第5章 再会(1)
空の上の雲は飽きもせず、雨を落としてくる。
サーーー……と雨音のノイズが絶え間なく聞こえている。
ラジオから流れているのは、耳に心地よいナンバー。
田中みどりは窓を閉め、ラジオの正面にある椅子に腰を下ろした。
すると音楽が止み、いつものやかましいDJが言葉を並べ立てる。
あぁ、今いい感じだったのになあ。
みどりはさっきまで流れていた音楽が、頭の中でこのDJのやかましい口調に押し流されるのを惜しんでいた。
このラジオ番組の題名は、『サンライツ・セッティング』。
DJの名前は、今井麻衣子。あくまで自称、ではあるが。
今聴いているこれに関して、分かっていることはそれだけしかない。
電波の周波数は、どのラジオ局にも当てはまらない。ミニFM放送局ってやつだろうか。
謎だらけ、である。
けれどみどりは、ピコタンにいる間はいつもこの放送を聴いている。
その理由は、この番組で流れる、音楽の選曲が素晴らしいからである。
時々、みどりが聞いたことのある曲も流すが、基本的にはあまり世間で知られていないナンバーが多い。
それが、いちいちセンスのいい、素敵な曲ばかりなのである。
だから、みどりはこの番組のファンになったのだ。
ただし、曲と曲の合間、この今井麻衣子というDJのお喋りになると、はいはい、という気分になる。
もっと頑張んなさい、というのか、保護者になった気分、というのか、迷いなく突っ走る今井麻衣子の暴走に、もし隣にこの子がいたら優しく諭してあげたい気持ちになるのである。
しかし決してプロの仕事ではないが、この今井麻衣子の話を聞いていると、なぜか微笑ましい気分になってくる。
これも「魅力」というものの一つの形かもしれない。
そんな風に感じながら、みどりはこの放送を聴いていた。
早く梅雨が終わるといいのにね。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
何かしら?
みどりはぱたぱたと玄関に向かう。先生と愛奈さんは外に出掛けている。今、ピコタン絵画教室にいるのは、みどりと、アトリエにいる水原将だけである。
みどりがドアのノブに手を掛ける前に、戸が開いた。
ガチャッ
「失礼するぜい」
中肉中背の、みどりと同じか、少し若いくらいの男が扉の隙間から顔を出した。
「はい、ご用件は?」
男は柄の悪い、言ってしまえばゴロツキのような風貌であった。みどりは少しひるんだが、責任というものがある、毅然と対処する。
「こちらに水原君という男はいるかな?」
そう言ったのはゴロツキ男ではなかった。どうやらその後にもうひとり男がいるらしい。落ち着いた感じの物言いで、少しみどりは緊張を解いた。
「水原将さんなら、奥にいますが、どんなご用件ですか?」
「いればいいんだよう!」
ゴロツキ男が大きく扉を開けて、中にヅカヅカと入ってきた。
「ちょっとっ!」
「すまんな、失礼する」
そう言いながら入ってきたもう一人の男は、かなり大柄である。体格もがっちりしている。
フランケンみたい……
みどりは瞬間的にそう思ったが、その男は、帽子とサングラスをしていて素顔がよく見えない。
「あのっ、困ります!」
「うるっせーなあ!」
ゴロツキからは、あまり恐怖を感じなくなっていた。ただ嫌悪感だけがある。
「長居はしませんから、心配なさらずに」
大柄な男の発する言葉は紳士である。
それを聞いた瞬間、みどりの中でデジャヴのような、以前感じたことのある感覚が思い起こされた。
いつの事だろう。思い出せない。記憶に霧がかかっているように、はっきりとしない。
二人の男はドカドカと奥に進んでいき、そのまま将のいるアトリエに入ってしばらく出てこない。
中から話す声が聞こえるが、内容までは聞き取れない。
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おっちーさんの手にかかるとゴロツキたちまで人間味のあるキャラなんですね!
まだ会社に勤めてないので。
極々マイペースな生活っぷりなので、マイペースに思ったことをやっています。
すみません、いきなりで突然な再開で。
話の筋なんて憶えてないですよねえ~(汗
書く本人すら怪しいものでしたから(笑)。
登場人物は、全部僕の視点フィルターをかけて描いてますから、こんな感じになります(笑)。
人間味があると言っていただけて、嬉しいです。ありがとうございます!