すずりんの日記

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小説「雪の降る光景」第2章8

2006年11月28日 | 小説「雪の降る光景」
 収容所に着くと、私はまっすぐに屋上へは行かずに実験室に顔を出した。予定していない日に姿を見せることなど滅多に無い私に、みんないっせいに驚いてみせたが、私はそれを無視して、実験の一切を任せている部下の1人に、30分後に屋上に来るように言った。自分がハーシェルに万が一負けるようなことになった時のためではない。これも、演出の1つだった。
 屋上に開くドアの前で、私は立ち止まって腕時計を見た。9時1分。この5階建ての建物の屋上で、これから何が起こるのか、それは私をここへ呼び寄せた張本人のハーシェルにも予想することはできないだろう。なぜならば、私が屋上へ足を踏み入れた時、そこはすでに私が演出したドラマの舞台となるのだから・・・。私はゆっくりと鉄製の重いドアを開けた。私と彼の2人芝居の幕は上がったのだ。
 「必ず来ると思っていた。」
ハーシェルは、手すりにもたれかかったまま私を見ていた。
「妹は無事なんだな。」
「あぁ、今のところはな。」
ハーシェルは、一瞬殺気が途切れた私をあざけるように小さく笑った。私は彼の笑い声のする方向へ近づいていき、屋上の中央付近で足を止めた。
「おまえの妹、反ナチの男と付き合っているそうじゃないか!このことを総統は知ってるのか?知ってるわけがないよな!」
彼は高く上った太陽に向かって甲高く声を上げ、もうすでに自分が私に勝利したかのような錯覚に陥っていた。


(つづく)
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