「小幡二世」と評される元気の良い子です。
一ヶ月ほど前に大学が主催する就活の説明会で亜紀がOBのひとりとして書店の仕事について話したのを聞いていて、それに感銘を受け、亜紀の働く吉祥寺店でバイトをすることにしました。
二人が話している時、愛奈の目は憧れの先輩である亜紀を見てきらきら輝いていて、それを見て自分に自信を失いかけていた亜紀は肩身が狭くなっていました。
吉祥寺の書店員が集まる飲み会、吉っ読(きっちょむ)は今回も出てきました
これは実在する会で、解説の島田潤一郎さんという人はこの飲み会にほぼ皆勤賞で出席しているとのことです。
亜紀は久しぶりにこの飲み会に行くのですが、盛り上がる周りに溶け込めず疎外感を感じ、もうここに自分の居場所はないんだなと感じていました。
かつては会の主役として充実した時間を過ごしていた亜紀も、母として育児に奔走し仕事から離れているうちに、最新の文芸書の話題などに付いていけなくなっていました。
亜紀自身、夫の伸光に「もう世代交代だわ」とこぼしていて、「1」や「2」の時の活発な亜紀と違い、ちょっと弱気になっていました。
ちなみに夫の伸光は共学館という大手出版社の編集者でコミックを担当しているのですが、今作では突然ライトノベルの編集をやることになりました。
かつては一生コミックの編集でいたいと言って転職もしたため、まさかの展開に亜紀は大丈夫なのかと心配します。
そこで伸光が見せた前向きさは、今作でもかなりの良い場面でした。
「どうせやるなら楽しく」「仕事を楽しくしようと思ったら、楽しくなるように自分で動かなきゃダメだ」という言葉に、自分への自信を失いかけていた亜紀も勇気付けられます
リチャード・ブローティガンの「愛のゆくえ」という本が出てきたのは印象的でした。
これは「ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~」に出てきた本で、「最近ある人気小説で紹介されて、評判になったりもしている」とあってすぐにピンときました^^
この「愛のゆくえ」という本、今作では結構重要な一冊になっています。
今回の物語は、東日本大震災と密接に関わっています。
時系列としては震災から二年半が経ったところです。
理子と沢村が繰り広げた仙台の被災地についての会話も印象的でした。
東松島市図書館というのがあり、そこは津波に遭わなかった場所で、被災直後から市内のほかの図書館や学校の図書室の建て直しのための拠点となるような活動をしているとのことです。
沢村は震災後にこの図書館にボランティアとして駆けつけ、全国から寄贈された本の仕分けや箱詰めなどを手伝っていました。
調べてみたら実在する図書館で、きっと作者の碧野圭さんは現地に足を運んで色々取材したのではないかと思います。
理子は沢村に連れられて東松島市図書館に行ってみたのですが、その帰り道、「政文堂」という本屋に寄りました。
震災直後、この店にも津波が来て、建物は大丈夫だったものの、本は水浸しになったり湿気にやられたりで駄目になってしまいました。
沢村はここを通り掛かり、自分も本屋だから見ていられないと言って復旧を手伝ってくれたとのことです。
最初に登場し、理子を警戒しているのか無愛想な雰囲気だった時の沢村と人物像が随分違うなと思いました。
本当の沢村は素晴らしく良い人物だったようです。
リニューアル・オープンに向けてもお得意様に向けてハガキを200枚も書いて送っていたことが明らかになり、すごく情熱的な人だなと思いました
ちなみにリニューアル・オープン当日に仙台在住の作家がお店にやってきて、今では本屋大賞を取るような人気作家になっているとあったのですが、これは伊坂幸太郎さんのことではないかと思います。
仙台在住で本屋大賞受賞といえば伊坂さんが思い浮かびます。
被災者ビジネスが横行しているというのは嫌な話だなと思いました。
被災者を下請けに使って微々たる手数料を支払い、儲けのほとんどが業者の懐に入るというもので、被災者の支援になると言えば割高でも買う人は少なくないのを利用し、がっぽり儲けるというわけです。
上乗せされた分が被災者に渡るなら良いのですが、悪徳業者だと自分の懐に入れてしまい、実際にそんな業者があったら嫌なものです。
物語の中盤から、理子が吉祥寺店に帰ってきて、ついに理子と亜紀の会話が始まりました。
やはり「1」と「2」でともに戦ってきた二人が揃ったほうが良いなと思います。
育児で勤務時間のシフトなどに制限があり、今後のことを考え珍しく随分弱気になっている亜紀を理子は叱咤激励していました。
やがて、理子の発案で被災地のために「震災三周年フェア」をやろうという話が出てきます。
「やっても無駄」と揚げ足を取る人もいるだろうが、何もしないよりはやったほうが良いというのが理子の考えです。
これにはイベントが好きな亜紀も大賛成。
副店長の反対はありましたが最終的にはやるということで話はまとまり、3月のフェアに向けて動き出すことになりました。
母親としてある決断をした亜紀にとっては、理子とともに臨める最後のイベントでもあります。
もし続編が出た時、新たな道を選んだ亜紀がどんな姿を見せてくれるのか、楽しみです
※「書店ガール4 パンと就活」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「書店ガール5 ラノベとブンガク」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「書店ガール6 遅れて来た客」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
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-----内容-----
「私、亜紀さんみたいになりたい!」
きらきらした目で新人バイトの愛奈に告げられ、困惑する亜紀。
子育てに疲れ、不慣れな経済書担当として失敗を重ね、自信を失いかけていたからだ。
一方、仙台の老舗書店のリニューアルを任された理子は、沢村店長との出会いを通し、被災地の現状を知る。
そんな亜紀と理子が、気持ちを一つにした目標とは!?
書店を舞台としたお仕事エンタテインメント第三弾。
文庫書き下ろし。
-----感想-----
※「書店ガール」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「書店ガール2」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
小幡亜紀は新興堂書店吉祥寺店に勤め、この4月で30歳になりました。
新興堂書店吉祥寺店はマルシェ吉祥寺というファッションビルの6階と7階にあります。
4月に育児休暇を終えて仕事を再開し、半年が経ったところです。
現在は1歳の光洋を保育園に預け、働くお母さんとして奮闘する日々が続いています。
職場に復帰してから亜紀はビジネス書・資格書・経済書を担当するようになりました。
産休前に亜紀が担当していたのは文芸書でしたが、そこは既に新しく契約社員として入社した尾崎志保に任されていました。
尾崎志保はかつて亜紀や西岡理子とともにペガサス書房で一緒に働いていた仲間でもあります。
今作では亜紀と副店長の市川智紀のギクシャクとした関係が目に付きました。
亜紀は1歳の光洋が熱を出したりすると急に仕事を休まないといけなくなることがあるのですが、そうすると市川智紀に嫌味めいたことを言われます。
口の悪い副店長は亜紀の憂鬱の種になっているようでした。
もう一つ亜紀の憂鬱の種になっているのが、ビジネス書・資格書・経済書の担当。
箱を開けると『会計監査六法』というタイトルが飛び込んできた。ロマンのかけらもないタイトルだ。
と心境を吐露しているように、亜紀は文芸のような楽しさのないビジネス書・資格書・経済書の担当にモチベーションを見出せないでいました。
新興堂書店吉祥寺店の店長を務めるのは、西岡理子。
理子は4月から東日本地区を統括するエリア・マネージャーを兼任することになり、店を空けることが多くなっています。
物語序盤の理子は仙台の櫂文堂(かいぶんどう)書店というお店に行っています。
櫂文堂書店は宮城県の老舗書店で4店舗あり、5月から新興堂書店の傘下に加わりました。
エリアマネージャーである理子は自身が店長を務める吉祥寺店、横浜店、浦安店、新宿店と櫂文堂書店4店舗の合わせて8店舗を統括しています。
理子は櫂文堂書店の本店の店長代理に外商部にいた沢村稔という人を指名。
沢村とともにリニューアル・オープンに向けた準備を行っていました。
しかしこの沢村という人がなかなか警戒心が強く、理子の食事の誘いもあっさり断られたりして、こちらもギクシャクしていました。
櫂文堂書店は新興堂書店に乗っ取られたようなもので、エリア・マネージャーとして来た理子のことも強く警戒しているのだろうと理子は考えていました。
今作では、高梨愛奈(まな)という吉祥寺店に入ったばかりの学生アルバイトが登場します。
高梨愛奈は亜紀と同じ大学の後輩で、二年生とのことです。
副店長の市川には「小幡二世」と評される元気の良い子です。
一ヶ月ほど前に大学が主催する就活の説明会で亜紀がOBのひとりとして書店の仕事について話したのを聞いていて、それに感銘を受け、亜紀の働く吉祥寺店でバイトをすることにしました。
二人が話している時、愛奈の目は憧れの先輩である亜紀を見てきらきら輝いていて、それを見て自分に自信を失いかけていた亜紀は肩身が狭くなっていました。
吉祥寺の書店員が集まる飲み会、吉っ読(きっちょむ)は今回も出てきました
これは実在する会で、解説の島田潤一郎さんという人はこの飲み会にほぼ皆勤賞で出席しているとのことです。
亜紀は久しぶりにこの飲み会に行くのですが、盛り上がる周りに溶け込めず疎外感を感じ、もうここに自分の居場所はないんだなと感じていました。
かつては会の主役として充実した時間を過ごしていた亜紀も、母として育児に奔走し仕事から離れているうちに、最新の文芸書の話題などに付いていけなくなっていました。
亜紀自身、夫の伸光に「もう世代交代だわ」とこぼしていて、「1」や「2」の時の活発な亜紀と違い、ちょっと弱気になっていました。
ちなみに夫の伸光は共学館という大手出版社の編集者でコミックを担当しているのですが、今作では突然ライトノベルの編集をやることになりました。
かつては一生コミックの編集でいたいと言って転職もしたため、まさかの展開に亜紀は大丈夫なのかと心配します。
そこで伸光が見せた前向きさは、今作でもかなりの良い場面でした。
「どうせやるなら楽しく」「仕事を楽しくしようと思ったら、楽しくなるように自分で動かなきゃダメだ」という言葉に、自分への自信を失いかけていた亜紀も勇気付けられます
リチャード・ブローティガンの「愛のゆくえ」という本が出てきたのは印象的でした。
これは「ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~」に出てきた本で、「最近ある人気小説で紹介されて、評判になったりもしている」とあってすぐにピンときました^^
この「愛のゆくえ」という本、今作では結構重要な一冊になっています。
今回の物語は、東日本大震災と密接に関わっています。
時系列としては震災から二年半が経ったところです。
理子と沢村が繰り広げた仙台の被災地についての会話も印象的でした。
東松島市図書館というのがあり、そこは津波に遭わなかった場所で、被災直後から市内のほかの図書館や学校の図書室の建て直しのための拠点となるような活動をしているとのことです。
沢村は震災後にこの図書館にボランティアとして駆けつけ、全国から寄贈された本の仕分けや箱詰めなどを手伝っていました。
調べてみたら実在する図書館で、きっと作者の碧野圭さんは現地に足を運んで色々取材したのではないかと思います。
理子は沢村に連れられて東松島市図書館に行ってみたのですが、その帰り道、「政文堂」という本屋に寄りました。
震災直後、この店にも津波が来て、建物は大丈夫だったものの、本は水浸しになったり湿気にやられたりで駄目になってしまいました。
沢村はここを通り掛かり、自分も本屋だから見ていられないと言って復旧を手伝ってくれたとのことです。
最初に登場し、理子を警戒しているのか無愛想な雰囲気だった時の沢村と人物像が随分違うなと思いました。
本当の沢村は素晴らしく良い人物だったようです。
リニューアル・オープンに向けてもお得意様に向けてハガキを200枚も書いて送っていたことが明らかになり、すごく情熱的な人だなと思いました
ちなみにリニューアル・オープン当日に仙台在住の作家がお店にやってきて、今では本屋大賞を取るような人気作家になっているとあったのですが、これは伊坂幸太郎さんのことではないかと思います。
仙台在住で本屋大賞受賞といえば伊坂さんが思い浮かびます。
被災者ビジネスが横行しているというのは嫌な話だなと思いました。
被災者を下請けに使って微々たる手数料を支払い、儲けのほとんどが業者の懐に入るというもので、被災者の支援になると言えば割高でも買う人は少なくないのを利用し、がっぽり儲けるというわけです。
上乗せされた分が被災者に渡るなら良いのですが、悪徳業者だと自分の懐に入れてしまい、実際にそんな業者があったら嫌なものです。
物語の中盤から、理子が吉祥寺店に帰ってきて、ついに理子と亜紀の会話が始まりました。
やはり「1」と「2」でともに戦ってきた二人が揃ったほうが良いなと思います。
育児で勤務時間のシフトなどに制限があり、今後のことを考え珍しく随分弱気になっている亜紀を理子は叱咤激励していました。
やがて、理子の発案で被災地のために「震災三周年フェア」をやろうという話が出てきます。
「やっても無駄」と揚げ足を取る人もいるだろうが、何もしないよりはやったほうが良いというのが理子の考えです。
これにはイベントが好きな亜紀も大賛成。
副店長の反対はありましたが最終的にはやるということで話はまとまり、3月のフェアに向けて動き出すことになりました。
母親としてある決断をした亜紀にとっては、理子とともに臨める最後のイベントでもあります。
もし続編が出た時、新たな道を選んだ亜紀がどんな姿を見せてくれるのか、楽しみです
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