第6章 夢、追い駆けて(一)
「では本日も皆さんのお相手は今井麻衣子……ミキシング恵美ちゃんでお送りしました。
では、バイ、ナラ。」
麻衣子がマイクミキシングのスイッチをオフにすると、
「あぁああ~~~っ!!! つっかれた~~っ 今日も一日終わったわ~」
オヤジさんのような言葉を吐く。
ガラス越し、ミキサーの前に座る渋谷恵美の顔を見ると、どこか不機嫌そうだ。
「どうした? 恵美りん?」
恵美はブース内の麻衣子の方は向かずに、音響機器の手入れなんぞをしている。
『恵美ちゃん?』
マイクをオンにして麻衣子は恵美に声を掛けるが、恵美は応答しない。
麻衣子はけげんに思ってイスから立ち上がり、ラジオブースの扉を開けた。
恵美はブースより出てきた麻衣子の姿をチラリと目だけで見て、そのまま自分の作業を続けている。
「恵美ちゃん、今日どうだった?」
「麻衣、」
恵美が初めて口を開いた。
「ん?」
「放送の中で私の名前出さないって、あれほど念を押したよね」
「そうだっけ? 忘れちゃった……」
麻衣子はわざとらしく舌を出す。
恵美は話を続けようとする、
「今度私の…」
「だって恵美ちゃんもこのラジオ番組作ってるじゃん!」
麻衣子は恵美の言葉にかぶせて自分の主張を大きな声で伝えようとする。
その言葉を聞きながらも、恵美は不機嫌そうな様子を崩さない。
「だから恵美ちゃんの名前も、あたしは放送の中で出したいんだよ!!」
「今度私の名前出したら、しばらくここサボっちゃうからね」
恵美ははじめて麻衣子の方を向いて、言葉を発した。
「……えーーー??」
「わかった!?」
「うーん、わかった……かもしんないね」
恵美はしばらく間を置いたあと表情を崩し、「しかたないな」といった顔をする。
恵美は気を取り直して、
「じゃあ明日の収録内容の打ち合わせしよっか」
毎日繰り返している言葉を口にした。
「流す曲のリクエストは考えてきた?」
「うーーん……」
「麻衣、どうしたの?」
「ちょっと気分乗らないからさ、校舎ん中散歩してきていい? ちょっとだけ!!」
「いいけど……そんなに長くはダメだよ。私帰っちゃうよ」
「わかった! ちょっと行ってくる」
麻衣子は放送室を小走りで出て行った。
ひとり残される恵美。
「しかたない……今日も一人で構成考えますか…」
恵美は意外にこの時間が好きであった。
たぶん麻衣子は、明日の収録内容のことなど考えたくないのだ。
メンドーなのが……考えることが、大嫌いな性格なのだ、麻衣子は。
恵美には、そういう麻衣子の性格にあこがれる部分もある。
もちろん、「時には」という副詞が必ず付いてのことであるが。
恵美は明日の放送における話題や、途中で流す音楽について考えをめぐらせた。
恵美は毎日のこの時間が好きであった。
たぶん麻衣子は恵美が探しに行くまでここには戻ってこない。
麻衣子は恵美のことを待っている?のだ。
自分で時間を区切ることも出来ないのだ、麻衣子は。
「でも……私がいなかったら……」
麻衣子はどうなるのだろう。ときどき恵美はそう思う。
麻衣子には成長して欲しい。
別にすぐでなくていいから、ゆっくりでいいから。
私は麻衣子の前から、いついなくなるか分からないのだ。
* * *
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でもどんな感じで絡んで、どういう人間関係が繰り広げられるのかは、結構ご期待くださってもいいかな……いいですよねっ?……頑張りまっす
あぁとっても過分なお言葉……恐縮ですぅ~
もうちょっとペース早く出来たらいいんですけれどもねえ~……
でも頑張って趣味と仕事の両立チャレンジしてみますねっ
ありがとうございますっ
近々矢菱さんの作品も読みに参りますね~
ではでは~
ラジオのあっちとこっちの世界みたいな。
そのふたつの世界がきっと絡んじゃうんですね!ね?ね!
・・・なんて、勘ぐってみたりするのでした。
こういう透明感ある人たちの心のふれあいみたいな世界、僕には逆立ちしてもできないなぁ!