今回ご紹介するのは「吉野北高校図書委員会」(著:山本渚)です。
-----内容-----
図書委員の高校2年生・かずら。
気の合う男友達で委員仲間の大地が、可愛い後輩・あゆみとつきあいだしたことから、彼への微妙な想いに気づいてしまった。
だけどこれは恋ではないと、自分の気持ちにふたをする
一方、そんなかずらへの恋心を抱える、同じく委員仲間の藤枝は……。
地方の高校を舞台に、悩み、揺れ動く図書委員たちを描いた、第3回ダ・ヴィンチ文学賞編集長特別賞受賞作。
シリーズ第1巻。
-----感想-----
書店で文庫本を選んでいた時に目についた一冊です。
明日から「靖国神社 みたままつり」が始まり、私は明日行く予定で、今日のうちに読み切れる小説を探していました。
この作品はページ数的にもお手軽に読める小説で、内容紹介の欄を見ても興味を持ったため、読んでみようと思いました。
作品の舞台になっている吉野北高校は、徳島県徳島市にある進学校です。
そこで図書委員会に所属する生徒たちが物語の中心となります。
主人公は川本かずら。
高校二年生で、図書委員会では副委員長を務めています。
委員長は岸本一(ワンちゃん)、もう一人の副委員長に武市大地、書記に藤枝高広で、みんな二年生です。
もう一人二年生には西川行夫というものすごいオタクキャラがいます。
一年生には上森あゆみという子がいて、この子と武市大地は付き合っています。
登場人物たちはみんな大阪弁と博多弁を組み合わせたような言葉を使っていて、これが徳島の言葉なんだなと思いました。
高知県の土佐弁とも少し違う印象を受けました。
ちなみに委員長のワンちゃん(名前が一で、英語だとワンと読むことから、この渾名になったようです)と副委員長の武市大地は特別進学クラスに属しています。
吉野北高校は一学年十四クラスで構成されていて、どの学年も一組と七組が特別進学クラスになっているとのことです。
大地があゆみと付き合い始めたと聞いて、川本かずらはショックを受けました。
大地から「付き合い始めた」と打ち明けられた後、
あのとき、本当に心の奥底から、全力で「よかったなあ」って言ってあげられなかった。必要以上に動揺してしまってあの場面をなんとなく終わらせてしまったことが悲しくなる。
と振り返っていました。
かずらと大地はとても仲良しで息もピッタリ合うのですが、付き合ってはいません。
かずらは大地とあゆみが付き合っていると聞いてから湧いてきている感情が何なのか、自分でもよく分かっていませんでした。
それは嫉妬なのか、大地のことが好きなのか…
藤枝高広はかずらにちょっかいばかり出してきます。
しょっちゅう憎まれ口を叩き、かずらと軽い口喧嘩になることが多いです。
そんな二人が、吉野川の土手で話す場面がありました。
マツヨイグサという黄色い小さな花が咲く土手で、かずらが
「『待てど、くらせど、来ぬ人を、宵待草のやるせなさ』……ってね」
と言う場面が印象的でした。
竹久夢二の『宵待草』という作品で、宵待草はマツヨイグサのことを言っているらしいです。
藤枝はかずらが大地のことを好きなのではと思っていて、この時にそれをズバリ聞いていました。
ただそこでかずらは以外にも否定。
自分の大地への感情は、恋愛の「好き」とは違うのでは、と本人は考えているようでした。
藤枝は憎まれ口ばかり叩いているわりにかずらのことが好きなので、この場面では内心チャンスありと思ったのだろうなと思います。
ちなみにこの作品は4つの章に分かれていて、1つ目がかずらが語りの「宵待ち草」、2つ目が藤枝が語りの「ワームホール」、3つ目がかずらが語りの「初風」、4つ目があゆみが語りの「あおぞら」です。
藤枝の語りになると、時期も6月から10月に進みました。
まず目を惹いたのがワンちゃんと藤枝の出会いで、1年の2学期末までほとんど不登校状態だった藤枝が学校に来るようになったのは、ワンちゃんの存在が大きかったようです。
そしてワンちゃんつながりで図書館に行くようになり、図書委員のみんなと話すのが楽しくなり、毎日学校に来るようになって進級することが出来ました。
藤枝が語りの章では、藤枝の想いがかずらに届くかどうかが最大の注目点でした。
3章の「初風」では、以下の言葉が印象的でした。
時間は勝手に流れていくし、一年後の自分なんて誰にも分からない。けれど、時間は流れていくけれど、変わらないものもきっとある。それを信じられる自分でいたいと思った。
変わらないものは、自分の性格の根源的な部分とか、何かに臨むときの自分の信念とか、そういったものではないかと思います。
4章の「あおぞら」はあゆみの視点での物語りで、あゆみの視点から見たかずらのことなどが書かれています。
時系列は再び6月頃に戻っていました。
かずらは大好きで尊敬する先輩だけれど、自分よりも圧倒的に武市大地との息がピッタリな様子を見ると、複雑な心境になるようです。
恋人の自分より相性が抜群な人を目の当たりにして、胸がざわついていました。
あとこの章では、かずらがあゆみに雨について興味深いことを語っていました。
「雨の日に図書館で本読むの、すごいすき。いつも以上に静かで、でもばたばたって雨の音は聞こえてきて、空気がしっとりしとって」
私は雨自体はあまり好きではありませんが、雨の日に読むなら島本理生さんの「ナラタージュ」のような小説だなと思います。
雨の日に真価を発揮するようなタイプの小説ってあると思います。
そしてこの作品は「シリーズ第1巻」なので、まだ続編があるということです。
面白い作品だったので続編もぜひ読んでみたいと思います
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