今日は、マスターの喫茶店が開いてから四半世紀が経つ記念日だ。
私は開店当時からこの店に通い続けている。
「お前は高校生だってのにここに入り浸ってな」
私は笑う。ここで出逢った少女と、私は結婚した。そして娘が生まれた。
まさかその娘がマスターの息子に盗られるとは思わなかったが。
今度はマスターが笑った。今、2人で昔を語り合っている。
そういえばマスターの息子さん、インターハイで3位になったこともあったな。
マスターはハンドルを回し、コーヒー豆を挽いている。今時手動である。
『機械に任せてたら人間駄目になっちまう』
いつだったかマスターがそう呟いていた。よく覚えている。
確かに人間は、色々なことが便利になった為に、見失っているものも多いのかも知れない。
マスターに、この旨いコーヒーを淹れる秘訣を訊いたことがある。
『伸一の奴も昔一度そんなことを訊いたな…』
マスターはそんな事を言い、はぐらかしてキチンとした答を教えてくれなかった。
今日、再チャレンジをしてみた。
「…自分の手を汚さなきゃいかんのだよ。今はやれパソコンだ、マシンだと自分の頭と体を使わない。それじゃ元気にやっていけんのだよ」
私は笑った。思い当たる節があったのだ。いや、今の人なら皆私と同じ感想を持つのではないか。
「御宅の娘がホームページ?にうちの店の宣伝をするって。ワシは断ったよ。伸一も同じ意見だったね。あいつは根っこでワシの気持ちが分かってる」
私はまた笑った。
「地道に、人の手でやるのが一番なのだよ」
そういえば娘夫婦は?
「今日は夕方に顔を出すって。そろそろ来るだろ」
「こんちゃ」
「今日は…あれお父さん来てたんだ」
噂をすれば。
「ウチの大常連」
マスターが笑う。今日来ないわけがない。
「お義父さん、プレゼント」
「え?」
「この携帯の画面見て下さい。お店のホームページ作ったんですよ」
「だから美樹さん…」
「俺も今日知ったんだよ」
けれど、マスターは笑顔だった。
第20回文章塾特別企画、お題「「旨いもの」で思い浮かぶ文章」への投稿作品です。
この作品に対する、文章塾塾生の皆さんからのコメント、僕のそれに対する返信のコメントは、こちらから。
私は開店当時からこの店に通い続けている。
「お前は高校生だってのにここに入り浸ってな」
私は笑う。ここで出逢った少女と、私は結婚した。そして娘が生まれた。
まさかその娘がマスターの息子に盗られるとは思わなかったが。
今度はマスターが笑った。今、2人で昔を語り合っている。
そういえばマスターの息子さん、インターハイで3位になったこともあったな。
マスターはハンドルを回し、コーヒー豆を挽いている。今時手動である。
『機械に任せてたら人間駄目になっちまう』
いつだったかマスターがそう呟いていた。よく覚えている。
確かに人間は、色々なことが便利になった為に、見失っているものも多いのかも知れない。
マスターに、この旨いコーヒーを淹れる秘訣を訊いたことがある。
『伸一の奴も昔一度そんなことを訊いたな…』
マスターはそんな事を言い、はぐらかしてキチンとした答を教えてくれなかった。
今日、再チャレンジをしてみた。
「…自分の手を汚さなきゃいかんのだよ。今はやれパソコンだ、マシンだと自分の頭と体を使わない。それじゃ元気にやっていけんのだよ」
私は笑った。思い当たる節があったのだ。いや、今の人なら皆私と同じ感想を持つのではないか。
「御宅の娘がホームページ?にうちの店の宣伝をするって。ワシは断ったよ。伸一も同じ意見だったね。あいつは根っこでワシの気持ちが分かってる」
私はまた笑った。
「地道に、人の手でやるのが一番なのだよ」
そういえば娘夫婦は?
「今日は夕方に顔を出すって。そろそろ来るだろ」
「こんちゃ」
「今日は…あれお父さん来てたんだ」
噂をすれば。
「ウチの大常連」
マスターが笑う。今日来ないわけがない。
「お義父さん、プレゼント」
「え?」
「この携帯の画面見て下さい。お店のホームページ作ったんですよ」
「だから美樹さん…」
「俺も今日知ったんだよ」
けれど、マスターは笑顔だった。
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