おっちーの鉛筆カミカミ

演劇モノづくり大好きおっちーのブログです
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獅子舞

2008年01月31日 22時30分42秒 | 文章塾
 …この舞台の題名は『獅子舞』。「失われた日本の正月を取り戻す」というテーマだ。
 俺は獅子舞になっていた。踊る踊る。たった1人で。
 照明も音響もわからない。台詞もわからない。舞台の上に、俺がただ独り。舞台と客席。客が居るかも判らない。
 …おどる、おどる…


 某大学の演劇部、専用の稽古場兼劇場―

「お前らこの忙しいのに花火なんか見てんなよ!」
「だってニューイヤーだよ。ね、部長も一緒に花火見よ」
「そんな余裕全然ないだろ! 明日…てかもう今日だよ!今日の夜が本番なんだぞ!」

  ひゅう~~っぱーん

 あと19時間しかない。それで舞台組んで照明吊って、進行プランも確認しなきゃならない。
 何故こうなったかって? 脚本担当の部員が書く戯曲の完成が大幅に遅れたのだ。今の今まで稽古だった。
 しかし彼は責められない。年末は補習と追試を乗り切るので精一杯だったらしいから。
 台本が出来て、徹夜で稽古して何とか形になった。みんな頑張ったと思う。だが稽古から開放された途端、この体たらく。
「仕込みって嫌いなんだよねえ」
 皆が言う。全く、緊張感のない…誰だこんな時期に公演やろうなんて言い出したのは。…俺か。
 仕方ない…俺は1人で舞台を組み始めた。今晩も徹夜かな…

 釘を叩いていると、突然獅子舞が現われた。俺は大して驚かない。今回の小道具だ。誰かの悪戯だ。
「おい」
 俺が言うと、誰かに肩を後から押された。よろける。そこに獅子舞が頭を噛みついた。
「ぎゃっ」
 叫ぶと、意識が急速に遠のいた…


「部長、初日の出すごいよ!」
 …ハッ?
 劇場の外から皆が呼んでいる。
 仕込みはどうなった? 本番は間に合うのか?
「部長頑張ったじゃん」
 何を頑張ったというのだろう。俺は、お前らは今まで何を…
「ほらっ」
 腕を引っ張られる。無理やり外に引きずり出される。
 夜の帳はゆっくりと引き上げられ、現れる紫色の垂れ幕。そして一点の光。
「…」
 俺は何も言葉を吐くことなく、ただ昇ってくる朝日を見詰めた。



 第21回「文章塾という踊り場」投稿作品です。
 お題は「お正月らしい、お正月を感じさせる作品」。
 この作品に対する文章塾生の方々のコメント、それに対する僕の返信はこちらから。
 ではでは。

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