読書日和

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「吉野北高校図書委員会」山本渚

2014-07-12 23:35:05 | 小説


今回ご紹介するのは「吉野北高校図書委員会」(著:山本渚)です。

-----内容-----
図書委員の高校2年生・かずら。
気の合う男友達で委員仲間の大地が、可愛い後輩・あゆみとつきあいだしたことから、彼への微妙な想いに気づいてしまった。
だけどこれは恋ではないと、自分の気持ちにふたをする
一方、そんなかずらへの恋心を抱える、同じく委員仲間の藤枝は……。
地方の高校を舞台に、悩み、揺れ動く図書委員たちを描いた、第3回ダ・ヴィンチ文学賞編集長特別賞受賞作。
シリーズ第1巻。

-----感想-----
書店で文庫本を選んでいた時に目についた一冊です。
明日から「靖国神社 みたままつり」が始まり、私は明日行く予定で、今日のうちに読み切れる小説を探していました。
この作品はページ数的にもお手軽に読める小説で、内容紹介の欄を見ても興味を持ったため、読んでみようと思いました。

作品の舞台になっている吉野北高校は、徳島県徳島市にある進学校です。
そこで図書委員会に所属する生徒たちが物語の中心となります。
主人公は川本かずら。
高校二年生で、図書委員会では副委員長を務めています。
委員長は岸本一(ワンちゃん)、もう一人の副委員長に武市大地、書記に藤枝高広で、みんな二年生です。
もう一人二年生には西川行夫というものすごいオタクキャラがいます。
一年生には上森あゆみという子がいて、この子と武市大地は付き合っています。
登場人物たちはみんな大阪弁と博多弁を組み合わせたような言葉を使っていて、これが徳島の言葉なんだなと思いました。
高知県の土佐弁とも少し違う印象を受けました。

ちなみに委員長のワンちゃん(名前が一で、英語だとワンと読むことから、この渾名になったようです)と副委員長の武市大地は特別進学クラスに属しています。
吉野北高校は一学年十四クラスで構成されていて、どの学年も一組と七組が特別進学クラスになっているとのことです。

大地があゆみと付き合い始めたと聞いて、川本かずらはショックを受けました。
大地から「付き合い始めた」と打ち明けられた後、
あのとき、本当に心の奥底から、全力で「よかったなあ」って言ってあげられなかった。必要以上に動揺してしまってあの場面をなんとなく終わらせてしまったことが悲しくなる。
と振り返っていました。
かずらと大地はとても仲良しで息もピッタリ合うのですが、付き合ってはいません。
かずらは大地とあゆみが付き合っていると聞いてから湧いてきている感情が何なのか、自分でもよく分かっていませんでした。
それは嫉妬なのか、大地のことが好きなのか…

藤枝高広はかずらにちょっかいばかり出してきます。
しょっちゅう憎まれ口を叩き、かずらと軽い口喧嘩になることが多いです。
そんな二人が、吉野川の土手で話す場面がありました。
マツヨイグサという黄色い小さな花が咲く土手で、かずらが
「『待てど、くらせど、来ぬ人を、宵待草のやるせなさ』……ってね」
と言う場面が印象的でした。
竹久夢二の『宵待草』という作品で、宵待草はマツヨイグサのことを言っているらしいです。

藤枝はかずらが大地のことを好きなのではと思っていて、この時にそれをズバリ聞いていました。
ただそこでかずらは以外にも否定。
自分の大地への感情は、恋愛の「好き」とは違うのでは、と本人は考えているようでした。
藤枝は憎まれ口ばかり叩いているわりにかずらのことが好きなので、この場面では内心チャンスありと思ったのだろうなと思います。

ちなみにこの作品は4つの章に分かれていて、1つ目がかずらが語りの「宵待ち草」、2つ目が藤枝が語りの「ワームホール」、3つ目がかずらが語りの「初風」、4つ目があゆみが語りの「あおぞら」です。
藤枝の語りになると、時期も6月から10月に進みました。
まず目を惹いたのがワンちゃんと藤枝の出会いで、1年の2学期末までほとんど不登校状態だった藤枝が学校に来るようになったのは、ワンちゃんの存在が大きかったようです。
そしてワンちゃんつながりで図書館に行くようになり、図書委員のみんなと話すのが楽しくなり、毎日学校に来るようになって進級することが出来ました。
藤枝が語りの章では、藤枝の想いがかずらに届くかどうかが最大の注目点でした。

3章の「初風」では、以下の言葉が印象的でした。
時間は勝手に流れていくし、一年後の自分なんて誰にも分からない。けれど、時間は流れていくけれど、変わらないものもきっとある。それを信じられる自分でいたいと思った。
変わらないものは、自分の性格の根源的な部分とか、何かに臨むときの自分の信念とか、そういったものではないかと思います。

4章の「あおぞら」はあゆみの視点での物語りで、あゆみの視点から見たかずらのことなどが書かれています。
時系列は再び6月頃に戻っていました。
かずらは大好きで尊敬する先輩だけれど、自分よりも圧倒的に武市大地との息がピッタリな様子を見ると、複雑な心境になるようです。
恋人の自分より相性が抜群な人を目の当たりにして、胸がざわついていました。

あとこの章では、かずらがあゆみに雨について興味深いことを語っていました。
「雨の日に図書館で本読むの、すごいすき。いつも以上に静かで、でもばたばたって雨の音は聞こえてきて、空気がしっとりしとって」
私は雨自体はあまり好きではありませんが、雨の日に読むなら島本理生さんの「ナラタージュ」のような小説だなと思います。
雨の日に真価を発揮するようなタイプの小説ってあると思います。

そしてこの作品は「シリーズ第1巻」なので、まだ続編があるということです。
面白い作品だったので続編もぜひ読んでみたいと思います


※「吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「吉野北高校図書委員会3 トモダチと恋ゴコロ」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。

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「光待つ場所へ」辻村深月

2014-07-12 11:36:11 | 小説
今回ご紹介するのは「光待つ場所へ」(著:辻村深月)です。

-----内容-----
大学二年の春。
清水あやめには自信があった。
世界を見るには感性という武器がいる。
自分にはそれがある。
最初の課題で描いた燃えるような桜並木っも自分以上に表現できる学生はいないと思っていた。
彼の作品を見るまでは(「しあわせのこみち」)。
文庫書下ろし一編を含む扉の開く瞬間を描いた、五編の短編集。

-----感想-----
この作品はスピンオフとのことです。
物語は以下によって構成されています。

冷たい光の通学路Ⅰ
しあわせのこみち
アスファルト
チハラトーコの物語
樹氷の街
冷たい光の通学路Ⅱ

「冷たい校舎の時は止まる」「スロウハイツの神様」「ぼくのメジャースプーン」「名前探しの放課後」「凍りのくじら」からのスピンオフとなっています。
このうち私が読んだことがあるのは「ぼくのメジャースプーン」「凍りのくじら」の二作品です。
ちなみにチハラトーコの物語に赤羽環(たまき)という脚本家が出てくるのですが、この人は「島はぼくらと」にも登場していました。
辻村作品は作品同士が少しずつリンクしていると聞きますが、ほんとにそうだなと思いました。

私が読んでいて一番惹き込まれたのは「しあわせのこみち」でした。
主人公は清水あやめ、T大学文学部二年生。
『造形表現』という科目の初回の説明で、教授から受講条件として「絵画でも写真でも映像でも、塑像(そぞう)でもなんでもいい。作文だって、詩だっていい。世界を表現してみせろ。才能を見せてみろ」と課題が出されます。
清水あやめは大学の桜並木の絵を描き、自分の書いた絵が受講者の中で一番の出来だろうと確信。
しかし、教授から最初に「抜きん出ている作品」として紹介されたのは、法学部の田辺颯也(そうや)のビデオ作品。

そんなバカな。この大学には文学部はあるものの、芸術学部はない。専門的な勉強を積んでいる人間が、私の他にいるとは思えなかった。

清水あやめは随分と動揺していました。
また清水あやめには自惚れたところもあって、
世界を強く見るのには、能力がいる。感性という武器がいる。そしてその武器を持っている人間は選ばれた一握りの人間たちだけだろうと思っていた。
とも語っています。
それでいて、自分に自信を持てていないところもあって、
絵が全てだと思えない。昔からそうだった。美大に行く覚悟がなかったのと同じように、私には何もない。絵画の技術が向上した今も。
とも語っていて、何だかややこしい人だなと思います
自分でもそれが分かっているようで、自分のことを「イタイひと」と評していました。
美大を舞台にしての、同格の相手との戦いならともかく、圧勝だと思っていた舞台での敗戦は思いのほかショックだったようで、その気持ちは何となく分かります。

私は何になりたいのだろう。どこへ行きたいのだろう。
これもよく分かる気持ちです。
自分に自信がなくなったり目標を見失ったりするとこんな気持ちになります。

ただ清水あやめが絵が好きなのは本当で、内藤絵画教室という美大生も通う絵画の教室に通っています。
そこそこ仲が良い高島翔子という都内にある美大に通う二年生と話をしながら、清水あやめは美大についての思いを述懐します。
高校時代、美大に進学するかT大を受験するかで迷った経験のある私にとって、美大というのは覚悟の必要な場所だった。その道で生きていく覚悟がなければ、選ぶことのできない進路。

あと印象的だったのが、田辺颯也との以下の会話です。
「清水さんは?鷹野にちょっと聞いたけど、絵描いてるんだって?」
「はい、一応」
愛想笑いを浮かべながら、自分で無意識につけてしまった「一応」が後から胸にこたえた。

ふいに口をついて出た「一応」という言葉に、自信のなさが現れていると思いました。
ちなみに鷹野博嗣(ひろし)という人と清水あやめは高校の同級生で、辻村深月さんのデビュー作「冷たい校舎の時は止まる」に登場していたようです。

物語の途中からは田辺颯也との会話がメインになるのですが、その中で印象的だったのは以下の言葉でした。
「努力もしないで、何もしないでただ地位だけ欲しがったり、いつか自分が何者かになれると確信したり、その逆で始めてもいないのに諦めてる人たちが世の中にはたくさんいる。
「いつか自分が何者かになれると確信したり」は、10代の頃はよくそんなことを思っていたなと思います。
そして「始めてもいないのに諦めてる」は今でもよくあって、たしかにやってみなければ分からないと思います。
先入観で可能性を閉ざしてしまうのは、ちょっと勿体無いかも知れません。

もうひとつ印象的だったのが以下の言葉です。
「友達って定義にはいろいろあるだろうけど、友達が成功したときにそれを素直に喜べるのが、俺にとっての友達だ」
これはすごく心の深くに染み込んでくる言葉でした。
友達が成功して輝いているのを見ると、やっぱり焦る気持ちがあるのです。
「関係が浅い友人同士ならきっと何でもないことだけど、関係が深くなればなるほど難しい」とも語っていて、なるほどなと思いました。
素直に喜べる人でありたいと、思います。

そしてラストで田辺颯也が清水あやめに語った「最優秀賞、受賞おめでとう」の言葉。
田辺颯也は素直に「おめでとう」と言ってくれました。
自分で自分を天才というほど、ものすごく傲慢でプライドの高い部分のあるこの人のこの言葉は、圧倒的な重みを持っていました。
「素直に喜ぶのは関係が深くなるほど難しい」と言っていた言葉は、この場面へとつながっていきます。


もうひとつ、「樹氷の街」についてもご紹介します。
この作品では「凍りのくじら」に出てきた松永郁也が大活躍します。
同じく「凍りのくじら」で主人公だった芦沢理帆子や、特殊な環境の郁也の家で家政婦をする多恵さんも登場。
「凍りのくじら」と強くリンクしていました。

「樹氷の街」は中学三年生たちの物語。
合唱コンクールに向けて課題曲「大地讃頌(さんしょう)」と自由曲「樹氷の街」の練習をしています。
しかしピアノ伴奏の倉田梢の演奏がなかなか上達せず、仲の悪い女子グループからは不穏な空気が漂っています。
そこで指揮を担当する天木は松永郁也にピアノの伴奏を代わってもらうことを考えます。
松永郁也は著名な指揮者である松永純也の息子で、天才的なピアノの技量を持っています。
そして郁也にピアノを教えてもらおうと倉田梢に提案した時、この人は意地で「いい」と言ってしまっていました。
この意地で拒否してしまう心境、よく分かります。
素直に「それでお願い」と言うのは意外と難しいです。
「課題曲は倉田梢にそのままやってもらうが、自由曲は松永郁也に頼むことにもう決めた」と告げられた時のプライドを粉砕された取り乱しようもまた印象的でした。
この人はもともと課題曲の「大地讃頌」に苦戦しているくらいで、それを遥かに上回る難易度の「樹氷の街」を弾くなど到底無理だったのだから、松永郁也に代わってもらえて良かったはずなのに、心境的にはそうはならないんですよね。
問答無用で自分が降ろされたことにひどくプライドを傷つけられたようで、激怒して涙を流しながら天木のもとを去っていきました。

しかし倉田梢が偉かったのはそこでは終わらなかったことです。
きちんと自分のピアノの現実を受け止め、不貞腐れずに前を向き、松永郁也に課題曲の面倒を見てもらうことを了承しました。
これはまさしく青春物語だなと思います
郁也の成長した姿も見ることが出来たし、すごく良い物語で楽しめました


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