すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「雪の降る光景」第2章3

2006年11月10日 | 小説「雪の降る光景」
 「それでは総統、今日はこれで失礼いたします。何かあったら何でも私に申し付けてください。」
ハーシェルはそう言うと、総統とボルマンに軽く頭を下げて、私の前を横切った。
「俺はいつでもおまえの顔を思い浮かべながら人を殺してきた。」
私の前で立ち止まり、こう捨てゼリフを吐くと、彼はドアの前で私たちに向かってもう一度頭を下げて部屋を出て行った。

 この時の、この数十分間の再会が、私と彼の運命を歪めてしまったのかもしれない。いや、それは、私と彼がそれぞれ互いが絡み合うことの無い運命を背負っていたら、の話だ。私と彼が、私と彼の運命が、最初からこのような再会を果たすことを決定していたのだとしたら・・・。私と彼はこうやって、今までもそしてこれからも、―――前世でも、そして来世でも、―――避けることのできない運命に飲み込まれて、何か目に見えない動きに作用され続けるのだろう。互いに影響を受け合いながら死んでいき、そして互いにその影響を受けた生命のままで生まれてくるのだ。互いに姿形は変わっても、そして、相手から受けた影響というものが何か知ることは無くても、生まれ変わった私の前には必ず彼がいる。そしてまた、互いに憎み合い、惹かれ合い、影響を与え合いながら死んでいくのだ。・・・儚い。なんと儚いのだ。それは決して、「雪」というような美しすぎるものには似ても似つかないものかもしれない。だが、私とハーシェルの、まさしく不可思議としか言いようのない「縁」を思うと、雪の美しさに目を奪われた時のように、哀しくなってくるのだ。
 「あの夢」を見た日の朝ふっとよぎった不安―――「今の生活が崩れてしまうのだろうか。」という疑問―――は、あの時すでに形を持ち始めていたのだ。その証拠に、あの夢を見たのはあの時以来一度も無いのに、あの夢が、あの雪が、あの少女が、そしてあの涙が、あの日から私の心を強く捉えて放さないのだ。私は、自分があの日から徐々に、涙を、人間としての感情を、取り戻しかけているように感じていた。「人間」である私に、私は会ってみたい気もしたが、それは同時に、ナチスとしての私の命を奪うことになる。・・・そう。私はナチスであり、ナチスは「人間」ではないのだ。1人の人間として私は、彼と私が向かうべき破滅を予感していたが、ナチスとしての私は、それを認めるわけにはいかなかった。


(つづく)


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