読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

靖国神社 みたままつり2014 寄せられた言の葉・絵画 その2

2014-07-15 21:23:56 | フォトギャラリー
※「靖国神社 みたままつり2014 寄せられた言の葉・絵画 その1」をご覧になる方はこちらをどうぞ。

というわけで、「寄せられた言の葉・絵画」のその2です。
昨年と同じくその2では絵画が多く登場します。
非常に流麗で印象的なものが多いのでじっくり楽しんでみてください
写真は全てクリックで拡大されます。


----- 靖国神社 みたままつり2014 寄せられた言の葉・絵画 その2 -----


アヤメの花。
画家・保井梅香さん。


どこかの湾からの眺めですね。
画家・木本重利さん。


たくさんのスズメたち。
画家・井上真澄さん。


朝顔。
画家・鎌田万里子さん。


「四季のある 祖国に生まれ 若柴かせ」
飯島タイ子さん。
「春子の句」とあるので、俳人・飯島晴子さんの句かも知れません。


画家・一條雅香さん。


黒田サチ子さん。


「東京だヨ おっ母さん
やさしかった兄さんが
田舎の話を聞きたいと
桜の下でさぞかし待つだろおっ母さん
あれがあれが九段坂
逢ったら泣くでしょ兄さんも」
古茂田杏子さん。

歌手・島倉千代子さんの「東京だョおっ母さん」より。
戦後に発表されたこの歌、150万枚を売り上げる大ヒットだったのですが、歌詞の「九段坂」が軍国主義的だという理由で、NHKではこの2番の歌詞が全てカットされ、放送して貰えなかったとのことです。
酷い話だと思います。


藤の花と小鳥。
吉田公子さん。


アジサイ。
田山多美代さん。


風にそよぐ竹林。
画家・畑佐祝融さん。


「名にしおわば いざ言とはん みやこ鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」
特別縁故・青木寛子さん。
伊勢物語にて在原業平が詠んだ和歌です。


歯科医師・島本和則さん。


富士山と桜
画家・酒井俊幸さん。


飛び立つカモメ。
画家・鈴木義明さん。


シャルトルのノートルダム大聖堂。
画家・服部正子さん。


特別縁故・一杉昭夫さん。


「新生日本  瓊矛(ぬほこ)もて 国生みはげむ これの世を 護りたまへよ 杜(もり)の神々」
戦友・柳澤喜三郎さん。
瓊矛とは日本神話において伊弉諾(イザナギ)と伊弉冉(イザナミ)の二神が国生みに用いたという玉で飾った矛(あまのさかほこ)です。


『謹みて「安らかにおねむり下さい」とお祈り申し上げます。』
画家・阿部風木子さん。


「負けじ魂」
書家・牧野真治さん。


「美しいものは 永遠のよろこび」
画家・柳瀬弘子さん。


靖国神社の能楽堂。
画家・後藤真由美さん。


枝垂桜と鶴。
画家・柴田貢代さん。
すごい美しさです


「経世済民(けいせいさいみん)」
経済評論家・渡邉哲也さん。
世の中をよく治めて人々を苦しみから救うという意味です。


画家・阿部毬子さん。


画家・高木多美子さん。


画家・坂口芳秋さん。


「北国晩冬日本海 潮風暖炉之夕暮れ」
画家・一杉早苗さん。


画家・永江一博さん。


画家・水上玲さん。


画家・小濱綸津さん。


「我が故郷の大分県中津城」
画家・原田重穂さん。


「特攻の 血涙凝りし ハイビスカス」
画家・青木孝さん。
この人達の奮戦がなかったら、今頃日本という国は植民地になって消滅していたかも知れません。
靖国神社でゆっくり休んで、そして毎年30万人が訪れる「みたままつり」では祭りの華やぎを大いに楽しんでほしいと思います。


画家・後藤芳世さん。


画家・産形美智子さん。


「しろかねも 金(こがね)も玉も何にせむ まされるたから 子に及(し)かめやも」
画家・塩澤烈子さん。
万葉集の山上憶良より。


「人生は 美て(で)あり 愛て(で)あり」
崇敬奉賛会会長・扇千景さん。
読める方がいましたらご教授よろしくお願いします。


「歩くことかなわず 帰りし傷兵らを 母宮(ははみや)と庭々 まねきし日は 遠し」
元皇太后官女官長・北白川祥子さん。


「(北白川宮)永久王 御詠
すめらきの 赤子(せきし)ひきいる 長として 駒をも吾子(あこ)と いつくしみなん」
崇敬者総代・島津肇子さん。



国際オリンピック応援団長・山田直稔さん。


漫画家・小松直之さん。


「生きて生きて 泣いて笑って 役者道」
俳優・浜木綿子さん。


「一本刀土俵入り 
しがねえ姿の 横綱の 土俵入りでござんす」
俳優・浅香光代さん。
長谷川伸の戯曲『一本刀土俵入』から来ているのかなと思います。


音楽家・森田公一さん。


「君や知る 腹の中にて 玉の汗 明日は前足 末は花形」
講談師・室井琴調さん。


「生」
プロレスラー・小橋建太さん。


「忍」
プロレスラー・天龍源一郎さん。


「感謝」
大相撲解説者・舞の海秀平さん。
靖国神社に眠る英霊の方々が日本のために戦ってくれたからこそ、現在の日本があります。
偉大な先人達に、私も感謝します。

というわけで、「その3」へ続きます。
「その3」も楽しみにしていてください

※崩し字で判読が難しいものについては、以下の方々にご教授頂きました。
ありがとうございます。
5枚目、12枚目、36枚目、37枚目、39枚目 ツイッターアカウント「@com_chan」さん。
18枚目 ツイッターアカウント「@s_leaf」さん。


※「靖国神社 みたままつり2014 寄せられた言の葉・絵画 その3」をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「靖国神社 みたままつり2014 寄せられた言の葉・絵画 その4」をご覧になる方はこちらをどうぞ。

※フォトギャラリー館を見る方はこちらをどうぞ。

※横浜別館はこちらをどうぞ。

※3号館はこちらをどうぞ。

靖国神社 みたままつり2014 寄せられた言の葉・絵画 その1

2014-07-13 19:58:51 | フォトギャラリー
靖国神社みたままつりは毎年7月13日~16日の4日間に渡って行われます。
今年は日曜から水曜にかけての開催なので、私は日曜日の今日行ってきました。
10時40分くらいに着いたのですが、午前中なのに結構たくさんの人が来ていて驚きました。
時間が経つにつれ人が増えていき、私が帰る14時30分頃にはかなり賑わってきていました
夜になると圧倒的な人混みになり、身動きが取れないほどの賑わいになります。
※夜の「光の祭典」の様子をご覧になる方はこちらをどうぞ。

そんな中、今年も「靖国神社 みたままつり」に寄せられた言の葉や絵画を見てきました。
「懸雪洞(かけぼんぼり」と言って、境内に色々な人の言の葉や絵画などが展示されています。
たくさん紹介していきますので、ぜひ楽しんでみてください
写真は全てクリックで拡大されます。


----- 靖国神社 みたままつり2014 寄せられた言の葉・絵画 その1 -----


というわけで、順番に境内展示の作品を見て行きます。


「蒼天の彼方 若き微笑」
俳優・伊藤つかささん。


「みんなの心がひとつになりますように」
歌手・俳優・大場久美子さん。
ハートマークが印象的ですね


「心音」
俳優・的場浩司さん。


「笑顔が笑顔を繋ぐ 愛される事が愛する事を誘う 温かい心の花よ 光り輝け」
女優・西舘さをりさん。
西舘さをりさんは昨年の「靖国神社 みたままつり」のパンフレットの人です。
ご覧になる方は「靖国神社 みたままつり2013 寄せられた言の葉・絵画 その1」のリンクをどうぞ。
今年も「懸ぼんぼり」を奉納してくれて嬉しいです


『東南アジアの国々は「本来我々が戦うべきところを日本が戦ってくれた」と先の大戦を感謝してくれています。』
アナウンサー・鈴木史朗さん。
以前書いた「ASEANの旗」が参考になるかと思います。


「英霊の永訣の朝を思ふ」
女優・烏丸せつこさん。


「醯鶏甕裏天(けいけいおうりのてん)」
俳優・石坂浩二さん。
世間を知らないことのたとえです。


「背負はれ ねんねこから覗いた 九段坂を 何故か覚えてる 来る度にその時の 母親に逢える 気がします。もう75年も前の話だ。」
俳優・伊東四朗さん。


「常緑」
音楽家・つのだ☆ひろさん。


「魂」
漫画家・松本零士さん。
右上のひとしずくの涙が印象的です。


「誠」
玩具コレクター・北原照久さん。
ブリキのおもちゃコレクターの第一人者として世界的に知られているとのことです。


「横たわった兵士たちに雨が降り注ぎ風が吹き抜けた。
そこには何事もなかったように。
季節めぐり花の扉がまた開いたら 君よ舞い散る桜のひとひらに
一掬の涙を託してください。」
脚本家・井沢満さん。


「報恩」
宮城県知事・村井嘉浩さん。


「祖国は甦る 脱私即的の志とともに」
株式会社独立総合研究所代表取締役社長・兼主席研究員・青山繁晴さん。
2674年とあるのは、「皇紀」のことです。


「国の大事 富国強兵」
元航空幕僚長・田母神俊雄さん。
富国強兵と書くと朝日新聞、毎日新聞、中国韓国あたりが軍国主義だ右傾化だと騒ぎそうですが
この場合は、私たちの住む豊かな国を守ってくれているのは一体誰なのかを考えてみると良いかと思います。
兵の弱い国は、例外なく衰退するか滅亡します。


「実践躬行(じっせんきゅうこう)」
台湾元総統・李登輝さん。
口先だけではなく身をもって行動せよ、という意味です。


「六分之侠気 四分之熱」
元内閣総理大臣・小泉純一郎さん。


「忠魂義胆」
崇敬者総代・寺島泰三さん。
忠義を重んじ守る心のことという意味です。


「月の出や 手の鳴る方に 誰もゐず(いず)」
俳人・宮坂静生さん。
昔の、誰かの居た頃に思いを馳せているような句ですね


「雪嶺の 発する光 身を正す」
俳人・松村昌弘さん。


「慎みて 秋の七草 手向け南無 尊き使命 貫きし御英霊(きみ)に」
画家・安並美智子さん。


「花は花は花は咲く いつか生まれる君に 花は花は花は咲く いつか恋する君のために」
画家・茂木美津子さん。


画家・池田正明さん。


「心 みたまに捧ぐ」
声優・カシワクラツトムさん。


画家・鈴木麗子さん。


「私たちは憲法を守る 憲法が私たちを守る」
司会者・愛川欽也さん。
これは憲法が私たちの国を守れるものだった場合に成り立つ話ですね。
残念ながら今の憲法九条を盾に「こちらには九条がある。侵略はやめなさい」と言っても、中国の尖閣諸島侵略への野望は止まりません。
一刻も早い憲法九条改正を願います。


アヤメの花。
画家・早川春代さん。


画家・米澤和子さん。


画家・山崎堅司さん。


画家・田中紀以子さん。


画家・小島光春さん。


画家・西野和子さん。


「愛」
亀井三千代さん。


画家・市川武弘さん。
すごく力のある絵ですね


「みやしろの しじまのなかに 身をおけば 国を憂いし 英霊のこえ」
特別縁故・西脇美都絵さん。


画家・佐藤緋呂子さん。


水墨画家・松井香村さん。


「美し国 大和」
崇敬者総代・葛西敏之さん。


「総理に感謝」
崇敬者総代・古河潤之助さん。
安倍晋三首相の靖国神社参拝のことです。
この場所に、来てくれたのです。
私もよく参拝してくれたと思っています。


「鎮魂」
崇敬者総代・阿南惟正さん。


天馬。
画家・柏木美保子さん。


画家・酒井友子さん。


「小さな菜園の 野菜たちの香り 楽しむ食卓の 家族団欒」
特別縁故・相沢きよみさん。
何気ない日常で普段は実感がないかも知れませんが、家族で食卓を囲んで団欒できるのはすごくありがたいことです。


「凪のしらべ 弟橘媛命(おとたちばなひめのみこと)」
音楽家・小宮佐地子さん。


「菜の花の とっぱづれなり 富士の山」
画家・秋山巌さん。
とっぱづれとはいちばん外れ、ずっと端の方という意味で、菜の花が一面に広がっているずっと向こうの端に富士山が見える景色ということです
そしてそれを眺める八咫烏(やたがらす)。


「富士山 世界遺産」
デザイナー・鈴木三知子さん。


「今日は 赤チャン 私がママよ」
画家・鈴木利男さん。
この平和を、守り抜きたいですね

というわけで、「その1」はここまでで、「その2」へと続きます。
「その2」もどうぞお楽しみに

※崩し字や難しい漢字で判読が難しいものについては、以下の方々にご教授頂きました。
ありがとうございます。
7枚目、16枚目 ツイッターアカウント「@com_chan」さん、「@s_leaf」さん。


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「吉野北高校図書委員会」山本渚

2014-07-12 23:35:05 | 小説


今回ご紹介するのは「吉野北高校図書委員会」(著:山本渚)です。

-----内容-----
図書委員の高校2年生・かずら。
気の合う男友達で委員仲間の大地が、可愛い後輩・あゆみとつきあいだしたことから、彼への微妙な想いに気づいてしまった。
だけどこれは恋ではないと、自分の気持ちにふたをする
一方、そんなかずらへの恋心を抱える、同じく委員仲間の藤枝は……。
地方の高校を舞台に、悩み、揺れ動く図書委員たちを描いた、第3回ダ・ヴィンチ文学賞編集長特別賞受賞作。
シリーズ第1巻。

-----感想-----
書店で文庫本を選んでいた時に目についた一冊です。
明日から「靖国神社 みたままつり」が始まり、私は明日行く予定で、今日のうちに読み切れる小説を探していました。
この作品はページ数的にもお手軽に読める小説で、内容紹介の欄を見ても興味を持ったため、読んでみようと思いました。

作品の舞台になっている吉野北高校は、徳島県徳島市にある進学校です。
そこで図書委員会に所属する生徒たちが物語の中心となります。
主人公は川本かずら。
高校二年生で、図書委員会では副委員長を務めています。
委員長は岸本一(ワンちゃん)、もう一人の副委員長に武市大地、書記に藤枝高広で、みんな二年生です。
もう一人二年生には西川行夫というものすごいオタクキャラがいます。
一年生には上森あゆみという子がいて、この子と武市大地は付き合っています。
登場人物たちはみんな大阪弁と博多弁を組み合わせたような言葉を使っていて、これが徳島の言葉なんだなと思いました。
高知県の土佐弁とも少し違う印象を受けました。

ちなみに委員長のワンちゃん(名前が一で、英語だとワンと読むことから、この渾名になったようです)と副委員長の武市大地は特別進学クラスに属しています。
吉野北高校は一学年十四クラスで構成されていて、どの学年も一組と七組が特別進学クラスになっているとのことです。

大地があゆみと付き合い始めたと聞いて、川本かずらはショックを受けました。
大地から「付き合い始めた」と打ち明けられた後、
あのとき、本当に心の奥底から、全力で「よかったなあ」って言ってあげられなかった。必要以上に動揺してしまってあの場面をなんとなく終わらせてしまったことが悲しくなる。
と振り返っていました。
かずらと大地はとても仲良しで息もピッタリ合うのですが、付き合ってはいません。
かずらは大地とあゆみが付き合っていると聞いてから湧いてきている感情が何なのか、自分でもよく分かっていませんでした。
それは嫉妬なのか、大地のことが好きなのか…

藤枝高広はかずらにちょっかいばかり出してきます。
しょっちゅう憎まれ口を叩き、かずらと軽い口喧嘩になることが多いです。
そんな二人が、吉野川の土手で話す場面がありました。
マツヨイグサという黄色い小さな花が咲く土手で、かずらが
「『待てど、くらせど、来ぬ人を、宵待草のやるせなさ』……ってね」
と言う場面が印象的でした。
竹久夢二の『宵待草』という作品で、宵待草はマツヨイグサのことを言っているらしいです。

藤枝はかずらが大地のことを好きなのではと思っていて、この時にそれをズバリ聞いていました。
ただそこでかずらは以外にも否定。
自分の大地への感情は、恋愛の「好き」とは違うのでは、と本人は考えているようでした。
藤枝は憎まれ口ばかり叩いているわりにかずらのことが好きなので、この場面では内心チャンスありと思ったのだろうなと思います。

ちなみにこの作品は4つの章に分かれていて、1つ目がかずらが語りの「宵待ち草」、2つ目が藤枝が語りの「ワームホール」、3つ目がかずらが語りの「初風」、4つ目があゆみが語りの「あおぞら」です。
藤枝の語りになると、時期も6月から10月に進みました。
まず目を惹いたのがワンちゃんと藤枝の出会いで、1年の2学期末までほとんど不登校状態だった藤枝が学校に来るようになったのは、ワンちゃんの存在が大きかったようです。
そしてワンちゃんつながりで図書館に行くようになり、図書委員のみんなと話すのが楽しくなり、毎日学校に来るようになって進級することが出来ました。
藤枝が語りの章では、藤枝の想いがかずらに届くかどうかが最大の注目点でした。

3章の「初風」では、以下の言葉が印象的でした。
時間は勝手に流れていくし、一年後の自分なんて誰にも分からない。けれど、時間は流れていくけれど、変わらないものもきっとある。それを信じられる自分でいたいと思った。
変わらないものは、自分の性格の根源的な部分とか、何かに臨むときの自分の信念とか、そういったものではないかと思います。

4章の「あおぞら」はあゆみの視点での物語りで、あゆみの視点から見たかずらのことなどが書かれています。
時系列は再び6月頃に戻っていました。
かずらは大好きで尊敬する先輩だけれど、自分よりも圧倒的に武市大地との息がピッタリな様子を見ると、複雑な心境になるようです。
恋人の自分より相性が抜群な人を目の当たりにして、胸がざわついていました。

あとこの章では、かずらがあゆみに雨について興味深いことを語っていました。
「雨の日に図書館で本読むの、すごいすき。いつも以上に静かで、でもばたばたって雨の音は聞こえてきて、空気がしっとりしとって」
私は雨自体はあまり好きではありませんが、雨の日に読むなら島本理生さんの「ナラタージュ」のような小説だなと思います。
雨の日に真価を発揮するようなタイプの小説ってあると思います。

そしてこの作品は「シリーズ第1巻」なので、まだ続編があるということです。
面白い作品だったので続編もぜひ読んでみたいと思います


※「吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「吉野北高校図書委員会3 トモダチと恋ゴコロ」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

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「光待つ場所へ」辻村深月

2014-07-12 11:36:11 | 小説
今回ご紹介するのは「光待つ場所へ」(著:辻村深月)です。

-----内容-----
大学二年の春。
清水あやめには自信があった。
世界を見るには感性という武器がいる。
自分にはそれがある。
最初の課題で描いた燃えるような桜並木っも自分以上に表現できる学生はいないと思っていた。
彼の作品を見るまでは(「しあわせのこみち」)。
文庫書下ろし一編を含む扉の開く瞬間を描いた、五編の短編集。

-----感想-----
この作品はスピンオフとのことです。
物語は以下によって構成されています。

冷たい光の通学路Ⅰ
しあわせのこみち
アスファルト
チハラトーコの物語
樹氷の街
冷たい光の通学路Ⅱ

「冷たい校舎の時は止まる」「スロウハイツの神様」「ぼくのメジャースプーン」「名前探しの放課後」「凍りのくじら」からのスピンオフとなっています。
このうち私が読んだことがあるのは「ぼくのメジャースプーン」「凍りのくじら」の二作品です。
ちなみにチハラトーコの物語に赤羽環(たまき)という脚本家が出てくるのですが、この人は「島はぼくらと」にも登場していました。
辻村作品は作品同士が少しずつリンクしていると聞きますが、ほんとにそうだなと思いました。

私が読んでいて一番惹き込まれたのは「しあわせのこみち」でした。
主人公は清水あやめ、T大学文学部二年生。
『造形表現』という科目の初回の説明で、教授から受講条件として「絵画でも写真でも映像でも、塑像(そぞう)でもなんでもいい。作文だって、詩だっていい。世界を表現してみせろ。才能を見せてみろ」と課題が出されます。
清水あやめは大学の桜並木の絵を描き、自分の書いた絵が受講者の中で一番の出来だろうと確信。
しかし、教授から最初に「抜きん出ている作品」として紹介されたのは、法学部の田辺颯也(そうや)のビデオ作品。

そんなバカな。この大学には文学部はあるものの、芸術学部はない。専門的な勉強を積んでいる人間が、私の他にいるとは思えなかった。

清水あやめは随分と動揺していました。
また清水あやめには自惚れたところもあって、
世界を強く見るのには、能力がいる。感性という武器がいる。そしてその武器を持っている人間は選ばれた一握りの人間たちだけだろうと思っていた。
とも語っています。
それでいて、自分に自信を持てていないところもあって、
絵が全てだと思えない。昔からそうだった。美大に行く覚悟がなかったのと同じように、私には何もない。絵画の技術が向上した今も。
とも語っていて、何だかややこしい人だなと思います
自分でもそれが分かっているようで、自分のことを「イタイひと」と評していました。
美大を舞台にしての、同格の相手との戦いならともかく、圧勝だと思っていた舞台での敗戦は思いのほかショックだったようで、その気持ちは何となく分かります。

私は何になりたいのだろう。どこへ行きたいのだろう。
これもよく分かる気持ちです。
自分に自信がなくなったり目標を見失ったりするとこんな気持ちになります。

ただ清水あやめが絵が好きなのは本当で、内藤絵画教室という美大生も通う絵画の教室に通っています。
そこそこ仲が良い高島翔子という都内にある美大に通う二年生と話をしながら、清水あやめは美大についての思いを述懐します。
高校時代、美大に進学するかT大を受験するかで迷った経験のある私にとって、美大というのは覚悟の必要な場所だった。その道で生きていく覚悟がなければ、選ぶことのできない進路。

あと印象的だったのが、田辺颯也との以下の会話です。
「清水さんは?鷹野にちょっと聞いたけど、絵描いてるんだって?」
「はい、一応」
愛想笑いを浮かべながら、自分で無意識につけてしまった「一応」が後から胸にこたえた。

ふいに口をついて出た「一応」という言葉に、自信のなさが現れていると思いました。
ちなみに鷹野博嗣(ひろし)という人と清水あやめは高校の同級生で、辻村深月さんのデビュー作「冷たい校舎の時は止まる」に登場していたようです。

物語の途中からは田辺颯也との会話がメインになるのですが、その中で印象的だったのは以下の言葉でした。
「努力もしないで、何もしないでただ地位だけ欲しがったり、いつか自分が何者かになれると確信したり、その逆で始めてもいないのに諦めてる人たちが世の中にはたくさんいる。
「いつか自分が何者かになれると確信したり」は、10代の頃はよくそんなことを思っていたなと思います。
そして「始めてもいないのに諦めてる」は今でもよくあって、たしかにやってみなければ分からないと思います。
先入観で可能性を閉ざしてしまうのは、ちょっと勿体無いかも知れません。

もうひとつ印象的だったのが以下の言葉です。
「友達って定義にはいろいろあるだろうけど、友達が成功したときにそれを素直に喜べるのが、俺にとっての友達だ」
これはすごく心の深くに染み込んでくる言葉でした。
友達が成功して輝いているのを見ると、やっぱり焦る気持ちがあるのです。
「関係が浅い友人同士ならきっと何でもないことだけど、関係が深くなればなるほど難しい」とも語っていて、なるほどなと思いました。
素直に喜べる人でありたいと、思います。

そしてラストで田辺颯也が清水あやめに語った「最優秀賞、受賞おめでとう」の言葉。
田辺颯也は素直に「おめでとう」と言ってくれました。
自分で自分を天才というほど、ものすごく傲慢でプライドの高い部分のあるこの人のこの言葉は、圧倒的な重みを持っていました。
「素直に喜ぶのは関係が深くなるほど難しい」と言っていた言葉は、この場面へとつながっていきます。


もうひとつ、「樹氷の街」についてもご紹介します。
この作品では「凍りのくじら」に出てきた松永郁也が大活躍します。
同じく「凍りのくじら」で主人公だった芦沢理帆子や、特殊な環境の郁也の家で家政婦をする多恵さんも登場。
「凍りのくじら」と強くリンクしていました。

「樹氷の街」は中学三年生たちの物語。
合唱コンクールに向けて課題曲「大地讃頌(さんしょう)」と自由曲「樹氷の街」の練習をしています。
しかしピアノ伴奏の倉田梢の演奏がなかなか上達せず、仲の悪い女子グループからは不穏な空気が漂っています。
そこで指揮を担当する天木は松永郁也にピアノの伴奏を代わってもらうことを考えます。
松永郁也は著名な指揮者である松永純也の息子で、天才的なピアノの技量を持っています。
そして郁也にピアノを教えてもらおうと倉田梢に提案した時、この人は意地で「いい」と言ってしまっていました。
この意地で拒否してしまう心境、よく分かります。
素直に「それでお願い」と言うのは意外と難しいです。
「課題曲は倉田梢にそのままやってもらうが、自由曲は松永郁也に頼むことにもう決めた」と告げられた時のプライドを粉砕された取り乱しようもまた印象的でした。
この人はもともと課題曲の「大地讃頌」に苦戦しているくらいで、それを遥かに上回る難易度の「樹氷の街」を弾くなど到底無理だったのだから、松永郁也に代わってもらえて良かったはずなのに、心境的にはそうはならないんですよね。
問答無用で自分が降ろされたことにひどくプライドを傷つけられたようで、激怒して涙を流しながら天木のもとを去っていきました。

しかし倉田梢が偉かったのはそこでは終わらなかったことです。
きちんと自分のピアノの現実を受け止め、不貞腐れずに前を向き、松永郁也に課題曲の面倒を見てもらうことを了承しました。
これはまさしく青春物語だなと思います
郁也の成長した姿も見ることが出来たし、すごく良い物語で楽しめました


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「6TEEN」石田衣良 -再読-

2014-07-08 23:59:08 | 小説
今回ご紹介するのは「6TEEN」(著:石田衣良)です。

-----内容-----
『4TEEN』続編ついに刊行!
ぎこちない恋。初めての裏切り。
そして、少しだけリアルさを増してきた未来…。
超高層マンションを見上げる月島の路地で、ぼくたちはこの世界の仕組みを考える。
ダイ、ジュン、ナオト、テツロー ―永遠の青春小説。

-----感想-----
「4TEEN」の続編となります。
「6TEEN」は「4TEEN」の2年後が舞台で、ダイ、ジュン、ナオト、テツローの4人は高校一年生になりました。
今作も東京の月島を舞台に、4人の青春物語が展開されます。

今作も語りはテツロー。
4人の中では最も「普通」な少年です。
物語は以下の10編で構成されています。

おばけ長屋のおばあ
クラインの妖精
ユウナの憂鬱
携帯小説家に出会ったら
メトロガール
ウォーク・イン・ザ・プール
秋の日のベンチ
黒髪の魔女
スイート・セクシー・シックスティーン
16歳の別れ

どの章も最初に意味深な語りがあって、その章で起こることが漠然と示されます。
そして本編に入っていきます。
この構成は「池袋ウエストゲートパーク」のシリーズと同じです。

月島はもんじゃ焼きが有名で、この小説にもよく出てきます。
その中で、「もんじゃ焼きは漢字だと文字焼きと書く」というのは今まで意識したことがなく、新鮮でした。
お金がない時は具が何も入っていない「素もんじゃ」で、文字焼きの名のとおり鉄板に自分たちの名前や好きなアイドルの名前を書いたりして遊びながら食べているとのことです。
ちなみに4人がよく頼むもんじゃ焼きは「明太子もちチーズ」と「カレーコーンのベビースターラーメン入り」で、何度も登場しているのを読んでいたら私も特に「明太子もちチーズ」のほうを食べてみたくなりました

4人は高校生になり、それぞれ別々の道へと進んでいきました。
テツロー(北川哲郎)は隣町の新富町にある新富高校という都立高校へ。
ジュン(内藤潤)は開城学院という東京で一番の進学校へ。
ナオト(岸田直人)は聖ヨハネ高校という私立のお坊ちゃん学校へ。
ダイ(小野大輔)は早朝から昼ごろまで築地の場外市場にある海産物問屋で働き、昼間は帰って仮眠して、夜はテツローと同じ高校の定時制に行っています。

ナオトはウェルナー症候群(早老症)という病気にかかっていて、普通の人の2倍も3倍も早く年をとってしまいます。
「6TEEN」の今作では一段と白髪が増えていました。
体も疲れやすいため、あまり負担をかけないようにストレートで大学まで行ける私立高校に入ったのでした。
ダイは前作で家族と自分の身に色々なことがあり、昼間は働き、夜は定時制高校に行くという道に進みました。
高校は別々になってもやはりこの4人組は仲良しで、よく一緒に集まっています。

「携帯小説家に出会ったら」では、携帯小説についてのテツローの語りが印象的でした。
「ぼくは携帯小説を読んだことがなかった。なんだか、あのちいさな液晶ディスプレイではメールの文章を読むくらいで十分な気がしていたのだ」
とありました。
私もテツローと同じく、あまり携帯小説を読む気にはならないです。
ただし、高校生の頃は”ファッション”を大事にするので、本の小説を読むのは周りから浮いている気がして避けるかも知れず、何となくお手軽で格好良さげな携帯小説を読むのはあるかも知れない、と思いました。

新富町、月島、佃(つくだ)、八丁堀、新川、箱崎町。このあたりの街は、みな細かな運河で結ばれている。
すごく興味を惹く一文でした。
運河で結ばれているこの辺りの街、一度じっくり散策してみたいです

「さて、どうする。月島はとなりだけど、地下鉄にもどる?」
「こんな天気がいいのに、ひと駅分くらいで地下になんか潜れるかよ。歩いて、帰ろうぜ」
これはよく分かります。
私も天気が良い日はたくさん散歩したくなることがありますし^^

月島はもんじゃ焼きで、神保町は本屋。東京は街がものすごく専門化しているから、おもしろい。
これも良いなと思った一文です。
たしかに楽器の街の御茶ノ水などもありますし、専門化している街がありますね。
神保町には何度も足を運んでいるので分かりますが、完全に「本の街」となっています。

「黒髪の魔女」に出てきた以下の言葉も印象に残りました。
ついてないことや悪い運命は、ただ忘れちゃうのが一番いいのだ。いつまでも覚えていて、傷ついているよりはね。それは確かなことである。
私はわりと引きずりやすいタイプなので、いつまでもあれこれ考えて悩むより気にしないようにするのは大事なことだと感じています。
辛いことがあった時、落ち込んでしまうのは仕方ないとして、大事なのはその後いかに気持ちを立て直すかです。
考えても詮無きことは考えないようにして、忘れてしまえればそれが一番良いです。

作品全体を通してよく出てくるキーワードは隅田川、佃大橋、月島、もんじゃ焼きなど。
この作品を読んでいると私も隅田川沿いを歩いてみたくなりますし、佃大橋を歩いてみたくなりますし、月島のもんじゃ焼き屋にも行ってみたくなります。
昔ながらの下町の雰囲気のある街はやはり面白いなと思います


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「書店ガール3 託された一冊」碧野圭

2014-07-06 18:10:25 | 小説
今回ご紹介するのは「書店ガール3 託された一冊」(著:碧野圭)です。

-----内容-----
「私、亜紀さんみたいになりたい!」
きらきらした目で新人バイトの愛奈に告げられ、困惑する亜紀。
子育てに疲れ、不慣れな経済書担当として失敗を重ね、自信を失いかけていたからだ。
一方、仙台の老舗書店のリニューアルを任された理子は、沢村店長との出会いを通し、被災地の現状を知る。
そんな亜紀と理子が、気持ちを一つにした目標とは!?
書店を舞台としたお仕事エンタテインメント第三弾。
文庫書き下ろし。

-----感想-----
※「書店ガール」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
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小幡亜紀は新興堂書店吉祥寺店に勤め、この4月で30歳になりました。
新興堂書店吉祥寺店はマルシェ吉祥寺というファッションビルの6階と7階にあります。
4月に育児休暇を終えて仕事を再開し、半年が経ったところです。
現在は1歳の光洋を保育園に預け、働くお母さんとして奮闘する日々が続いています。

職場に復帰してから亜紀はビジネス書・資格書・経済書を担当するようになりました。
産休前に亜紀が担当していたのは文芸書でしたが、そこは既に新しく契約社員として入社した尾崎志保に任されていました。
尾崎志保はかつて亜紀や西岡理子とともにペガサス書房で一緒に働いていた仲間でもあります。

今作では亜紀と副店長の市川智紀のギクシャクとした関係が目に付きました。
亜紀は1歳の光洋が熱を出したりすると急に仕事を休まないといけなくなることがあるのですが、そうすると市川智紀に嫌味めいたことを言われます。
口の悪い副店長は亜紀の憂鬱の種になっているようでした。

もう一つ亜紀の憂鬱の種になっているのが、ビジネス書・資格書・経済書の担当。
箱を開けると『会計監査六法』というタイトルが飛び込んできた。ロマンのかけらもないタイトルだ。
と心境を吐露しているように、亜紀は文芸のような楽しさのないビジネス書・資格書・経済書の担当にモチベーションを見出せないでいました。

新興堂書店吉祥寺店の店長を務めるのは、西岡理子。
理子は4月から東日本地区を統括するエリア・マネージャーを兼任することになり、店を空けることが多くなっています。
物語序盤の理子は仙台の櫂文堂(かいぶんどう)書店というお店に行っています。
櫂文堂書店は宮城県の老舗書店で4店舗あり、5月から新興堂書店の傘下に加わりました。
エリアマネージャーである理子は自身が店長を務める吉祥寺店、横浜店、浦安店、新宿店と櫂文堂書店4店舗の合わせて8店舗を統括しています。
理子は櫂文堂書店の本店の店長代理に外商部にいた沢村稔という人を指名。
沢村とともにリニューアル・オープンに向けた準備を行っていました。
しかしこの沢村という人がなかなか警戒心が強く、理子の食事の誘いもあっさり断られたりして、こちらもギクシャクしていました。
櫂文堂書店は新興堂書店に乗っ取られたようなもので、エリア・マネージャーとして来た理子のことも強く警戒しているのだろうと理子は考えていました。

今作では、高梨愛奈(まな)という吉祥寺店に入ったばかりの学生アルバイトが登場します。
高梨愛奈は亜紀と同じ大学の後輩で、二年生とのことです。
副店長の市川には「小幡二世」と評される元気の良い子です。
一ヶ月ほど前に大学が主催する就活の説明会で亜紀がOBのひとりとして書店の仕事について話したのを聞いていて、それに感銘を受け、亜紀の働く吉祥寺店でバイトをすることにしました。
二人が話している時、愛奈の目は憧れの先輩である亜紀を見てきらきら輝いていて、それを見て自分に自信を失いかけていた亜紀は肩身が狭くなっていました。

吉祥寺の書店員が集まる飲み会、吉っ読(きっちょむ)は今回も出てきました
これは実在する会で、解説の島田潤一郎さんという人はこの飲み会にほぼ皆勤賞で出席しているとのことです。
亜紀は久しぶりにこの飲み会に行くのですが、盛り上がる周りに溶け込めず疎外感を感じ、もうここに自分の居場所はないんだなと感じていました。
かつては会の主役として充実した時間を過ごしていた亜紀も、母として育児に奔走し仕事から離れているうちに、最新の文芸書の話題などに付いていけなくなっていました。
亜紀自身、夫の伸光に「もう世代交代だわ」とこぼしていて、「1」や「2」の時の活発な亜紀と違い、ちょっと弱気になっていました。
ちなみに夫の伸光は共学館という大手出版社の編集者でコミックを担当しているのですが、今作では突然ライトノベルの編集をやることになりました。
かつては一生コミックの編集でいたいと言って転職もしたため、まさかの展開に亜紀は大丈夫なのかと心配します。
そこで伸光が見せた前向きさは、今作でもかなりの良い場面でした。
「どうせやるなら楽しく」「仕事を楽しくしようと思ったら、楽しくなるように自分で動かなきゃダメだ」という言葉に、自分への自信を失いかけていた亜紀も勇気付けられます

リチャード・ブローティガンの「愛のゆくえ」という本が出てきたのは印象的でした。
これは「ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~」に出てきた本で、「最近ある人気小説で紹介されて、評判になったりもしている」とあってすぐにピンときました^^
この「愛のゆくえ」という本、今作では結構重要な一冊になっています。

今回の物語は、東日本大震災と密接に関わっています。
時系列としては震災から二年半が経ったところです。
理子と沢村が繰り広げた仙台の被災地についての会話も印象的でした。
東松島市図書館というのがあり、そこは津波に遭わなかった場所で、被災直後から市内のほかの図書館や学校の図書室の建て直しのための拠点となるような活動をしているとのことです。
沢村は震災後にこの図書館にボランティアとして駆けつけ、全国から寄贈された本の仕分けや箱詰めなどを手伝っていました。
調べてみたら実在する図書館で、きっと作者の碧野圭さんは現地に足を運んで色々取材したのではないかと思います。

理子は沢村に連れられて東松島市図書館に行ってみたのですが、その帰り道、「政文堂」という本屋に寄りました。
震災直後、この店にも津波が来て、建物は大丈夫だったものの、本は水浸しになったり湿気にやられたりで駄目になってしまいました。
沢村はここを通り掛かり、自分も本屋だから見ていられないと言って復旧を手伝ってくれたとのことです。
最初に登場し、理子を警戒しているのか無愛想な雰囲気だった時の沢村と人物像が随分違うなと思いました。
本当の沢村は素晴らしく良い人物だったようです。
リニューアル・オープンに向けてもお得意様に向けてハガキを200枚も書いて送っていたことが明らかになり、すごく情熱的な人だなと思いました
ちなみにリニューアル・オープン当日に仙台在住の作家がお店にやってきて、今では本屋大賞を取るような人気作家になっているとあったのですが、これは伊坂幸太郎さんのことではないかと思います。
仙台在住で本屋大賞受賞といえば伊坂さんが思い浮かびます。

被災者ビジネスが横行しているというのは嫌な話だなと思いました。
被災者を下請けに使って微々たる手数料を支払い、儲けのほとんどが業者の懐に入るというもので、被災者の支援になると言えば割高でも買う人は少なくないのを利用し、がっぽり儲けるというわけです。
上乗せされた分が被災者に渡るなら良いのですが、悪徳業者だと自分の懐に入れてしまい、実際にそんな業者があったら嫌なものです。

物語の中盤から、理子が吉祥寺店に帰ってきて、ついに理子と亜紀の会話が始まりました。
やはり「1」と「2」でともに戦ってきた二人が揃ったほうが良いなと思います。
育児で勤務時間のシフトなどに制限があり、今後のことを考え珍しく随分弱気になっている亜紀を理子は叱咤激励していました。

やがて、理子の発案で被災地のために「震災三周年フェア」をやろうという話が出てきます。
「やっても無駄」と揚げ足を取る人もいるだろうが、何もしないよりはやったほうが良いというのが理子の考えです。
これにはイベントが好きな亜紀も大賛成。
副店長の反対はありましたが最終的にはやるということで話はまとまり、3月のフェアに向けて動き出すことになりました。
母親としてある決断をした亜紀にとっては、理子とともに臨める最後のイベントでもあります。
もし続編が出た時、新たな道を選んだ亜紀がどんな姿を見せてくれるのか、楽しみです


※「書店ガール4 パンと就活」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「書店ガール5 ラノベとブンガク」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「書店ガール6 遅れて来た客」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

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子どもは正直

2014-07-05 14:16:50 | ウェブ日記
休日に街を歩いていたら、前方を白のロング丈のサマードレスを着た女性が歩いていました。
太陽の出ていた日で、日差しを浴びてその姿は実に颯爽として見えました

その時、私のすぐ前を歩いていた小さな女の子が、「白いドレスのお姉さん。かわいい~」と声を上げました。
子供は思ったことが口をついて出てしまうんですよね^^
お姉さんもまんざらではなかったのではないかと思います(笑)

またある時は、こんなことがありました。
私が某とんかつ屋で夕御飯を食べていた時のこと
隣のテーブルに、小さな女の子連れの家族が来ていました。
パパさんとママさんが何やら話していました。
小さな女の子はそれを聞いているようでした。
そしておもむろに、小さな子供特有のゆっくりとした口調で「パパって面白いんだね~」と言いました。
それを聞いたパパさん、「えっ、面白い?ハハハ」と戸惑いつつも嬉しそうでした。

子供が示すストレートな反応は気遣いや裏表がない分、時に残酷でもあり、時に楽しくもあります。
妹の子供もまだ生後3ヶ月にも満たないですが、いずれは言葉を話すようにもなるし、私のことも覚えるでしょう。
伯父さんを見てどんな反応を見せてくれるのか、心配でもあり楽しみでもあります

「ペンギン・ハイウェイ」森見登美彦

2014-07-04 23:59:12 | 小説
今回ご紹介するのは「ペンギン・ハイウェイ」(著:森見登美彦)です。

-----内容-----
ぼくはまだ小学校の四年生だが、もう大人に負けないほどいろいろなことを知っている。
毎日きちんとノートを取るし、たくさん本を読むからだ。
ある日、ぼくが住む郊外の街に、突然ペンギンたちが現れた。
このおかしな事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎を研究することにした―。
少年が目にする世界は、毎日無限に広がっていく。
第31回日本SF大賞受賞作。

-----感想-----
森見登美彦さんにしては珍しく、独特な笑える言い回しがない作品です。
「きつねのはなし」もそうでしたし、たまにそういった作品も書くようです。

主人公は「ぼく」ことアオヤマ君。
まだ小学四年生なのですが、すごく大人びた小学生です。
アオヤマ君は日常の気になったことをノートに書くのをライフワークとしていて、本人曰く「日本で一番ノートを書く小学四年生」とのことです
アオヤマ君はそのノートをもとに、これは重要だぞと思ったところは整理して新たにノートにまとめ、「研究」をしています。
「スズキ君帝国」や「プロジェクト・アマゾン」「お姉さん」「妹わがまま記録」など、研究内容はたくさんあるようです。

ある日、アオヤマ君たちが住む街に、突然ペンギンたちが現れる事件が起こります
しかも一度ならず、何度も。
アオヤマ君はノートに「ペンギン・ハイウェイ」という項目を作り、このペンギン事件の研究を始めます。
ペンギンたちが海から陸に上がるときに決まってたどるルートを「ペンギン・ハイウェイ」と呼ぶところから、アオヤマ君はこの研究を「ペンギン・ハイウェイ研究」と名付けました。

アオヤマ君は通っている歯科医院の「お姉さん」と仲良しです。
よく「海辺のカフェ」でチェスをしたりしています。
しかもどうやら、突然現れたペンギンたちは、このお姉さんが出現させたようなのです。
お姉さんが空に向かって投げたコーラの缶が空中でペンギンに変身するという、驚くべき現象が起きます。
本人にもなぜそんなことができるのか分からないらしく、アオヤマ君に「この謎を解いてごらん。どうだ、君にはできるか」と言ってきて、アオヤマ君はお姉さんの謎の力の研究も始めました。

アオヤマ君にはウチダ君という共同研究をする友達がいます。
水路を辿っていって、どこから水が流れてくるのか、水源を突き止める「プロジェクト・アマゾン」を一緒にやっていたりします。
ちなみにクラスには「スズキ君帝国皇帝」のスズキ君という子がいて、ドラえもんのジャイアンみたいにガキ大将として君臨していて、アオヤマ君やウチダ君はよく狙われていました。
しかしアオヤマ君は超理論派で淡々と理詰めで言い返すタイプなので、毎回スズキ君は言い負かされ、激怒して最後は力技で暴れてアオヤマ君をやっつけようとしていました

クラスにはハマモトさんという子もいて、アオヤマ君、ウチダ君と3人で<海>の共同研究を始めます。
<海>はハマモトさんが見つけて研究していた謎の物体で、森を抜けた先にある草原で、直径5mくらいの透明の球体が地上から30cmほど浮かんで静止しているのです。
球体の表面はボコボコ動いて活動したり、3人が球体内部の調査のために送り込んだ「探査船」を一瞬で消失させてしまったりと、危険な雰囲気を漂わせています。
<海>には「拡大期」と「縮小期」があり、ハマモトさんによれば拡大期が続くとある日突然「プロミネンス」という、大砲みたいに小さな<海>が飛び出す現象が起きるとのこと。
非常に謎めいた物体です。

お姉さんは3人が<海>を共同研究している草原にも現れたし、頻繁に登場します。
その正体はいったい何なのか、謎が謎を呼びました。

そしてやがて、「ペンギン・ハイウェイ」と<海>の研究は別々のものではなく、一つの問題なのではないかという考えが湧いてきます。
アオヤマ君はそこにはお姉さんの不思議な力も関わってくるだろうと考えます。
そうして物語は後半の、全ての謎を解き明かす段階へ。
散々アオヤマ君達の邪魔ばかりしていた「スズキ君帝国皇帝」のスズキ君が最後に協力してくれたのは、やっぱりなと思いました。
ドラえもんのジャイアンも映画だと野比のび太に協力しますし、何となくそんな気がしていました^^

第31回日本SF大賞を受賞するくらいなので、ファンタジー色の強い作品です。
クライマックスはちょっと切なくもありました。
しかしこの一連の不思議な事件を経験したアオヤマ君は寂しさを感じながらも大きく成長し、立派な大人になっていくに違いないと思える終わり方でした


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「カラフル」森絵都

2014-07-01 23:36:28 | 小説
今回ご紹介するのは「カラフル」(著:森絵都)です。

-----内容-----
生前の罪により、輪廻のサイクルから外されたぼくの魂。
だが天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。
自殺を図った少年、真(まこと)の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならないのだ。
真として過ごすうち、ぼくは人の欠点や美点が見えてくるようになるのだが……。
不朽の名作ついに登場。

-----感想-----
冒頭からいきなり突飛な展開になりました。

主人公は死んだはずの「ぼく」。
プラプラという名の天使が言うには、
「あなたは大きなあやまちを犯して死んだ、罪な魂です。通常ならばここで失格、ということになり、輪廻のサイクルから外されることになります。つまり、もう二度と生まれ変わることができない。しかし、そんな殺生な、という声も高いことから、うちのボスがときどき抽選で当たった魂にだけ再挑戦のチャンスを与えているのです。あなたは見事その抽選に当たったラッキー・ソウルです!」
とのこと。
プラプラの役職はガイドで、「ぼく」の担当となりました。
「ぼく」を再挑戦の地に導いていくのが任務となります。

再挑戦とは、「ぼく」が前世で失敗した下界で、もう一度修行を積んでくることを言います。
そして修行とは、「ぼく」の魂がある一定の期間、下界にいる誰かの体を借りて過ごすことを言います。
この修行を、天使の業界では「ホームステイ」と言っているとのことです。

「ぼく」がホームステイすることになったのは、小林真という中学三年生の少年の体。
小林真は三日前に服薬自殺を図った少年で、いまだに意識が戻らず、危篤の状態が続いています。
プラプラによると、「ここだけの話、もうすぐ死ぬ」とのこと。
死んだら魂が抜けるから、「ぼく」が変わりに小林真の体に入って、しばらく体を受け継ぐということです。
そして一定の期間小林真として過ごして修行します。
修行が順調に進むと、ある時点で「ぼく」はおのずと前世の記憶を取り戻すことになっていて、前世で犯したあやまちの大きさを「ぼく」が自覚したその瞬間にホームステイは終了となります。
「ぼく」の魂は借りていた小林真の体を離れて昇天し、無事に輪廻のサイクルに復帰することになるとのことです。

天使のプラプラは「ぼく」が小林真として修行を始めてからも、「ぼく」の前に現れて助言をしたり忠告をしたりします。
小林真はなぜ服薬自殺を図ったのか、その理由がプラプラによって明らかになります。
9月10日、それが小林真の悲劇の一日で、立て続けに嫌な光景を見てしまい、精神的に大ショックを受け、ついに限界になってしまいました。
それを聞いて「ぼく」も真の両親や兄の満に嫌な感情を持ち、家では家族とろくに会話もしないまま過ごすことになりました。

中学校では桑原ひろかと佐野唱子という二人の女の子が登場します。
桑原ひろかは一学年下の後輩で、真の初恋の相手でもあります。
佐野唱子は真と同じ三年A組のクラスメイトで、さらに真と同じ美術部員でもあります。
この子はすごく勘が鋭くて、久々に登校した真を見て「真は以前の真じゃない」と突っかかってきます。
しかもプラプラによると「ぼく」が入る前の小林真には佐野唱子のこれといった記憶はなく、つまり真にとっては眼中にない存在だったとのことです。
そんな相手が真の変化を敏感に察知してあれこれ追及してきて、「ぼく」の入った小林真は戸惑っていました。

印象的だったのは以下の言葉です。

真の母親の言葉
「平凡な毎日のなかにも非凡な喜びや悲しみは生まれる」

真の父親の言葉
「いいことがいつまでも続かないように、悪いことだってそうそう続くもんじゃない」

「ぼく」の入った真の胸中の言葉
人は自分でも気づかないところで、だれかを救ったり苦しめたりしている。
この世があまりにもカラフルだから、ぼくらはいつも迷ってる。
どれがほんとの色だかわからなくて。
どれが自分の色だかわからなくて。


「いいことがいつまでも続かないように、悪いことだってそうそう続くもんじゃない」は特に印象的で、日はまた昇るという気にさせてくれる言葉です
最初は嫌悪感から家族に冷たい態度を取っていた真も、父、母、そして兄の満と話すうちに、段々と気持ちが変わっていきます。
意外と良い面があるんだなと気付くことになりました。
そしてやがて、真の体を真に返してあげたいと思うように。。。
しかしそれには、「ぼく」が犯した前世での罪を思い出さねばなりません。
「ぼく」は前世で一体何をしたというのか。
その結末を見て、なるほどな…と思いました。
「再挑戦」とはこういうことだったのかと思いました。
小林真のために何としても前世の罪を思い出そうとした「ぼく」の姿、格好良かったです。


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