第1章 出逢って初めて(1)
俺の名前は慎平。苗字は訊くな。
磯野慎平が絵に興味を持ち始めたのは、ここ半年くらいのことだ。
いや、別に自分で描く訳ではない。美術館に通って、人の描いた絵画を見るのが、この青年の目下の趣味なのだ。
今日も彼は、この町に唯一ある美術館で多くの絵を眺めていた。
今彼は、『特別展示室』にいる。
なんでもここには、1年前に東京で開催された絵画コンクールに入選した作品を一同に展示してあるらしい。
慎平は、興奮状態の中にいた。
面白いなあ。
こんな発想を持ったヤツが、同じ日本にいるんだ。
この色使いは独特だ。
この絵は、何をモチーフにしたんだろう。
いやむしろ、『これ』はなんだ?
この絵画コンクールの入選作品達は、慎平の興味を湧き立たせ、色々な方向から心を刺激し続けている。それはここに入った時から、今現在までも。
「本当にこれはなんだ?」
慎平は今、『大賞』を受賞した作品の前に立っていた。
この作品に描かれているのは、「青い炎」だろうか。
「これ火の粉かなあ?」
炎の中に、白い固まりが浮かんでいる。
「わからん」
それでも慎平には、この絵から湧き出てくる『力』のようなものは感じ取ることができていた。
なんと言うか、もの凄く強いパワーが上から押さえ付けられていて、その下で高い温度のまま往く場所だけが無くなって、そこから抜け出す術がなくなっているような。
一言でいえば、「悔しさ」だろうか。
そういうマイナスのエネルギーが、この絵に叩きつけられている。
こういう絵を描くやつってのは、どんなやつなんだろうな。
慎平は思ったが、まさか数週間後にこの絵の作者と知り合う事になろうとは、この時には思いもしなかった。
そうして、事件は起きた。