「総統が知れば、おまえの妹も妹の恋人も収容所行きだ。そしておまえは総統への忠誠を2人の命と引き換えに誓うことになる。もしくは裏切り者のレッテルを貼られ、妹と一緒に収容所で死ぬか・・・。ふふっ。どっちにしても、おれの前から邪魔なおまえの姿は消えて無くなるというわけだ。」
ハーシェルは、そう一気にまくし立てると、ゆっくりと私に銃口を向けた。が、彼には私を殺す意志の無いことは明らかだった。銃は、あくまでも脅しなのだ。私にははっきりとそう言い切ることができた。なぜならば、今私の前にいる人間は、ゲシュタポではなく、あの臆病者のハーシェルなのだ。
普段から「虫けら」を殺すことには慣れているゲシュタポでも、同胞に銃を向けることを許されているはずは無かった。今の奴の心理状態は、ゲシュタポとしての理性を失い、完全に、学生であった頃の幼児性を取り戻していた。それゆえに、後先を考えず邪魔な者をむやみに痛い目に遭わせようとはするが、その相手が自分に従順になりさえすれば気が済むのだ。それ以上の状況の予測に関しては頭が働かない。・・・ということは、妹のアネットは人質に取られているどころか、今頃家で忙しく洗濯でもしていることだろう。
「奴に私を撃つ意志は無い」・・・とすれば、私の意志で発砲させれば、彼は間違いなく幼児性を爆発させる。すなわち、・・・発狂、だ。
「おまえがいなくなれば、おまえの地位はおれのものになる。」
「それはどうかな?」
「・・・なにっ!」
私は彼の言葉を左に感じながら、1メートルに満たない手すりの方へゆっくりと歩き出した。そして手すりに手をかけて振り向き、一瞬、腕時計を見た。9時12分。・・・まだ早い。
(つづく)
ハーシェルは、そう一気にまくし立てると、ゆっくりと私に銃口を向けた。が、彼には私を殺す意志の無いことは明らかだった。銃は、あくまでも脅しなのだ。私にははっきりとそう言い切ることができた。なぜならば、今私の前にいる人間は、ゲシュタポではなく、あの臆病者のハーシェルなのだ。
普段から「虫けら」を殺すことには慣れているゲシュタポでも、同胞に銃を向けることを許されているはずは無かった。今の奴の心理状態は、ゲシュタポとしての理性を失い、完全に、学生であった頃の幼児性を取り戻していた。それゆえに、後先を考えず邪魔な者をむやみに痛い目に遭わせようとはするが、その相手が自分に従順になりさえすれば気が済むのだ。それ以上の状況の予測に関しては頭が働かない。・・・ということは、妹のアネットは人質に取られているどころか、今頃家で忙しく洗濯でもしていることだろう。
「奴に私を撃つ意志は無い」・・・とすれば、私の意志で発砲させれば、彼は間違いなく幼児性を爆発させる。すなわち、・・・発狂、だ。
「おまえがいなくなれば、おまえの地位はおれのものになる。」
「それはどうかな?」
「・・・なにっ!」
私は彼の言葉を左に感じながら、1メートルに満たない手すりの方へゆっくりと歩き出した。そして手すりに手をかけて振り向き、一瞬、腕時計を見た。9時12分。・・・まだ早い。
(つづく)