今回ご紹介するのは「書店ガール4 パンと就活」(著:碧野圭)です。
-----内容-----
「書店に就職したいと思ってるの?」
新興堂書店アルバイトの高梨愛奈は就職活動を控え、友人たちの言葉に迷いを吹っ切れないでいた。
一方、駅ビルの書店の契約社員・宮崎彩加は、正社員登用の通知とともに思いがけない打診を受ける……。
理子と亜紀に憧れる新たな世代の書店ガールたちが悩み抜いた末に見出した「働くことの意味」とは。
書店を舞台としたお仕事エンタテインメント第四弾。
-----感想-----
※「書店ガール」の感想記事をご覧になる方は
こちらをどうぞ。
※「書店ガール2」の感想記事をご覧になる方は
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※「書店ガール3」の感想記事をご覧になる方は
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今作では西岡理子と小幡亜紀の登場は少しだけになり、新たな世代の書店ガールの話となります。
高梨愛奈は大学三年生。
西岡理子が店長を務め、吉祥寺一の売り場面積を誇る新興堂書店でアルバイトをしています。
物語の最初、川西紗保という五十代半ばくらいの女性が愛奈に話しかけてきます。
子供の頃に読んだ海外文学の本を探していて、名前も分からないその本を愛奈に探し当ててくれないか頼んできたのでした。
当初は「少女ポリアンナ」という本ではないかと思ったのですが、川西紗保によるとこの本ではないようで、一体どんな作品なのか愛奈は探していくことになります。
宮崎彩加は書店員歴五年目。
駅ビルの新刊書店で働いていて、大学二年の時からこの店でアルバイトを始め、卒業後は契約社員として働いているとのことです。
なので社会人歴は三年目、25歳になる年のようです。
二人は良き友達でもあり、彩加は西岡理子に憧れ、愛奈は小幡亜紀に憧れています。
冒頭、彩加は正社員で上司の日下部(くさかべ)茂彦に怒っていました。
彩加の提案したフェアが日下部に握り潰されたらしく、それで怒っていました。
日下部は事なかれ主義で最低限の仕事しかしようとせず、彩加は密かに「やる気クラッシャー」というあだ名を日下部に付けていました。
ただしフェアの件は、やるのが面倒だから握りつぶされたわけではないというのが後半で明らかになります。
この業界、テンションを高く保つのは難しい。
後ろ向きになる要因には事欠かない。
油断していると簡単にマイナーなテンションに引っ張られる。
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ここにいるからには少しでも前進することを考えるべきだ。
歯を食いしばっても。
彩加の書店業界で働くことに対するこの考えは大したものだと思いました。
見習いたいです。
そんな彩加に正社員に昇格する話が来ます。
しかし来年二月にオープンする茨城県の取手店に異動することになり戸惑います。
しかも正社員は彩加一人なので彩加が店長です。
愛奈が大学の友達の平井梨香、友野裕也(ゆうや)、佐々木峻也と話している時、書店業界の話題が出ました。
「書店業界こそ斜陽産業だしなあ。本なんてそのうち電子書籍に取って代わられるだろうから」
「全部ってことはないだろうけど、減っていくのは間違いない。それにネットショップがこれだけ便利になるとね。わざわざ本屋に行って買う必要もなくなってくるし」
斜陽産業はたしかにそうだと思いますが、本屋に行って本を買う必要もないというのはそうでもないかなと思います。
私は本屋に行って平積みされている本や棚に並んでいる本から何か良いものがないか探すのが好きで、そういう人は結構いるのではと思います。
今作では「酒飲み書店員の会」というのが名前だけ登場していました。
このシリーズでは色々な実在する会が登場するので興味深いです。
可能性という言葉はときに残酷に聞こえる。
もっと高いところを目指せ、もっとよりよいものを見つけろ。
そんなプレッシャーとセットになっているからだ。
これは愛奈の考えです。
本格的な就職活動の時期は3年の3月からとなっているものの、事実上就職活動に突入する時期を迎えている愛奈は、自分の目指す道が書店業界で良いのか、悩んでいました。
そして愛奈はギラギラとした就職活動に戸惑い、友達より出遅れていました。
宮崎彩加は静岡県沼津市に実家があります。
前田紀久子という伯母がいて、商店街で書店を営んでいます。
その隣で「レゼットリ」というトルコパンの専門店を営む大田英司という男が、商店街の活性化のために書店をブックカフェにできないかと紀久子に相談していて、紀久子は姪の彩加なら東京で大きな書店に勤めているしそういうのにも詳しいだろうと相談してきました。
彩加は自身の新しくオープンする書店の準備のほかに、伯母の書店のブックカフェ化にも付き合っていくことになります。
ただし彩加は人の店を改装しろと言っている大田のことを信用しておらず、露骨に不信感を露にしていました。
東京に住んでいると、感動するのはむしろ人工的なものの大きさだ。都庁とかスカイツリーとか、そうしたものに喜びを感じる。
彩加が愛奈と一緒に沼津市に帰ってきた時に胸中で吐露していたこの考えは同感です。
彩加は東京と沼津を比べ、ちょっと自嘲気味になっていました。
私の考えは、地方には地方の良さがあるのだから、わざわざ都会度日本最強の東京と人工的な建物で張り合うより、地方の良さで勝負するのが良いのではと思います。
愛奈と二人で沼津市の実家に行く道すがら、愛奈が近くで見る富士山に感激して写真を撮りまくっていたように、その地にしかない特色は良いものだと思います。
「本屋で本を見るときは、目的の本ではなくその両隣が大事ってよく言われるの。なぜならそこに選ぶ人の関心に近いものが置かれることになるから」
彩加のこの言葉はなるほどと思いました。
たしかに目当ての本の両隣にそれと近い本が置いてあるとそちらにも興味が行きます。
より多くの本を手に取ってもらうための、書店員さんの腕の見せどころだと思います。
愛奈は後半、レジをやっている時にクレーマーの客に絡まれ恫喝され、窮地に立たされます。
そこに現れたのが東日本エリアマネージャー兼吉祥寺店店長の西岡理子。
少しだけの登場ですが存在感は抜群にあり、「書店ガール1~3」で活躍したさすがの貫禄でクレーマーを追い払っていました。
「自信なんて、最初は誰も持っていないよ。
だけど、一生懸命あがいていれば、だんだん自分が見えてくる。これならできる、ということが増えてくる。それが積み重なって、自信っていうものになっていくんだよ」
彩加が愛奈に語ったこの言葉はかなり印象的でした。
積み重ねがやがて自信になるというのは、ほんとそうだなと思います。
やがて彩加は店長としてスタートを切り、愛奈は就職活動のスタートに合わせ、アルバイトを辞めることになります。
その区切りとして提案したフェアの企画が通り、愛奈は最後の大仕事に臨みます。
そのフェアとは『就活生に捧げる文芸書フェア』。
「直接的なノウハウじゃなくて、これから就活を始める人を励ますような、精神的な支えになるような、そんな本を集められるといいんじゃないか、と思うんです」とのことで、これは面白いと思いました
そして就活生に捧げる文芸書と聞いて私は真っ先に宮下奈都さんの
「スコーレNo.4」が思い浮かびました。
後にフェアの名前は『就活を考える』になり、文芸書だけでなく店全体でやる大きなフェアになるのですが、文芸書のラインナップで出てきたうちの5つの名前は私にとって印象的なものでした。
「何者」浅井リョウ
「シューカツ!」石田衣良
「格闘するものに○」三浦しをん
「フリーター、家を買う。」有川浩
「スコーレNo.4」宮下奈都
この5冊は私も読んでいてレビューを書いています。
ちなみに「何者」はラストが結構怖くて、果たして就活生の支えになるのか気になりました
そして「スコーレNo.4」はやはり出てきたかという心境です
読んだことのある作品がずらずらと出てきて、ワクワクしました。
愛奈の「これから就活を始める人を励ますような、精神的な支えになるような、そんな本を勧めたい」という思い。
やがて愛奈自身が就活戦線に加わっていくことになります。
参考書、面接対策、面接という就活の忙しい日々の中でも、そんな心の支えになる文芸書があると息抜きにもなって良いのではないかと思います。
※「書店ガール5 ラノベとブンガク」の感想記事をご覧になる方は
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※「書店ガール6 遅れて来た客」の感想記事をご覧になる方は
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