読書日和

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「憎悪のパレード」石田衣良

2014-07-27 23:36:17 | 小説
今回ご紹介するのは「憎悪のパレード」(著:石田衣良)です。

-----内容-----
死ね!殺せ!人を刺す言葉のナイフはもう捨てよう。
池袋チャイナタウンに吹き荒れる、ヘイトスピーチの嵐。
本当の敵は、一体どこにいる?
日本の今がここにある。
3年半ぶりの、シリーズ第11弾。

-----感想-----
3年半ぶりとなる、池袋ウエストゲートパークシリーズの第11弾です。
池袋西一番街にある果物屋の息子で、トラブルシューターでもある真島誠の日常で起こる様々なトラブルを綴った物語。
今作は以下の四編で構成されています。

北口スモークタワー
ギャンブラーズ・ゴールド
西池袋ノマドトラップ
憎悪のパレード

今作では石田衣良さん、「憎悪のパレード」という作品で随分と強力に政治主張を出してきたなと思います。
ひとまず順番に各作品について触れていきます。

「北口スモークタワー」は、脱法ドラッグを巡る話。
池袋駅の北口に「スモークタワー」と呼ばれる、脱法ドラッグ(今月22日に名称が「危険ドラッグ」に変更)の総合百貨店となっているペンシルビルがあります。
倉科魅音という12歳の子がそのビルに放火。
そこをGボーイズのメンバーがたまたま通りかかったので火を消し、魅音をGボーイズのキング・安藤崇のところに連れていき、崇が魅音を連れて誠のところにやってきます。
この子の話を聞いてやれとのことでした。
話を聞くと、魅音は脱法ハーブを吸って暴走運転をしていた車によって祖母が重症を負い、脱法ドラッグの巣窟たるスモークタワーに強い恨みを持っていました。
止めてもまた火をつけにいくと魅音は言います。

そしてGボーイズからの正式な依頼として、スモークタワーを街から追い出すことになります。
「教授」と呼ばれる脱法ドラッグに詳しい人物とともに、誠はスモークタワーに潜入。
当然のように脱法ドラッグを売っているすごい光景に衝撃を受けていました。

「どうして麻薬を堂々と売っているのに、警察も手をだせないんだ」
「ITと同じだ。あまりに新しくて、法律が追いつかない。脱法ハーブというのは麻薬じゃない麻薬で、これまでの法律のカテゴリーにないんだ。法律にない犯罪は裁けない」

この会話が印象的でした。
ちなみに脱法ドラッグの中では脱法ハーブが一番有名らしく、たしかにニュースでもその名をよく聞くなと思います。
脱法ドラッグの巣窟と化したスモークタワーを壊滅させるべく、誠は策を練ります。


「ギャンブラーズ・ゴールド」は、パチンコの話。
冒頭で
「そいつはギャンブルではないギャンブルだ」
「一年間に20兆円を超える売上を記録するグレイゾーンの王さまだ」
「トヨタ自動車の売上も、同じく20兆円くらい。この遊技は日本最大規模の産業のひとつといって間違いない」
と紹介されていたのが印象的でした。
グレイゾーンの王さまというのがポイントで、その存在は非常にきな臭くもあります。
ちなみに私はパチンコがあまり好きではありません。

Gボーイズは池袋巣鴨大塚で12軒のパチンコチェーンを展開するジャルディーノ・エンターテインメントから「ゴト師」探しの依頼を受けていました。
ゴト師とはイカサマをして大当たりを連発させる人のことで、ジャルディーノ池袋北口店がゴト師の被害に遭っているようでした。
安藤崇率いるGボーイズが16名で客を装って池袋北口店に張り込み、崇から頼まれて誠も客のふりをして一緒にパチンコを打っていました。

この店で知り合ったのが、三橋行矢(ゆきや)というパチンコ好きの人物。
子どもの頃からギャンブルと一緒に育ったという行矢のパチンコ好きは尋常ではなく、家族よりパチンコのほうが重要という状態で、完全にパチンコ依存症でした。
この物語は前半はゴト師探しがメインで、中盤からは行矢のパチンコ依存症がメインになります。
あと、この物語では
春の数日がひねもすのたりとすぎていった。
という表現がありました。
「ひねもすのたりと」とはどういう意味なのだろうと思い調べてみたら、「終日、ゆったりと」という意味のようです。
それから「北口スモークタワー」と「ギャンブラーズ・ゴールド」の二話続けて誠は子どもから「お父さんみたい」と言われていて、シリーズ最初の頃は10代だった誠も今作では20代後半になり、段々そういう雰囲気になってきたのかなと思いました。


「西池袋ノマドトラップ」は、ノマド(遊牧民)を巡る話。
ノマドとはオフィスがなく、会社に籍も置かない、遊牧民のように移動しながら働く自由なデジタル労働者のことです。
「コワーキング・スペース」というノマドワーカーのための働き場所が池袋にできていて、共同オフィス的なカフェのような店でした。
コワーキング・スペースとは「一緒に働く空間」という意味です。

樋口玲音(れおん)というノマドワーカーが、トラブルを起こしてしまいます。
そのトラブルを起こした相手が非常にまずく、「ツインデビル」と呼ばれる、高梨裕康と友康の凶悪な高梨兄弟です。
池袋ウエストゲートパークの過去の作品にも出てきました。
弟の友康によってコワーキング・スペースが襲撃され、青ざめる玲音。
誠は玲音から話を聞き、Gボーイズとともに高梨兄弟を叩き潰す作戦を考えます。
Gボーイズのキング・安藤崇も池袋で好き勝手暴れている高梨兄弟には怒っていたようで、二度と池袋に近付いてこないように叩き潰そうとやる気満々でした。


「憎悪のパレード」は、ヘイトスピーチを巡る話。
ヘイトスピーチとは憎悪表現のことで、デモなどで「死ね!殺せ!」と過激な言葉で罵倒中傷するようなことを指します。
私が知る限り最もこのヘイトスピーチという言葉が合うのは韓国が行っている凄まじい反日デモで、あれは狂気の沙汰だと思います。
中国もしばしば反日デモを行っていて、現地にある日本のお店が襲撃されることもあり、ヘイトスピーチどころか露骨に犯罪に及んでいましたね。

「憎悪のパレード」の作中、池袋の西口と北口のチャイナタウンは反中デモに揺れていました。
「中国人を祖国日本から徹底排除する市民の会」(略称「中排会」)という団体が池袋のチャイナタウンに来て、反中デモを行っています。
この「中排会」は、現実世界での「在日特権を許さない市民の会」(略称「在特会」)をモデルにしていると思われます。
「在日特権を許さない市民の会(在特会)」も何度か池袋で反中デモを行っているので、石田衣良さんはこれを小説の題材にしたようです。

「中排会」のデモは
「チャイナタウンの中国人を殲滅しにいくぞ」
「いくぞー!」
「ゴキブリとー、シナ人はー、一匹残らずー、駆除しなければー、いけませんー」
「シナ人にー、死をー」
と、非常に過激なもので、道行く人が顔を背けて遠ざかっていっていました。
そしてこの「中排会」と対立する団体もあって、「ヘイトスピーチと民族差別を許さない市民の会」(略称「へ民会」)と言います。
「へ民会」は「中排会」のデモに通りを挟んでピタリと横についていて、「中排会」のシュプレヒコールに合わせて、
「中国人と、ともに生きよう」
「生きようー」
とカウンターのようなシュプレヒコールを上げていました。
なので両者のシュプレヒコールが混ざり合い、
「死ねー」
「生きようー」
「死ねー」
「生きようー」
とわけのわからないことになっていました

さらには「へ民会」から分派した「レッドネックス」という過激派暴力団体も出てきて、「へ民会」と合わせて、これらは現実世界での「レイシストしばき隊」をモデルにしていると思われます。
「レイシストしばき隊」は「在日特権を許さない市民の会(在特会)」のデモにしばしばカウンターとしてぶつかっていっていて、名前のとおり暴力でデモ参加者をしばくことを厭わない過激派集団のため、つい先日も8人もの逮捕者を出して騒ぎになっていました。

作中で誠とGボーイズは「へ民会」の代表である久野俊樹から、「レッドネックスが中排会に暴力を振るうとこちらの印象が悪くなるので、止めてくれ」と依頼を受けます。
誠は市民団体同士の対立に巻き込まれて、守りたくもない「中排会」を守ることになって、うんざりとしていました。
そして物語は単なる市民団体同士の対立には留まらず、池袋北口の再開発、ビルの地上げ、そこに流れ込む中国マネーが絡む複雑な展開を見せます。
「中排会」にもある目的を持って潜り込んで暗躍していた人物がいて、なかなか面白い物語でした。

ちなみに、この物語で違和感を持ったのが、中国の尖閣諸島侵略のことを指して、「岩だらけの小島でもめようが、経済成長の先輩としてもうすこし余裕を持ったほうがいい」という内容のことを誠が語っていたこと。
これはそのまま石田衣良さんの考えでもあると思います。
この認識には驚きました。
岩だらけの小島と大したことではなさそうに言っていますが、万が一尖閣諸島が陥落したら、何が起きるか分かっているのでしょうか。
かの覇権主義の国がそこで止まるとでも思っているのでしょうか。
止まるわけがないですし、次は沖縄本島が危険に晒されることになります。
そしてこの話全体を通して、そういった問題から目を反らし、よくテレビのコメンテーターが言うような偽りの平和主義論(とにかくこちらだけがひたすら我慢して、仲良くしましょう)に持っていこうとしていたのが残念でした。
中国側の暴挙には触れないようにし、無理やり「仲良く」に持っていくのは論理構成に無理があります。
残念ながら中国という国は韓国と同じく常識が通用するような相手ではないですし、こちらだけが無理やり仲良くしようとしても、仲良くできるような相手ではありません。
この部分は「とにかく何をされても文句を言わず仲良く。これに反発する声は全て右傾化とみなす」と考えていそうな石田衣良さんと、「クレーマー相手に無理に仲良くするより、アジアには他に良い国がいくつもあるのだからそちらと付き合い、中国とは距離を置いたほうが良い」と考える私とでは、だいぶ考えが違うだろうなと思います。

石田衣良さんの考えが強く滲み出ている、なかなか興味深い話でした。


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