なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

アルツハイマー病の治療薬

2023年03月02日 | Weblog

 「ゼロから始める認知症診療」(文光堂)川上忠孝著を読み返した。一般医が認知症の本を一冊だけ持つとしたらこの本がいいと思う。(同著者の「ゼロから始めるパーキンソン病診療」もわかりやすい)

 認知症とは、認知症の病型診断、認知症の治療、認知症の合併疾患、さらには認知症と社会資源(主治医意見書の書き方)までわかりやすく書かれている。(認知症の画像は別の本で補う)

ゼロから始める 認知症診療

 

 アルツハイマー病の治療薬は、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)とNMDA受容体阻害薬(メマンチン)がある。

 

 ①コリンエステラーゼ阻害薬

 アルツハイマー病では脳内アセチルコリン系ニューロンの減少が認知症の主たる原因の一つとされるが(コリン仮説)、アセチルコリン自体を補充するという治療法はない。代わりにコリンエステラーゼ阻害薬で、脳内アセチルコリンの分解を抑制して、アセチルコリン量を増加させたのと同様の効果を期待する。

 ドネペジル(アリセプトⓇ)

 最高血中濃度到達時間(Tmax)は3.0時間、血中半減期(T1/2)は90時間(4日間)で2週間で定常状態になる。血中半減期がかなり長く、副作用発現時に中止しても効果が切れるまでしばらく時間がかかる。

 3mg/日(3mg錠1錠分1)から投与開始。1~2週後に5mg(5mg錠1錠分1)に増量。高度アルツハイマー病に対しては10mg/日(10mg錠1錠分1)まで増量可能。

 効果は「落ち込んでいる・意欲低下」の状態から引き上げるようなイメージ。抑うつ・無為・不安に対して効果がある。気分が高揚したり、興奮しやすくなったりすることも(減量~中止も考慮)。

 副作用は、下痢、嘔気・嘔吐などの胃腸症状、イライラ・不穏などの精神症状。出現率は1%前後のまれだが、高度徐脈を呈することも(経験あり、中止で軽快)。

 リバスチグミン(イクセロンⓇパッチ、リバスタッチⓇパッチ)

 アセチルコリンエステラーゼの阻害作用に加えて、ブチルコリンエステラーゼの阻害作用もある。ドネペジルよりも効果が大きい可能性があるが、ブチルコリンエステラーゼと認知症の関連はよくわかっていない。

 最高血中濃度到達時間(Tmax)は8時間、血中半減期(T1/2)は3.3時間とかなり短いが、貼付剤なので1日1回貼付で長時間にわたり経皮的に吸入する。

 適応は軽度~中等度のアルツハイマー病(重度を除く)。4.5mg/日1日1回から開始して、4週ごとに9mg/日→13.5mg/日→18mg/日に増量。早めの増量を行いたい症例に対しては、9mg/日で開始して4週後に18mg/日へ増量、も許可された。

 効果は、食欲低下に対しても効果があり、意欲低下+食欲低下が目立つ症例で試してみる。

 副作用は、下痢、嘔気・嘔吐。剥がせば、比較的速やかに副作用は軽減~消失。局所症状としての皮膚発赤がしばしば目立つので、剥離した部位と翌日貼る予定の部位に保湿剤(ヒルドイド)を塗布する。

 ガランタミン(レミニールⓇ)

 アセチルコリンエステラーゼ阻害作用に加えて、ニコチン性アセチルコリン受容体に結合してアセチルコリンに対する受容体の感受性を高める。

 最高血中濃度到達時間(Tmax)は1.0~1.5時間、血中半減期(T1/2)は8.0~9.43時間で、半減期が比較的短いため1日2回投与。

 ガランタミンは意欲低下などの陰性BPSDに加え、易興奮性などの陽性BPSDにも同時に効果が期待できる。「普段は何もせずボーッとしてばかりだけど、ちょっと何か言うと急に怒り出してしまう」ような症例が適応として合う。

 8mg/日(1回4mg1日2回)から開始して、4週後に16mg/日に増量。症状に応じて24mg/日まで増量可。(4mg錠、8㎎錠、6mg錠がある)

 

 ②NMDA受容体作動薬

 アルツハイマー病では異常なグルタミン酸放出による神経細胞へのノイズが認知機能障害の原因と考えられている(グルタミン仮説)。グルタミン酸による過剰な神経細胞への刺激を抑制し、認知症の諸症状を改善する。

 メマンチン(メマリーⓇ)

 中等症~高度アルツハイマー病が適応。コリンエステラーゼ阻害薬との併用ができる。(コリンエステラーゼ阻害薬で副作用が出たため中止した症例では単独投与されることはある。著者の経験として、軽度アルツハイマー病でも、陽性BPSDが目立つ時には単独投与を行うことはありえる。)

 陽性BPSD(易興奮性、暴言、徘徊など)に対する効果が期待できる。症例により過鎮静になることもあり、減量を考慮する。

 1日1回5mgから開始、1週間に5mgずつ増量。維持量は20mg/日。(5mg錠、10mg錠、20mg錠がある)高齢者で腎機能障害(Ccr<30)があるときは10mg/日で維持。必ずしも朝食後に投与する必要はない。(日中は陰性BPSD、夜は陽性BPSDのときは、朝にドネペジル、夕にメマンチン投与

 血中半減期(T1/2)は55.3~71.3時間と比較的長い。投与量によっては過鎮静だけでなく、めまい・ふらつき、眠気、食欲不振が出現する。

 

 使用しているのは、ドネペジルとメマンチンが主で、メマンチン単独投与もある。ガランタミンは1例しか使用したことがない。リバスチグミンは投与されている患者さんの入院時に継続使用(持ち込み分)で継続したくらい。(院内にはドネペジルとメマンチンしかない)

 

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